第42話 クラン勧誘
太陽の日差しを反射するような美しい銀髪、強い意志を持ったようなつり上がった目つき、しかしその内に冷静さも秘めているような蒼白の瞳。
そんなツインテールの少女はオープンスペースに用意された席に座っているラスト、フェイル、グラートの前に堂々と佇んでいた。
すると、その少女と同じくして隣に立つメイドは少女に向かって話しかける。
「お嬢様、素性も知らぬ方からの突然の声かけで皆さん固まっておられますよ?
まずは自分が誰であるか礼儀を示すべきかと」
「む、それもそうね」
少女はコホンと咳払いを一つすると堂々と自己紹介を始めた。
「あたしの名はルクセリア=ワールスト。あんた達の一つ上ね」
「ルクセリア=ワールスト......聞いたことがある。
確か優秀な特魔隊員を排出する名家ワールスト。
そして、彼女も例に漏れず特に銃での扱いに秀でた風魔法の使い手だって」
「そこの前髪君は良い情報ルートを持っているようね。
そう、私の魔力特性は『薙ぎ払う者』。斬撃を帯びた風を操れて、それをさらに殺傷能力に特化させた銃型に適合させることでより高火力の攻撃を行えるのよ!」
ルクセリアは「どう? あたし凄いでしょ?」と言わんばかりにドヤ顔を決めている。
そんなマウント取りとも思えなくない行動に隣にいたメイドは思わずため息を吐いた。
「お嬢様、そんなんだからろくすっぽ気の置けない友達が作れないのですよ?
ましてや殿方なんて言葉通りの足蹴にしますし。あ、申し遅れました、私はお嬢様の従者兼護衛用の戦闘メイドサラシャです。以後お見知りおきを」
ルクセリアと違って丁寧に深々と頭を下げるサラシャに対して、ラスト達も返すようにお辞儀をしていく。
それで終わりかと思えば、姿勢をもとに戻した瞬間にルクセリアを見るや否や煽るように笑った。
その行動にカッチーンと来るルクセリア。
「なによ! まさか私には出来ないとでもいうつもり?
今回は突然話しかけたからそのことに情報処理が出来ずに固まっていただけですぅー!
普通に声をかけたならこいつらだって頭ぐらいすぐに下げるわよ!」
「そんな調子では今後とも無理そうですね。言葉遣いももう少しどうにかしないと......はぁ」
突然目の前で繰り広げられる主と従者のやり取りにラスト達は思わず顔を見合わせる。
そして、このままでは埒が明かないと判断し、ラストがゆっくり手を挙げた。
「あ、あのー、そろそろいいですか? それで、ルクセリア先輩達は一体どんな用で僕達に?」
「それはクランに誘うためよ」
「クランに?」
その言葉に再び顔を合わせるラスト達。すると今度はグラートがルクセリアに質問を投げかけた。
「それは俺達全員か? それとも特定の個人一人か?」
ルクセリアはサラシャが他所の席から持ってきた椅子に座るとその質問に答えた。
「そうね、誘ったあんた達で優秀と判断された白服の生徒は一人。となれば、当然そういう考えに至るわよね」
「自分は違うと?」
「ええ、私が欲しいのはそこのあんたとそっちのあんた」
そう言って順に指さしていった人物はグラートとフェイルであった。
その言動にグラートとフェイルはアイコンタクトで意思を伝えあう。
「先輩、あいにくだが俺達は――――」
「そういえば、私の家程の名家になるとね。私達と繋がりを持とうと勝手に他所の貴族がやってくるのよ。
で、そういう連中って私と恋仲を結んであわよくば名家の懐に入りたいってのが多いわけ」
ルクセリアはグラートの話を突然遮ったかと思うと脈絡のない話をし始めた。その急な話題転換にラスト達は首を傾げるばかり。
しかし、ルクセリアの話は続いていく。
「そういう連中って基本邪魔でしかないんだけど、ある一点ではとても重宝してるの。それがなんだかわかる――――前髪君?」
「え、えーっと、情報を提供してくれるってことですか?」
