第48話 力試し#3
「それじゃあ、あんたの番をとっとと始めるわよ!」
「......はい?」
学院のテラス。昼食を取るように固まって座っていたラスト、リナ、グラート、フェイルの所にルクセリアとどこかやつれた顔をしたサラシャがやってきた。
サラシャの顔を見てなんとなく察したカイであったが念のためにルクセリアへと質問してみる。
「えーっと、何を......ですか?」
「決まってるじゃない。あんたの力試しよ。全員の実力を見るってことで模擬戦したというか、あんたのを見るついでに他の二人とも戦ったのに、メインディッシュ頂いてないっておかしいと思わない?」
「は、はぁ......」
「ってこと、授業が終わったら正門に集合ね。場所はすでに確保してあるから。それじゃ」
ルクセリアは自分の言いたいことを告げ終わると軽い足取りでこの場を離れていった。
そして、その後ろを本当に申し訳なさそうにサラシャが後ろを歩いていく。
「これは諦めた方がよさそうなやつだね」
「もはやあそこまで来ると戦闘狂の域じゃないか?」
「域じゃなくてまんま戦闘狂よ。はぁ、ラスト、私の知り合いがごめん」
「リナが謝ることじゃないよ。にしても、どこでやるんだろう?」
*****
「さ、ついたわよ。私の家――――ワールスト邸にね」
授業終わり、待ち合わせしていたルクセリアに連れられたラスト達は巨大な豪邸を目の前にしていた。
普通の一軒家が2,3個入りそうな池付きの庭に石畳の道が続いていき、その先には横に長く伸びた屋敷が建っていた。
そして、門の前にはルクセリアの帰りを待っていたかのようにメイドや執事が出迎えるように並んで頭を下げる。
「「「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」」」
「えぇ、ただいま。それで、“地下”は今空いてる?」
「はい、現在は誰も使用しておりません」
「わかったわ。それじゃあ、そこまでは私が案内するから皆は各々の作業に戻って」
「「「「「かしこまりました」」」」」
ルクセリアとメイド達のやり取りを見ていたラスト達は改めてルクセリアが名家のお嬢様であることを理解した。
サラシャがまるで友人のような距離感であるので勘違いしそうになるがこれが本来の姿なのだと。
とはいえ、これだけの名家に生まれるとそれなりの重圧もありそうだが......
「さ、さっさと行くわよ」
ルクセリア本人はむしろ自分がお嬢様であるという自覚はありつつも、お嬢様という立場はあまり意識してない感じのようだ。
そして、ラスト達は壁や天井に装飾が施された廊下を進んでいくと途中でドアを抜けて階段で下に降りていく。
その階段をしばらく降りていくと再びドアがあり、そこを抜ければそこには十分に動き回れるほどの巨大な空間が広がっていた。
広々とした奥行に20メートルほどまである高さ。ここが地下であるということを疑うほどにはこの空間は立派過ぎた。
「さて、早速だけど始めるわよ。準備はいい?」
「え?......あ、はい」
ルクセリアとラストが空間の中央に適度な距離を取って相対し、他の4人は壁際に立つと前回の模擬戦同様サラシャが審判を務めた。
そして、もう戦いを始めようとするルクセリアに対して、ラストは質問権を求めるように手を挙げた。
「あのー、僕は一体どこまでの力を示せばいいですか?」
「は? なに言ってんの? 全力に決まってるじゃない」
「全力って......それって憤怒の力を使うことになるんですが」
「だから、それを使えって言ってんの。というか、それを使わないんならぶっちゃけ見る意味ないし」
「......わかりました」
ラストは諦めたように軽くため息を吐くと右手に憤怒の悪魔の魔力を流していく。
その瞬間、右腕は禍々しく真っ黒になるが、前回のバズー戦の影響か武骨な甲冑がつけられたような感じではなく、肌自体が黒く染まったような感じに変化した。
そして、右側の歯が鋭い八重歯のように尖り、さらに右側の額からは角が生えた。
