表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/83

第40話 理解してくれること

「もう体の方は大丈夫なの?」


「うん、問題ないよ。むしろ、いつもより軽いぐらいだし」


 ラストが退院してから学院に復帰しての昼休み。外の修練場近くにあるベンチにフェイルと一緒に座りながら、自主練する生徒を見ながら昼食を取っていた。


 そして、フェイルの質問に対して、ラストは気にしてない風にサラッと答えていくも、フェイルは目線を落としてどこか暗そうな感じであった。


 フェイルはラストに目を向けると再び口火を切る。


「まずはありがとう。助けてくれて。

 魔族を見るのはアレが初めてだったけど、とても恐ろしくて戦う気力すら湧かなかった。

 僕達がいる学校が目指しているのはああいう存在と戦うためなのにね」


「そんなに悲観的にならなくていいと思う。初めっから立ち向かえる人はいないし、それに直接戦うだけが戦いじゃないと思うし」


「ラスト君はどうだったの?」


 フェイルの素朴の質問にラストはふと始まりを思い出した。魔族と戦い、力不足を痛感し、リナに助けられ、悪魔となった日のことを。


「僕は......本当はなんの力もないんだ」


「どういうこと?」


 ラストは自身における状況を説明することにした。

 フェイルは今回の騒動で深く魔族と関わり、それ以上に魔人(じぶん)と関わってしまった。


 そことから予想されるのはラストの周辺にいる関係者となったフェイルがまた新たな刺客に狙われるリスクが高くなったということだ。


 そうであるなら、もはやフェイルとこのまま関係を断ち切ったところで狙われるリスクは変わらないだろうし、何より近くにいてくれた方が守れると考えたからだ。


「僕の力は何もない。僕は生まれつき魔力を持っていないんだ。

 これまで魔法を見せていたのは僕の体に宿った憤怒の悪魔の力によるものなんだ」


「無能力......!? それも憤怒の悪魔って......!?

