第41話 クランの存在
「そういえば、もうすぐクランへの入部するかどうかの時期だね」
「クラン? なにそれ?」
休日の昼下がり。学院近くの商店街でのんびりとした時間を謳歌するラスト、グラート、フェイルの男三人組は途中で勝った一口サイズのお菓子を紙袋から取り出して頬張りながら歩いていた。
そんな中、フェイルがふと思い出したように呟いた言葉にラストは次なるお菓子に手を伸ばしながら小首を傾げた。
すると、グラートは「そういえば、しばらく入院してたっけな」と言いながら簡単に説明を始める。
「簡単に言えば前回やったバトルアーミーみたいなものだ。ただアレはルールがしっかりしている分、競技化になっている節が強く、逆にクランの方は実践向き......つーか、実践だ」
「実践っていうと、生徒が主体になって悪魔を討伐するの?」
「そうみたいだよ。といっても、もっぱら魔物とよばれる動物型ばっかりで、魔族がいたとしてももはや人間の形状が崩れたような下級魔族ぐらいって話だけど」
「つまりは種戦力たる特魔隊の後ろについて掃除する立場ってことだ。
まぁ、中には強いクランは中級、上級魔族の討伐が許可されてるなんて聞くが、実際それがどこまで本当かは定かじゃない」
「なるほど。それで先日はリナさんのもとに大量オファーが来てたってのか」
ラストはふと過去のことを思い出した。
それは今よりも数日前、ここ最近何かと忙しそうにしてたり、妙に自分の周りに人だかりが増えていたのをラストはずっと不思議がっていた。
そして、ある日たまたま遠くからリナの姿を見つけたかと思えば、そこには同学年から上級生まで多くの人達が話しかけていたのだ。
その時はなんであるかわからなかったが、フェイルとグラートの説明を受けた今ならそれがクランの勧誘だろうとわかる。
その時、ラストは思わず疑問に思うことがあった。
「それじゃあ、グラートにあんまり勧誘が来てないのはどうしてだろう?」
グラートはラストとフェイルと違い、白い制服の優等生である。
加えて、一年生の中では実力は最上位に位置するといっても過言ではないだろう。
しかし、グラートの周りには誰一人近寄って来ず、また本人もそのことを気にしたような素振りを全く見せていなかったのだ。
そんなラストの疑問にグラートは変わらない表情で返答していく。
「あぁ、そりゃ条件を出したからな」
「条件?」
「俺を入れるならラストも入れること。そして、クラン内では俺とラストをバディにするってな」
「どうしてそんな条件を? 別に僕のことを気にせずに好きなようにしたらいいのに」
ラストがそう言った途端、グラートとなぜかフェイルもどこか頭を悩ませたような表情を浮かべた。その反応にラストも思わず眉を顰める。
「ラスト君、君が置かれている立場を思い出してみて」
「僕の立場......そりゃ、魔人という存在で周りに迷惑をかけないように過ごさなきゃいけないってことだけど」
「そこだよ、そこ! いいか? 俺とリナ、そしてフェイルもだが俺達の立場はラストの制御装置だ。
お前の魔力増幅の動力源は怒りで、その怒りが何かの拍子に弾けた場合にはそれを止めるのが俺達だ。
そんな俺達の心配がいらなくなったわけでもないのに離れて大丈夫なわけないだろ?」
「それは.......そうかも」
「それにラスト君は悪魔・魔族側からして喉から手が出るほど欲しい存在だからね。
いつ狙われてもおかしくないから、そう言う意味では全く離れられないって意味にもなるけど」
「あれ? それじゃあ、リナさんは?