突然の名指しとも言える行動にフェイルは激しく動揺しながら、バクバクの心臓をそのままに頑張って声を出した。
そして、その回答に対してルクセリアは「せいか~い」と答えると言葉を続けていく。
「私達名家にとって、いや人にとって情報を得ることはとても重要。
たとえ悪魔にタイマンで勝てる強者でさえ勝てない相手にも、たとえ下級魔族に苦戦する弱者でも強者よりも無知じゃなければその相手には勝てる可能性はある。それじゃあ、なぜこう言える――――筋肉君?」
今度はグラートが名指しを受けた。その言葉の意図に隠された内容を紐解くように、ルクセリアが告げた言葉をかみ砕いていく。
「無知じゃないならそもそも相手との力量差を考えられて戦わない、もしくは勝てるほどの数を用意して戦いに挑むからか」
「そういうこと。そういう意味では白服ってだけで威張り散らしてる連中は嫌いなのよね。
無知な者が群れたってそれは類が友を呼ぶってことで結局全体的には無知だし。
ってことで、あんた達は無知じゃないし、前髪君に至ってはかなりの知識者と言えるかもしれないわ」
「俺の言葉をわざわざ遮ってまで言うってことは、それだけ俺達の実力に期待してるってことか」
「まあね。知識を得ながら戦いに挑む人の方が成長が早いのは当然のこと。
それにたとえ戦えなくても、ちゃんと自分と役割を理解してそれに特化できている人も良いと思うわ。
そういう意味であたしは二人にクランへと入って欲しいの」
熱の入った弁舌で誘われたグラートとフェイルの気持ちは純粋に悪い気はしなかった。
むしろ、好意的にさえ捉えた。しかし、それだけでは足りない、絶対に。
「まさかそれほどまで理由を持って誘ってくれるとは思わなかった。けど、悪いが俺達は――――」
「あら、まだ話は終わってないわよ?」
「終わってないって......俺達が『はい』って言わなきゃ終わらないってとじゃ――――」
「先日あった“強力な魔獣が暴れて多数の死傷者を出した団体模擬戦”......公ではこうなっているけど、本当は全くのねつ造よね?」
またもや急な話題転換と思いきや、まるで確信を持っているような堂々とした探りにラスト達は思わずピクッと反応し、僅かに空気が張り詰めていく。
しかし、そんな空気もお構いなしにルクセリアは続けていった。
「先ほども言ったけど、私には至る所から情報が集まってくるの。
尻尾振った貴族が傘下に入れて欲しくて一生懸命ね。
特に事件や事故に関してはどうでもいいことから、とても面白いことまで幅広く持ってきてくれるの」
「......それでどんな話を聞いたんですか?」
ラストの質問にルクセリアはエサに魚が食いついたと感じて一気にリールを巻いていく。
「実はあんた達が戦った相手に貴族の中に私に尻尾振る貴族がいたのよ」
「「「!」」」
「きっと助かったその子は家族にだけ事情を放したのかもね。
でも、その家の当主であるその子の父親は他の連中を出し抜くいい情報だと思って教えてくれたの。
あんた達が上級魔族率いる中級魔族達と戦ったって話をね」
「「「......」」」
「あくまで黙秘を貫く、か。ま、それでもいいわ。それならあたしはあたしの要件を伝えさせてもらうだけだから。
で、上級及び中級の魔族と戦って黒服も含むあんた達は誰一人かけることなく生還している。
それはそれほどまでに強いということであり、先程からも勝てるほどの知識も持ち合わせてることもわかってる。
だから、あんた達二人は欲しい。でも、もう一人のあんたは“必ず”欲しい」
そう言いながらルクセリアは視線を投げつける。
その視線に当てられるようにラストも目を合わせるとルクセリアは軽く笑みを浮かべて告げた。
「あたしのクランに入る気はない? 悪魔君」
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