 それじゃあ、あの魔族が言ってた憤怒の悪魔様ってやっぱり――――」


「僕のこと。厳密に言えば僕の中にいる悪魔のことだけど」


 それからラストは自身が悪魔になった経緯を話した。その話をフェイルはただ黙って聞いていた。

 そして、全てを話し終えるとラストはフェイルに向かって頭を下げる。


「ごめん! こんな大事なことを黙ってて。

 隠すつもりはなかったけど、それを明かして怖がれるのが嫌だったんだ。

 でも、もうフェイル君は僕の姿を知ってしまった。だから話すことになったわけだけど......」


「そっか。それじゃあ、もう隠し事はないんだね?」


 フェイルはそう言うと不意にベンチから立ち上がり、ラストの方へと向いた。


「なら、もう大丈夫だよ。僕はこれからも変わらずラスト君の友達だから」


「......っ」


 ラストは思わず息を飲む。その言葉に嬉しさと同時に戸惑いも現れ、口をついて聞いてしまった。


「僕が怖くないの? だって、あの魔族と同じ悪魔だし、それに人の見た目をしてるから余計に質が悪い――――」


「ラスト君、僕は怖くないよ」


 ラストの言葉を止めるように言葉を挟むと軽く笑みを浮かべ言葉を続けていく。


「ラスト君は悪魔だけど悪魔じゃない。ちゃんと人としての心を持っているし、何より僕を助けてくれた。それが何よりも証拠だと思う」


「......」


「ラスト君はずっと自分が悪魔だという存在であることを隠していたのは不用意に周りに恐怖を与えないためでもあったと思うから。

 ラスト君は優しいからね。それに僕は好きなんだ、悪者の立場である存在が敵である存在を助けるっていう話。物語本でもよく読んだよ」


「フェイル君......」


「だから、気にしなくていい。それに僕もラスト君とは友達でいたいと思ってる。助けてくれたお礼もしたいし」


 その言葉を聞いた瞬間、ラストの目からスーッと涙がこぼれ落ちていく。

 勝手に溢れた涙は頬を伝い、顎から地面へと滴り落ちていく。


 そのことにラストは気づき、手の甲で拭ってみるも収まる気配はない。

 そして、そのまま両手の拳を握ると膝に置き、ゆっくりと頭を下げた。


「ありがとう.......」


「どういたしましてってこんなの当たり前だよ」


 それからラストが泣き止むまでしばらくの時間を要した後、フェイルはベンチに座って昼食を再開した。



「それじゃあ、ラスト君の取り巻き見たいに一緒にいるリナさんとグラートさんも関係者ってこと?」


「僕の取り巻きっていうか僕とグラートがリナの取り巻き見たいな感じだけどね。関係者っていうとそうなるかな」


「それじゃあ、ラスト君はもう特魔隊なの?」


 フェイルは目を輝かせて興味津々に顔を近づけて来た。そんなフェイルの様子にラストはそっとフェイルを元の姿勢に戻しながら答えていく。


「まだ完全な特魔隊員ではないかな。それに僕は立場が特殊だから中々仲間としては受け入れられないって感じで」


「そっか。でも、ラスト君はもう普通に人間生活に溶け込んでいるし大丈夫だと思うけど」


「それはあくまで僕という存在を知ってくれた人に限るかな。僕の人柄や行動原理なんかは中々文章化しにくいと思うし、何より何がキッカケで暴走してしまうのかが怖いんだよ」


「う~ん、でもな~。僕はその憤怒の悪魔さんがそんなに悪い人には思えないっていうか。だって、ずっとラスト君に力の使い方を教えてたし」


「あ~、そうなんだよね。リュウさんは悪い人って感じが―――――ってちょっと待って。なんでフェイル君がそんなこと知ってるの?」


 フェイルの憤怒の悪魔のことを知っているかのような口ぶりにラストは思わず尋ねた。

 確かに憤怒の悪魔のことはラストのこれまでを語るうえで話したが、憤怒の悪魔の人柄なんかは話していない。


 にもかかわらず、フェイルの口から出た言葉にラストは驚きが隠せなかったのだ。それに対し、フェイルは頬を掻きながら答えた。


「実は......魔力回線で聞こえてたんだよね。ノイズが酷くて途切れ途切れしか聞こえなかったけど、少なからず聞いた会話の中ではその憤怒の悪魔さんの口ぶりは悪い人ではないって思っただけで」


「なるほど......魔力回線で......」


 ラストはその説明に納得した。確かにバトルアーミーが始まる前に離れても通信できるようにフェイルの魔法である「テレパス」によってチームの魔力を調べてチャンネルを合わせていた。


 そして、「テレパス」の能力は脳内で思い浮かべた文章を伝えることが出来るというもので、魔力回線が繋がっている間、隠し事は出来ないが有効範囲内ならどこでも口を開けずに会話できるのだ。


「あれ? でも、僕がリュウさんと話している間に特にフェイルの魔力と繋がった感じはしなかったけど」


「それは僕が親であるからかもね。言わばチャンネルの主導権を握っていて、相手と繋げなくても僕が繋げた相手なら考えてることが聞こえるし、声もかけられる」


「え、そうなの? ってことは、あの時のバズーさんとの戦闘の時も声をかけれたってこと」


「うん。でも、かなりノイズが酷かったから声をかけても伝わらない可能性が高いし、それに邪魔しちゃいけないとも思って」


「でも、そっか......相手の魔力が知れればそこまで.......って待てよ? フェイル君、相手の魔法からも魔力を読み取れる?」


「どうだろう? 試したことないけど、魔力の残滓が残っているなら恐らく......かな?」


 その時、ふとラストは思ってしまった。

 フェイルは戦闘が苦手だが、もしそれが克服できて、さらに相手の魔法から取った魔力で相手の魔力回線のチャンネルに合わせられたのなら、一方的に相手の考えを読み取って攻撃できることになる。


「え、待って、それって凄くね?」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