第37話 バトルアーミー#16
「そ、そんな......」
ラストは思わず愕然とした表情を浮かべた。
それは人など優に消し炭となる火力の炎を浴びせたにもかかわらず、六本の腕を生やしながらゆらゆらとバズーが歩いてきていたからだ。
それに対し、憤怒の悪魔リュウは答える。
――――お前が俺の力をまだしっかり引き出せてないことによる結果だ。
「まだしっかりと引き出せてない......?」
リュウの言葉にラストは悪魔の力を引き出せてないのは何が原因なのかはっきりしないまま呆然としていると歩いてきたバズーは嬉しそうに答えた。
「これが......これが憤怒の悪魔様の力! 素晴らしい! 素晴らしい威力です!
さすがの私も全魔力を防御に注がなかったら今頃存在ごと消滅していたでしょう。
しかし、私はまだその力には上があると思っています。
ですので、どうか卑しき配下に見せてはくださいませんか?」
「言われなくても!」
ラストは右手に魔力を収束させるとそこに炎を圧縮した球体を作り出した。
そして、それをバズーに向かって放っていく。
「火球弾」
放たれたいくつもの火球弾はバズーに向かって行く。
それをバズーは生やした六本の腕で蹴散らしていった。
しかし、それは想定済みとして行動していたラストはバズーの背後に回り込むとそこに炎を纏った右拳を振るっていく。
「甘いですよ」
だが、その拳は上から振り下ろされたバズーの手で弾かれ、また別の手がラストを攻撃しようと鞭のようにしなってきた。
それを避けるラストであったがまた別方向から向かってきた腕がラストのわき腹を捉え、そのまま吹き飛ばしていく。
ラストは数メートル地面を転がりながらも、地面に手をつけて無理やりブレーキをかけて止まるとバズーを見た。
「憤怒の悪魔様ならもうお気づきでしょう。私の魔法を。
私の魔力特性は『しなる者』。
魔法として魔力でさらに四本の腕を生やしながら、自身の腕すら軟体化させて鞭のように振るうことが出来ます」
ラストはバズーを中心に旋回しながら火球弾を放ち、それをバズーが弾き返すと気にできる一瞬の隙を見て懐に潜るように走り出した。
「私の動きは予測不可能。
ましてや六本の腕を全てなんて。それに対してどうしますか?」
「決まっている!」
ラストはあえてバズーの眼前に立つと左手を支えにして右手を向けた。
そこに瞬間的に炎を圧縮していくと今度は一気に放出した。
「そういえば、一つ言い忘れていたことがありました――――」
「火炎の壊砲」
それは先ほどバズーに向けて放ったバーナーのような指向性をもった炎の砲撃。
瞬間的な溜めにより先ほどより火力は落ちているが、ほぼゼロ距離の位置から喰らえば一溜りもあるまい。
喰らえば、だが。
「私、実は体自体もしならせることが出来るんですよ。正しく軟体動物のように」
「......!」
バズーの体は正面を向きながらまるで円を描くようににゅるりとしなっていた。
そのため、ラストの放った砲撃は中心にいるはずのバズーを捉えずにそのまま通り過ぎただけ。
「おや、人間が混じっているために火力不足でも起こしました? なら、今度は私の番といたしましょう」
「うぁ!?」
ラストはバズーの手に足を掬われるとそのまま振り回され始めた。
バズーは腕を伸ばしながらラストを頭上に持ち上げていくとそのまま地面に向かって振り下ろした。
「かはっ!」
背中から叩きつけられたラストは思わず肺の空気を吐き出した。
それに対し、「まだまだ続きますよ!」と言いながらバズーはグルングルン振り回していく。
最初は前後にラストを振り回して地面に数回叩きつけるとそのまま横振り回し始めた。
それによって、ラストは多くの木にぶつかりながら遠心力に体が引き延ばされそうになっていく。
そして、バズーはラストを再び頭上へ高く振り上げていくと残りの六本の腕を使ってラストを掴み、一気に真下の地面へと叩きつけた。
その勢いによって地面が大きく凹み、割れると同時に反動でバズーは高く宙を舞う。
「死なないで下さいよ!」
さらにバズーはトドメとばかりに自身の体をスリングショットのようにしてラストへと急降下していった。
―――――ドゴンッ!
