第46話 力試し#1
「はぁ、結局ロクな敵はいなかったわね」
「私達はロクな仕事すらしてないけど」
砦から戻ってきたラスト達は依頼報告のために学院に戻ってきた。
しかし、その中で疲れている者は誰一人おらず、もっと言えば実質的に戦闘を行ったのは結局ルクセリア一人であった。
砦にも大小さまざまな魔物が住んでいた。しかし、それすらもルクセリアの前ではザコ同然で、もはやちょっとしたピクニックに等しい。
そして、前を歩いていると正面に人だかりが出来ていた。そこにいたのは大勢の生徒とそこに囲まれる一人の男性教師。
「誰だろう、あの人」
そう告げるラストにフェイルが答える。
「あの人はマリエス=ハイドライト先生だよ。授業が面白くて、よく生徒の相談にも乗ってくれたり、戦闘面でのアドバイスもしてくれたりとで人気なんだ。ああいう光景も度々あるよ」
「そうなんだ。すごい先生なんだね」
そんな話をしているとマリエスもラスト達の集団に気付いたのかメガネをかけた温厚な笑みを向けた。
そして、生徒の輪から謝りながら抜け出していくとルクセリアに声をかけていく。
「ルクセリアさん、ようやくあなたのお眼鏡に会うメンバーと出会うことが出来たんですね」
「そうね。でも、肝心の集団戦闘という面でまだ感覚が掴めないのよ」
「はは、それは仕方ないですね。ルクセリアさんはこれまでずっとソロで狩っていたんですから」
「それもそうだけど、今回の討伐依頼の難易度もあるのよ。さすがに魔物程度じゃ集団で戦う意味がないわ」
「それはルクセリアさんだけだと思いますが......」
マリエスも思わずルクセリアの発言には苦笑い。恐らく今回の遠征でどんな感じの戦闘だったのかある程度予想が出来たのだろう。
すると、マリエスはチラッとラストの方へ目を向けて、ラストと目が合う。すぐさま目を離したかと思えば、ルクセリアに告げた。
「では、私の方でもルクセリアさんに見合うような依頼を探しておきますよ。
といっても、ルクセリアさんの実力でいえば、そのような討伐依頼は基本特魔隊の仕事になるでしょうけど」
「そうよね~、まだ学生って肩書のせいでホント苦労するわ。別に私だったらいいんじゃないかと思うんだけど」
「特例を作ってしまうとルールとしてき規律が緩くなってしまうのを恐れたのでしょう。
いくら強かろうとも自分の一つでルールがねじ曲がってしまえば、もはやルールなど名ばかりになってしまうでしょうね」
「そこら辺の理解はちゃんと私にもあるわよ。だから、こうして今もこの肩書に甘んじて受け入れてるんじゃない」
「なんともルクセリアさんらしい受け答えですね。では、私はルクセリアさんばかりに贔屓するわけにはいかないのでこれで」
そう言ってマリエスは背を向けて歩いていく。その際、再びラストをチラッと見た。
その瞬間、ラストは確かなチリッとした嫌な感覚が体に纏わりつくのを感じた。
しかし、その感覚はすぐにまるで気のせいであったかのように消えていく。
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場所は移って修練場、そこには先ほどと同じメンバーが揃っていた。そして、ルクセリアが一人ラスト達の前に立つと告げる。
「とりあえず、現状私達に見合うような依頼がない以上、仕方ないから訓練にすることにしたわ。
で、実際の所、私はあなた達の実力を知らないから今回はそれを試させてもらう。
もちろん、戦闘員じゃないフェイルは除くとして、それからサラシャもわかってるから残りの三人ね」
「やっぱり私も入ってるのね」
どこかめんどくさそうな態度を取るリナにルクセリアは当然のように答えた。
「当たり前じゃない。これまでのあんたの力はあんたの力にプラスアルファの憤怒の悪魔の力があったから。
それが無くなった以上、戦闘力のダウンは否めない。だから、どのくらい落ちたか知る必要があるのよ」
「回りくどく言わずに単に戦いたいからって言えばいいじゃない」
