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第43話 お節介

「――――で、そこまで知られていておめおめと逃げて来たってわけね、この筋肉ダルマは」


「俺だけやたら圧強くね!? 違うから、ちゃんと全員で話し合って決めたことだから」


「それについては本当だよ」


「ラストがそう言うなら信じる」


「リナさんてラスト君に甘いですよね......」


 ルクセリアの勧誘を受けてからラスト達は一度学院へと戻って来ていた。

 それは事情を知らないリナに対して、情報を共有するとともに今後の参考意見を聞くためでもあった。


 そして、リナが別のクランから戻ってきた所で、現在は学院内にあるオープンスペースで4人とも集まっている。


「にしても、厄介な人物に情報が渡ったわね」


「リナはルクセリア先輩のことを知ってるの?」


「まあね。あの人、中等部時代の時は別の学院だったのに自分がこの学校に来るからってわざわざ勧誘してきたの。それも割にしつこく。

 ま、その時の私はそのまま特魔隊員として先に戦場に出てる予定だったんだけど

 ともかく、それ以来顔見知りになってるのよ。多少話す機会もあって」


「だけど、僕のせいで事態がややこしくなっちゃってここに至ると......」


「ち、違うから! 別に私はラストのせいにするつもりはなくて!

 たとえラストが関わってなくても、結局はゼイン隊長に“社会勉強、いってら”って言われてたし」


「あの人にどんだけ社会勉強勧められてんだか」


「ともかく! 今はあの女について! あの女に関して言えることはとにかく自分の駒を作りたがるってことね」


「駒を?」


 フェイルのオウム返しの言葉にリナをコクリと頷くと言葉を続けていく。


「ワールスト家は名家よ。そして、そう呼ばれ続ける、そう周囲から認められるほどには確かに実力が伴ってるわ。

 私は小さい頃から特魔隊として在籍して、そこには当然ワールスト家出身の人達に混じって彼女が一緒になって訓練に参加していたところを見たことあるけど、魔力量、魔力の質、体術戦においては特魔隊の新人よりは強かったわ......若干10歳にしてね」


「マジか......」


「で、とりわけ才覚として秀でたのが銃の扱い。銃に関しては種類を問わず、拳銃からアサルトライフル、スナイパーライフルとなんでも。

 その上、斬撃を帯びた風魔法があまりにも銃と相性が良かったためにたちまち実力も右肩上がり。まさに生まれながらの天才の部類ね」


「なんだか僕と生きている正解が違うな......」


 ラストは思わず自身の中等部時代と比べてしまい、あまりにもの人生の生き方の違いに苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 その一方で、ラストと同じような境遇を送って来たフェイルが意外にも平然としていたことに気付いたグラートがそのことについて尋ねる。


「フェイルは気にしてないのか? まるで生まれながらの強者みたいな生き方してる人物について」


「気にしてないわけじゃないよ。実際今でも憧れはあるし、嫉妬もしてる。

 でも、実際の僕にはルクセリア先輩みたいは才能はないし、戦う事だってできない。

 だけど、僕には僕の出来ることを教えてもらった気がするから」


 そう言ってフェイルはラストの顔を見る。

 ラストは何も気づいてない様子だが、グラートはすぐにその真意を悟った。


「だから、僕は僕の持てる限りに情報と知恵を使って戦う人達が出来る限り安全に戦えるようにサポートするって決めたんだ。それが僕の戦いだって。頭の良さなら才能関係ないと思うしね」


