第47話 力試し#2
「さて、次はあんたよ、リナ」
「はぁ......」
気合十分といったルクセリアの顔にリナは思わずため息を吐く。
すると、そんなあからさまな反応をされたことにルクセリアは思わずムッとした顔をする。
「なによ、そんな反応しなくたっていいじゃない。あんたも特魔隊ならもう少し好戦的にいなさいよ」
「そこに割く労力はないわよ」
しかし、リナも面倒ながら立ち位置につくと腰にある鞘から剣を引き抜いた。
リナが戦闘態勢に入ったことを確認するとルクセリアは口角を上げてガン=カタの構えになる。
「サラシャ、合図お願い」
「わかりました。それでは――――始め」
その直後、両者の背後にはそれぞれ氷のつぶてと風の槍が多数出現していく。
それは動き出すと互いの中央でぶつかりその場には冷気が広がっていった。
「凍草」
その中を突っ切るように走り出したルクセリアに対して、リナは足元から氷の草を扇形に展開して足の踏み場を消していく。
加えて、その氷の草はルクセリアが頭上を通過を確認した瞬間、葉が針のように伸びて攻撃を加えていった。
しかし、ルクセリアは風を操る魔術師なので、自身から風を発生させながら体重移動とともにその攻撃を避けていく。
その上で、手に持つ銃をリナに向けるとそこから斬撃を伴った風を乱発した。
「乱風斬」
「冷蒼の針剣」
リナに向かって風の弾丸が多数向かって来る。
それに対して、リナは正面から迎え撃つように剣先をルクセリアに向けると剣に冷気を纏わせて素早く突いた。
その瞬間、冷気を纏った刺突の衝撃がルクセリアの弾丸を弾きながら正面にやってきた。
ルクセリアはすぐさま真下に銃を撃つと高度を上げて回避していく。
しかし、その冷気は僅かにルクセリアの足を凍り付かせた。
それによって、絶妙なバランスで保っていたルクセリアの空中機動は氷の重さの分僅かに傾いた影響で、全身も傾いていく。
その隙を逃さないリナは氷の階段を作っていくと一気に駆け上がりからの跳躍でルクセリアよりも頭上を取った。
そして、自重のままに落ちていくとともにその剣をルクセリアに向かって振り下ろす。
「なめんなっ!」
ルクセリアはその剣を左手の銃身で防ぐと右手の銃をリナに向ける。
素早く引き金を引くが、リナはそれを顔色一つ変えずに躱し、左手をルクセリアの腹部に押し付ける。
「これで終わり――――」
「だから、なめんなって言ってるでしょ――――爆風乱舞」
「!?」
ルクセリアは自身の胸の前で圧縮した風を作り出すとそれを一気に解放した。
その直後、膨張した風が衝撃波を伴って爆発を起こした。
それは火炎を伴うものでなかったにしろ、ルクセリアの風は斬撃属性があるので爆発とともに四方八方に放たれた斬撃が爆心地にいる二人を襲うことは必然であった。
リナは咄嗟に氷の盾を作り出すも咄嗟ゆえの強度の弱さに爆風で盾が壊され、再び瞬時に盾を作り出すも衝撃波、斬撃と繰り返し滑るように地面に着地した時にはリナの体の所々からは切り傷による出血をしていた。
また、それはルクセリアも同じでルクセリアは自ら爆風を作り出したこともあり、リナより防御態勢がコンマ数秒遅れた影響で一発目の爆風を直撃、そしてその影響で衝撃波も喰らって吹き飛ばされる。
しかし、その後は自身に風を纏わせて飛んでくる斬撃を勝手に躱すようにすると地面を転がりながら着した。
両者の間には爆発による砂煙が吹き荒れている。
それが僅かに晴れて隙間が見えた時、リナは僅かに眉を寄せてキレたような低い声で告げた。
「何考えてんの? あんな近距離で......自爆でもする気?」
「本当の戦闘だったらあんな状況でもそう簡単に諦めがつくものじゃないでしょ?