「そういうクールぶってるのががウザいとも思うけど、話が早いのは嫌いじゃないわ。
けど、最初からあんたを相手にするのは後がしんどそうだから、まずはグラート、あんたからよ」
「マジかぁ」
嫌そうにため息を吐きながらも逃げられそうにない状況を悟っているのかグラートは前に出ていく。その背中にラストとフェイルは応援の言葉をかけた。
「グラート、手加減は当然しない方がいいよ」
「わかってる。侮る相手じゃないことぐらい」
「勝率は10パーセント切ってるけど頑張って」
「そこはもうちっと景気の良い言葉をくれよ......」
グラートはフェイルの言葉に苦笑いしながら両手に籠手を着けていく。
そして、拳同士を叩きつけて気合を入れるとルクセリアに告げた。
「こっちはもう大丈夫です」
「そう。なら、サラシャの合図で始めるとするわ。
勝敗条件は相手が戦闘不能もしくは気絶させればっていう実にシンプルなやつよ。
ただし、あたしがあんたの実力を知りたいんだからそこは肝に銘じて動きなさい」
「わかりました」
二人のやり取りを確認すると離れた位置にいるサラシャは片手を大きく掲げて「ではいきます。始め!」という合図で手を振り下ろした。
それと同時にルクセリアが両手の銃のトリガーを素早く引いて風の魔力弾を連続で射出していく。
「土壁」
グラートはすぐさま地面から文字通りの土の壁を作り出してルクセリアの攻撃を防いだ。
しかし、その斬撃を帯びた風の弾の貫通を防ぐことができても、斬撃によって土の壁がたちまち細かく切断されていく。
だが、グラートも先の遠征でその攻撃の特徴は知っている。
故に、空中に浮く瓦礫目掛けて素早く拳を叩きつけてルクセリアに向けて放った。
向かって来る瓦礫をルクセリアは容易く銃弾で壊していく。
すると、その迎撃を見計らっていたようなグラートの攻撃が追撃してきた。
「鉄針山」
地上に咲く土の華のようにルクセリアの足元から針山が飛び出してきた。
「やるじゃない」
ルクセリアは攻撃を避けるように空中にジャンプするとそこへ目掛けて大振りに構えたグラートが飛び込んできた。
「確かにこの感じじゃ先にあんたの攻撃が間に合いそうね。でも、追い詰めるならもう少しキッチリやらないと――――」
ルクセリアはグラートに背を向けるとそのまま銃を横に構えた。
そして、その銃口から勢いよく風を噴出すると真横に移動を開始した。
それはまるでボクサーがカウンターを決めるように敢えて一歩前にうみだすのと同じで......。
「ぐっ!」
「反撃を貰うわよ」
ルクセリアはタイミングを合わせて体を捻り、グラートの拳を躱すと同時に鞭のように伸びた足をグラートの顔面にクリーンヒットさせて地面に叩きつけた。
ドスンッと鈍い音が響くと同時に周囲に砂煙が舞っていく。
しかし、すぐさまその砂煙から一本の太い土の針が飛び出してきた。
それはルクセリア目掛けて飛び込んでくるが、彼女は僅かに体を逸らして避けるのみ。
そして、真下に向かって無数の魔力弾を放って砂煙を吹き飛ばしていく。
だが、そこにはすでにグラートの姿はない。ルクセリアが気配を感じたのはすぐ背後。
「土豪の籠手》
グラートは右腕に地面の瓦礫をくっつけて巨大な一つの拳としてルクセリアに襲い掛かる。
しかし、ルクセリアの余裕の笑みは変わらない。
「その機動力の高さ、嫌いじゃないわ。けど、敵を欺こうとしたならまず自分も欺かれている可能性を考えないとね――――収束する風」
その瞬間、グラートの周囲から一斉に風の弾丸が襲い掛かる。
それはとても細々としたものだったが、塵も積もれば山となるように無数の衝撃がグラートを襲って動作が遅れる。その隙を逃すルクセリアではない。
「落ちなさい」
ルクセリアは大きく足を振り上げるとそのままかかと落とししてグラートを地面に突き落とした。
そして、グラートは戦闘不能となり、一試合目は終わった。
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