バズーの頭突きはラストの腹部へ突き刺さるとともに、地面はさらに深く凹んで轟音を鳴らした。
「どうでしょう? 今のはだいぶ効いたのではないですか......っと?」
ラストの上で馬乗りになるバズーはラストの腹部を見て何かに気付いた。
それはラストの右腕を覆っていた黒色の魔力の何かが胴体の前面を覆っていたのだ。
「この魔力は具現化して固定されたものと思っていましたが、こんな使い方も出来るのですね。
それで先ほどの私の攻撃を防御したと――――っ!」
バズーが思わず考察に耽っているとラストの目がパッと開いて勢いよく頭突きされた。
それは顔面にヒットしてバズーが怯んでいるとそこにラストが再び黒腕にして炎を纏った拳をバズーの腹部当てていく。
今度は直撃したそれはバズーを容易に吹き飛ばしていき、バズーは凹んだ地面から出ていくと近くの木に両手を絡めて強制的に勢いを殺した。
その間にラストは距離を取るようにバズーとの間に凹んだ地面を挟むようにして対照的な位置に着地した。
また同時にラストは心の中で感謝の言葉を述べていた。
『助けてくれてありがとうございます』
――――当たり前だ。お前は俺の大事な依り代なのだからな。だが、あの程度で意識を朦朧とさせるな。
『はい......』
実のところ、先ほどの防御はラストが意図的に行ったものではない。
ラスト自身はバズーの連撃による衝撃で意識を失いかけていたのだ。
それによって、ラストは防御が出来る状態じゃないと判断したリュウが自身の魔力で作り出した黒い魔力を移動して防御に当てていたのだ。
リュウは「今度は油断するなよ」とラストに声をかけ、ラストは「はい」と返事をしつつも、何かに集中するようにラストはバズーを見つめていた。
そして、一度大きく深呼吸するとラストはリュウに告げる。
『リュウさん、これから行うことには少し見守っててくれませんか?』
――――......わかった。好きにしろ。
『ありがとうございます』
ラストはリュウの了承を得るとバズーに向かって飛び出した。
「愚直に向かってきますか。いいですよ、もう侮りません」
ラストはバズーに向かって攻撃をしていく。
しかし、それらはバズーのしなる六本の腕で弾かれ、さらには反撃をもらって吹き飛ばされる。
だが、ラストはすぐに立ち上がると再び真っ直ぐ攻撃を仕掛けていく。
今度は上手く躱して先ほどよりもバズーの懐に潜りこめたが、同じように吹き飛ばされた。
それでもめげずに挑んでいくとさらに先ほどよりも潜り込めたが、結果は先ほどと同じ。
同じことをなんども繰り返すラストにバズーは思わず眉をひそめて告げた。
「何をしてるのですか? 何度やろうと結果は変わりませんよ?
さぁ、もっと引き出した力を見せてくださいよ」
「さて、どうかな。少なからず僕はそう思ってないし、何をやってるかと言われれば勝機を見出してる。それにこれ以上の力は必要だけど“今”じゃない」
「......どういう意味です?」
バズーは思わず聞き返した。それは目の前の少年から憤怒の悪魔の威圧とは違う、異様な不気味さを感じたからだ。
同じことを繰り返し、確かに着実に近づいているもののそれでも拳が近づくような距離には決して至っていない。
にも拘わらず、なぜか自身に敗北の危機感を抱かせる。そんな異常さ。
そんなバズーの思惑の一方で、ラストは口に溜まった血をペッと吐き出すと静かに呟いた。
「トレース完了」
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