だから、私も状況を打破すべく抗っただけ。それに何か問題でも?」
「あっそう。なら、とっととその長く伸びすぎた鼻っ柱叩き折ってあげる」
「へぇ、あんたがあたしを超えるって? 実力は認めるけど、本気出せば負けることはないわね」
「ほんとウザい」
「お互い様よ!」
リナとルクセリアの魔力が膨張していく。その影響で風が強く揺らぎ、修練場では砂埃が舞い上がっていく。
互いに互いのことしか見えていないのか、もはや周りに対する影響が欠如している。
そのまま両者がぶつかればこの場が大変なことになることは間違いない。
そして、両者がその魔力のまま動き出し交わる直前、二人の間に割って入るようにサラシャとラストが介入し、それぞれ剣をいなすなり止めるなりして二人の勝負を中断させた。
「ふぅー、危うく死ぬかと思いました。というか、どちらか一方でも止めるのを失敗してましたら、私達のどちらか死んでいましたね」
「そうですね。僕も悪魔の力があるとはいえ、主体は人間なので喰らってれば死んでたかも」
「さて、今回に関してはどちらが悪いかハッキリしてますね」
サラシャはメイド服についた砂埃を手で払いのけるとギロリと睨んだ顔でルクセリアを見た。
そんなじーっとした視線を送られるルクセリアは自覚が多少なりともあるのか汗をかきながらも決して目を合わせようとしない。
そんなルクセリアを見てサラシャは「仕方ないなぁ」という意味が含まれてそうなため息を吐くとルクセリアに告げた。
「お嬢様の負けん気が強いことは大変結構なことです。
ですが、先ほどの攻撃はリナ様の反応が少しでも遅れれば確実な殺傷沙汰となっていました」
「そ、そうね! でも、現に防いだということは私はリナに防げるだけの技量があると分かっていたからしたまでで――――」
「お嬢様? その考えは些か......いえ、十分に身勝手な理由だと理解して発言していますか?」
「......はい」
サラシャに圧をかけられたルクセリアは親に怒られている子供のようにシュンとした顔をしてどんどん覇気を小さくしていく。
そんな姿を見たせいか毒気が抜かれてしまったリナは最後に一つ大きなため息を吐くとラストに告げる。
「ごめん、ラスト。ちょっとムキになってしまったみたいで」
「大丈夫。公式戦でもない限り二人の戦いがそうそう見えることはないからね。
とってもいい勉強になったよ。それよりも、さっき強く手首掴んじゃったけど痛くない?」
「大丈夫。ラストの気遣いがちゃんと伝わってくるような絶妙な力加減だった」
「そ、そっか......」
ラストはあの一瞬の出来事を思ったよりも見抜かれていたことに恥ずかしさを感じる。
そんなラストを見てリナも思わず笑みを浮かべた。
「サラシャ、あそこで仲良くイチャイチャしてるのに私達は仲良く出来ないの?」
「い、イチャイチャなんてしてませんよ!?」
「へ......へんな理由で責任から逃れようとしてもダメ」
「そうですね......二人は二人の事情があって、私達には私達の事情がある。それだけのことです。
それよりも再び私と仲良くしたいのならまず初めに自分が行ったことに対してやるべきことがあるんじゃないんですか?」
「うぅ......」
ルクセリアは再び悲しい顔をしてその存在感をどんどん小さいものにしていく。
そして、もはや子供にしか見えなくなったルクセリアはサラシャに向けて謝罪を述べた。
「ごめんなさい......」
「相手は私じゃないでしょ?」
「!......ごめんなさい」
「私は別にいい。それよりも、この騒ぎの収集をチャラにしてくれるなら許すことにするわ」
そう言ってリナが目線を送った方向には修練場の衝撃にわらわらと集まって来た教師達。
その結果、ラストがルクセリアと戦うことはなく、その後はルクセリアが修練場に行くことはしばらく出禁になったという。
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