「よく言ったぞ、フェイル! それでこそ男だ、否、漢だ!」


「うん、さすがラストの舎弟」


「リナ、フェイルは舎弟じゃないよ?」


 フェイルの思わぬ良い言葉にラスト達の空気は和んでいく。

 とはいえ、話の本題からはそれてしまっているので、リナが「話を戻すわ」と言うと再び口を開いた。


「で、それらの情報から何が言いたいかと言うと、ワールスト家は簡単に言えばプライドが高いのよ。

 といっても、別に実力がないものを見下したり、自分より強い人に噛みついたりとかはないんだけど、なまじ本当に強いだけあって、場をコントロールしたがるのよ」


「それが駒を作りたがるってやつか?」


「そう。強い自分にふさわしい強いクランを作るために、彼女は彼女自ら目星をつけた人物に直接勧誘へと思向いてる」


「それ自体は別にそこまで悪い話には聞こえないけど......」


「ラストの言う通り別に悪くないわ。それは誰しもが考えることだし、彼女も勝手気ままに強い人をやたらめったら勧誘してるわけじゃない」


「そういえば、僕のことも知識があるからって理由で確か勧誘してたね」


 フェイルの言葉にリナは「そういうこと」と頷いていた。しかし、僅かに表情を曇らせるとこうも告げた。


「だけど、彼女はきっと“負け”を知らない」


「負けを?」


「えぇ、勝負には必ず存在する上下を決める関係。しかし、彼女はきっとこれまでの勝負でほとんど負けを知らない。

 負けたとしても小さい頃で、自身の年齢や相手の特魔隊員の経歴が長いなどの言い訳のしやすい条件が揃っていて、自分と同い年や狩ってきた魔族の実力は底が知れてしまって、中等部に上がってからは一度も負けてないはず」


「今簡単に調べてみたんだけど、確かにルクセリア先輩は中等部から一度の負けなしみたい」


 フェイルは自前のタブレットで情報を探ると空中にその経歴のデータを投射した。それをラスト達は見ていく。


「凄い手が早いな......って待て!? 中級魔族狩ってるってあるけど、中等部2年の夏頃からじゃねぇか!? それに上級悪魔も一体かってるし!」


「みたいね。でも、私は中等部に通う前だから」


「別にそこでマウント取らなくても.....でも、本当にすごい。

 中等部に開催される同学年対抗はもちろん、一年のころから上級生相手に優勝してる。

 というか、中等部から現在の経歴までに黒星が一つもない」


「だからよ。だから、彼女は危ういの。

 負けを知らない彼女は、自身の無力さを感じたことのない彼女は、もしそうなった時に確実に再起不能になる」


「「「......」」」


「彼女が作ろうとしてるクランは恐らく彼女自身が最高火力の主体となった特攻部隊。

 そして、彼女が今になって作ってるってことはきっと同学年や1個上には自分に主体となることを認めて、さらには多少の打算はあれど自分の力を信用して戦ってくれる人物がいなかったということ」


 リナの言いたいことがなんとなくわかったラスト達は黙って耳を傾ける。それに対し、リナは話を続ける。


「それで、前回の上級魔族襲来に関して生き残った私達に目星をつけた。

 一年でもあるからコントロールしやすいとも思ったのでしょうね。

 でも、彼女は知らない。魔族の強さ、厄介さを。

 そして、それを束ねる悪魔、さらには最古の悪魔とも呼ばれる大罪悪魔の強さを」


「――――つまりはその危うさを正したいってことでしょ?」


「......っ!?」


 ラストの言葉にリナは思わず顔をまじまじと合わせた。その目は僅かに見開いていたが、次第に元に戻り、そして静かに閉じていく。


「そうね、彼女の危うさはまるでこの身に憤怒の悪魔を宿していた時のような感じに似ているの。

 自分が強いということを自覚していて、自分なら大丈夫と過信していて、それを失った時の恐怖を何も知らない」


 リナは席を立ちあがる。


「別に彼女に義理があってそれを返そうってわけでもないし、なんならそのまま放っておくこともできる。

 だけど、昔の私を見ているようで......気にならないというならきっと嘘になるでしょうね」


 ラストが立ち上がる。


「だったら、全力でお節介をかいていこうか。どの道ルクセリア先輩の存在は特魔隊として有益なものになるのは確かだし」


 グラートが立ち上がる。


「それに俺達のこともバレてそうだしな。だったら、むしろこっちから関わってやるか」


 フェイルが立ち上がる。


「それに仲間の存在がどれだけ重要かって知らせないとね。まぁ、前回は僕ほとんど何も出来てないけど」


 そして、最後に再びラストが告げた。


「それじゃあ、僕達の事情に片足突っ込んでるルクセリア先輩を全力で取り込んで、そのままルクセリア先輩の問題も解決しよう!」


「「「おおーーーー!」」」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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