第45話 廃れた砦の謎
「まずは速攻!」
二丁拳銃を両手に突撃していったルクセリアは銃口を目の前のオオカミの魔物に向けると素早く引き金を引いていく。
銃口から撃ち出された緑色をした魔力の弾丸は瞬く間に二匹のオオカミの頭を打ち抜くとともに、その銃弾が纏っていた風の斬撃によって、陣形を組みその二匹の近くにいたオオカミは斬撃の風によってダメージを受けていった。
負けじとオオカミ達が突っ込んでいく。しかし、ルクセリアの目にはすでに正面から複数で来ようともターゲティングは済ませてあるので、後は自分の目に移るロックオンの標準に合わせて腕を動かし、銃を撃っていくだけ。
それによって、複数のオオカミの魔物がばったばったと倒れていき、同じ前衛なのにほんの一匹二匹の撃ち漏らしを仕留めるぐらいの実質全くやることのないラストやリナ、その二人以上にやることがない中衛以降はただただルクセリアの暴れっぷりを見てるだけだった。
「リナが言うぐらいだからと思ってたけど......これはもはや僕達の存在意義は?」
「そんなものよ。彼女にとってクランは彼女が自由に動けて、一応考えてる万が一のための保険に過ぎない。
でも、もう気づいているかもしれないけど、陣形も組んでもそれを全く活かせていないこの状況で万が一が来たところでタイミングを合わせて連携攻撃とか不可能だから」
「う~ん、そうかもね。ルクセリア先輩は基本全ての敵のヘイトが自分に向くことを想定していて、それに対する最短効率で敵の挙動に合わせて攻撃してる感じだし。
撃ち漏らした敵はルクセリア先輩を避ける形でこっちを狙ってきた魔物だけって感じでもあるし」
「つまりは彼女の戦い方は圧倒的に集団戦に向いていないってこと。
ソロ狩りしかしてこなかった弊害がこうした結果を生み出しているのかもね」
ラストとリナの二人がそんな話をしてると気が付けばルクセリアが全ての魔物を倒し終えていた。
その光景は圧巻で、まだ魔力の灰となって消える前のオオカミの魔物の体がゴロゴロと地面に存在している。
そんな光景を作り出した本人は特に満足した様子もなく、むしろ不満気な様子で呟いていた。
「はぁ、さすがにこの程度の魔物じゃ陣形練習もなりゃしないわね。というか、魔物の時点で練習相手として不足してるから仕方ないけど」
ルクセリアは銃をそれぞれの太ももについているホルスターに入れていくとラスト達に声をかけた。
「あんた達、大丈夫だった?」
「大丈夫依然の問題よ。あれだけ一人で突撃していくなんてむしろ自分で陣形を壊してるじゃない」
「あたし自らが切り開いた道に一緒についてきて戦うのが仲間ってもんでしょ?」
「あんなやり方、仲間の私達ですら死地に一緒に連れて行ってるようなもんだけど」
「死地に飛び込んでも大丈夫な仲間を選んだから大丈夫に決まってるでしょ?