リナさんって思ったよりもサバッとした性格だから、命令された仕事でもないか自分に興味があるころにはドライな反応見せることあるけど。
ほら、前に僕がおススメした食べ物には食いつき良かったけど、グラートのは酷く無関心だったし」
そう言うラストの言葉に「それはお前だからだよ」と言って頭を掻きながら、グラートは返答していく。
「そうだな。そう言う意味ではアイツは確かに命令を受けてる」
「命令って誰に?」
「ゼイン隊長にだよ。リナの奴、もとから特魔隊所属だったから中等部にいたのはいわゆる社会勉強。同期の実力を知って、協調性を高めるってことで。
そして、こうして再び学院に入ったわけだから、新たな環境で色々触れてこいってやつ。
その一環として、今頃はどっかの森でやる気なさそうに入る気もないクランでのやたら景気のいい待遇を受けながら任務をこなしてるんじゃないか?」
「な、なるほど......」
ラストは心の中でとりあえず「頑張れ」とだけリナへの応援を送った。
ちなみに、同時刻やる気のなかったリナはふと未知なる力が湧いてきて生き生きと魔物を討伐したという。
ラストはふとあごに手を添えると「う~ん」と悩み始めた。その行動にフェイルは不思議そうに見ながら聞いてみる。
「どうしたの?」
「なんというか、僕のせいでグラートがどこにもクランに所属できないってのはね。
そういう集団でせいかを挙げようとする場合って大抵白服は白服で固まるだろうし」
「まぁ、確かにな。別に全員ってわけじゃないが、白服の共通の認識としては黒服がいるのは足手まといって考えだからな」
「とはいえ、さすがに白服でも黒服とクラン組んでる場所もあるでしょ?」
「残念だけど、それもやめた方が良いと思うよ。そう言うのって大抵偽善者だから。
手厚く保証かけてると謳ってやってることは黒服の手柄の横取りってよく聞くし」
「うわぁ~、それはやだなぁ。だとしたら、どうしよう......そういうのって強制参加だったりする?」
「特魔隊は集団行動って聞くしね。早めから集団での動きに慣れておくことと集団特有のメンバー同士の軋轢や問題発生時の自分達での解決の仕方を促してるんじゃない?」
「集団を必要としないのはゼイン隊長ぐらいだよ。
といっても、聞いた話だとあの人も昔は集団にいたみたいだけど」
そんな話をしながらジリジリと刺す日差しに体が熱くなってきたのか近くのカフェで休むことにした一行。
そして、そこで頼んだ冷たいドリンクを飲んでいるとグラートが思い付きで告げた。
「なぁ、俺達でクランを作らないか?」
その言葉にラストとフェイルはすぐさま反応する。
しかし、どういう理由でそうなっかたはわからないため、フェイルが質問した。
「どうしてそう思ったの?」
「単純な話......でもないが、条件をこっちで絞るよりは作っちまった方が早いと思っただけだ。
そんで条件としては、まずラストの事情を知っている俺、フェイル、リナは確定で所属するとして、後はこちらがその情報を与えても大丈夫な奴を揃えるためだ」
「グラートは僕の事情を他の人にも話した方が良いってこと?」
「他の信用できる人な。
現状、ラストを除いて知っているのは三人だが、申し訳ない話フェイルは戦闘面では役に立たない」
「それは......」
ラストは気にするようにフェイルをチラッと見るとフェイルは「気にしてないよ」と言いながら笑顔を向けた。
グラートは「話を続けるぞ」と言うと続きを始めた。
「となるとだ。戦えるのは俺とリナの二人だけ、しかし悪魔・魔族が前回みたいに徒党を組んで、ましてや数を増やして挑んで来たらラストを守りながら戦うことは限りなく厳しい。
そう考えれば、戦力増強として数を増やすのは常套手段と言えるが、仲間にする奴は最低でもラストの存在を知ってもなお黙認する奴に限る」
「「......」」
「それを選定できる立場を作るためにもクランを作る方が手っ取り早いんだ。
もともとあったクランにいるメンバーを俺達の都合で外すことは出来ないが、俺達のクランに仲間になりたがっているメンバーを都合で外すことは出来る。
そうして、信用できるメンバーだけでクランを形成していくんだ」
「なるほど......」
その言葉にラストは思わず納得した。そして、自分のことを自分以上に考えてくれていたことに嬉しさすら感じる。
「少しいいかしら?」
その時、一人の銀髪ツインテールの少女とその隣に佇む茶髪のメイド服の女性がラスト達の座る席へとやって来た。
「実はあなた達に話があるの」
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