その姿を見たルクセリアは準備運動するように手首足首を回しながら感想を述べる。
「それが悪魔の力? なんか中途半端じゃない?」
「これが今僕が扱える全力です」
「......ま、あんたも訳ありってことね。いいわ、それで勘弁してあげる」
ルクセリアが銃を構えるとラストも腰に携えた剣を両手で握って構えた。両者が戦闘準備を入ったことを確認するとサラシャは片手を頭上に上げ、合図とともに振り下ろした。
「始め!」
「......っ!」
サラシャの言葉とともにルクセリアの目の前からラストの姿が消える。その目で追いきれない速さに目を見開くと気が付けば大振りに構えるラストの姿があった。
ラストが剣を横薙ぎに振り払うが、それはルクセリアが大きく体を逸らしたことによって躱される。
また、ルクセリアは体を逸らした反動で伸ばした腕の進行方向がラストに向くとそのまま引き金を引いていく。
撃ち出された二発の銃弾はほぼゼロ距離であったにもかかわらず、ラストが後ろに下がると同時に躱された。
そして、ルクセリアが態勢を立て直すためにバク転すると正面から地面を抉るような炎の斬撃が飛び込んできた。
ルクセリアは咄嗟に横に転がって直撃コースを避けていく。だが、その避けた隙を狙うようにラストが差し迫ってくる。
「やるじゃない。けど、舐めんじゃないわよ!――――竜巻乱弾」
ルクセリアは銃口を真下に向けると自身を中心とした竜巻を作り出した。
そして、撃ち側から銃弾を放って、竜巻の斬撃属性を利用して細分化された銃弾を竜巻の外へと拡散していく。
その石粒のような細かい弾は勝負を決める威力はないものの、その一つ一つに斬撃属性が乗っているため直撃すれば、切り刻まれるような痛みも生じる。
「正直、あたしがこんな守りのようなムーヴをするなんてね」
「まだですよ!」
「っ!?」
瞬間、ルクセリアの周りを忙しくなく動いていた風は一方向から切り裂かれたによって動きを止めた。
そして、ルクセリアの目の前からは正面から堂々と斬り込んで来たラストが飛び込んでくる。
「なめんなっ!」
ルクセリアはラストの剣の突きを躱すと顔面に銃口を向けて引き金を引いた。しかし、それはラストに避けられると今度は反撃される。
互いの一進一退の攻防が続くようにその場には剣と銃が交わる音、銃弾が放たれる音、両者の攻防による手の残像が色濃く響いていた。
そして、ラストがルクセリアの集中が剣の捌きに重きを置いていることがわかると足元の機動力を奪うように前に出てる片方の足を踏んだ。
その瞬間、ルクセリアの意識が一瞬下に向くと同時に僅かに体勢がよろめいた。そこにラストは斬りかかっていく。
「勝負あり」
サラシャがそう判断した時にはルクセリアの首筋にはラストの剣が寸前で止まっていた。そして、ラストは剣を下ろすとすぐさま謝る。
「あ、すみません! 足を踏んでしまって!」
「問題ないわ。これも立派な戦略だしね。それにこればっかりは清々しい完敗よ。
下手にあんたに“悪魔の力を全部出せ”とか言わなくてよかったわ」
ルクセリアは悔しさはありつつも割に晴れやかな顔でそう告げた。そして、そこにサラシャがやってくる。
「さて、お嬢様。これでわかったでしょう? お嬢様はまだ最強ではないし、お嬢様に勝ったラスト様でさえてこずる魔族もいたのです。それが悪魔ともなると――――」
「わかってる。わかってるってば。要はもっとチームワークを意識した戦いを考えろってことでしょ?
大丈夫よ。自分の強さを誇っても奢るような真似はしないわ」
「十分してたようにも思えますが......まぁ、わかってくださったなら良かったです」
サラシャは安堵したように息を吐くとラストに向かって「ありがとうございました」と頭を下げた。
これにてルクセリアのワンマン特攻の意識は消え――――
「にしても、私とラストが前線で暴れれば十分じゃない?」
「「「「「......」」」」」
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