あんたしばらく見ないうちに随分保守的な考えになったわね」
その言葉にカチンと来たリナは思わず頬を引きつらせてピクッと反応させている。
そんなリナをラストはなだめながらルクセリアに告げた。
「とりあえず、先に進みましょう。ルクセリア先輩が魔物を倒してくれたおかげで僕達の体力は有り余ってるぐらいですし」
「ラスト、あんた話がわかるわね。そこのクールぶってる奴とは大違いよ」
「あちゃ~、またルクセリア先輩ナチュラルに煽ってらぁ」
「なんかサラシャさんの苦労が目に浮かぶようです」
「この苦労を知っていただき幸いです。お嬢様の基準から言っているせいでお嬢様はそれが相手にどれだけの煽りになっているか気づいていないのが相変わらず厄介な所です」
サラシャの言葉にグラートとフェイルは思わず苦笑いを浮かべた。
そして、一向は再び黒の森の奥へと進んでいくとそこにあったのは廃墟となった砦であった。
それを見たラストが思わず感想を漏らす。
「随分と年期の入った砦ですね」
「そうね。ツタも伸びてるし、苔も生えている。それも広範囲に。かなり昔からあったというべきかしら」
「加えて、この砦の外側から抉れたような異様な崩れ方......かなり大きな魔物がいると考えるべきかしら」
「かなり大きなって......こんなの普通の魔物のサイズじゃありえないぞ?」
ラストに続くようにルクセリア、リナとその砦の様子について感想を述べていくとリナの言葉に引っかかったグラートが思わず苦笑いを浮かべた。
それは砦の一部が爆発によるような抉れ方というよりは、巨大な何かに物理的攻撃を加えられたような崩れ方で、瓦礫の中には切り裂いたような傷や一部焦げたように黒ずんだ瓦礫が見つけられた。
その四人がその砦について調査していく中、一人タブレットを片手に調べ物をしているフェイルに気付いたサラシャが声をかけていく。
「この砦について何か心当たりが?」
「はい......昔にこの森で大きな戦いがあったということをどっかの本で読んだ気がしてっと......あ、ありました。今から約450年前、この砦にて戦いがあったそうです」
フェイルがこの砦に関する手掛かりを手に入れたことをサラシャが四人に知らせると四人はフェイルの近くに集まって来た。
そして、フェイルの活躍にルクセリアはフェイルの背中を叩く。
「やるじゃない、フェイル! さすがうちのブレーンね」
「ブレーンらしいこと何一つやってないんですが......とにもかくにも、この情報を見てください」
そう言ってフェイルが空中ディスプレイに提示した文献にはこの砦に関してこう書かれていた。
約450年前、ルクセリアの前に存在していた国「ファーレン王国」の支配地域として森の中の拠点として造られたこの砦「バレスティ砦」は敵国「ミストガルン帝国」に対する国境警備を目的としたものであった。
しかし、ある日その砦に二つの角生やした凶悪な顔を持ち、木をなぎ倒すような風を巻き起こす強大な翼、人間が何十人束になろうともほとんど傷がつかない巨大な肉体と四肢、さらには揺らすだけでその周囲の生き物をひき殺す分厚い尻尾を持った超生物――――ドラゴンが現れた。
そのドラゴンの力は恐ろしく、巨大な翼を羽ばたかせて太陽を覆うような巨体を持ち上げると鋭く尖った残忍なる爪で砦を攻撃した。
その一撃だけで砦は半壊となり、さらに追い打ちをかけるように口から吐く灼熱のブレスによってこの砦はものの数分で陥落した。
「......ドラゴンって何?」
砦に関する文献を読んでルクセリアが最初に口に出した言葉がそれであった。それに対し、リナは答える。
「この話に出てくるような生き物ってことね。少なくとも、この国が存在していた頃には存在していたといわれる生物」
「そんな恐ろしい生き物がいてこの砦をこんなんにしちまったってことか......」
「ただの伝説じゃない? ほら、よくエルフやらドワーフとか魔族っていう人間のような見た目をしたあたし達とは違う特徴を持った人種も存在したらしいし」
ルクセリアはこの話に関しての信憑性はあまりないと判断したが、それに対してフェイルは反論するような言葉を告げていく。
「そう思って別の似た様な分権がないか調べてみたんですけど、意外に結構多くからドラゴンという生き物がいたということを示すような文章が発見できたんですよ。
確かに分権によってドラゴンの特徴はまちまちですが、総じて長い首に太い手足、大きな翼に、長い尻尾、魚のような鱗があるという部分では共通しています。加えて、この文献なんかは絵までありますよ」
そう言ってフェイルが文献の絵をディスプレイに表示した。それに対する、ルクセリアの第一印象は―――
「え、なに? この無駄にカッコよくデフォルメされた翼を生えたトカゲは?」
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