第35話 バトルアーミー#14
「何をした!」
突如としてあらぬ方向に伸びていったバズーの腕を見て、嫌な予感を感じ取ったラストは咄嗟に叫んだ。それに対し、バズーは平然と言い返す。
「先ほど言ったじゃないですか? 人質ですと。今のあなたの憤怒りを買うには一番お手軽で丁度いい」
すると、「わあああああ!」と叫び声が聞こえてきた。
その声は次第に大きくなっていき、姿が見えるとバズーの腕の長さがもとに戻ると同時にその手元にフェイルがいる。
「え、ここは......え、魔族!?」
「先ほどぶりですね。ですが、生憎私はあなたに興味がありませんので安心してください。
それよりも、あなたは目の前の人物に対して思うことがあるのではないですか?」
「目の前......っ!」
フェイルは地面にうずくまるラストの姿を見て思わず息を飲む。
禍々しい黒腕に変化した瞳、そして悪魔を主張するかのような天に向かって伸びる角。
それは近くにいるバズーよりもよっぽど悪魔に近い成りをしていた。
そのことに上手く言葉が浮かばずにその場でフェイルは固まってしまう。
「これがあなたの仲間の本当の姿ですよ。自らの肉体に悪魔......それも大罪の悪魔を入れていたのです」
「嘘、だ......」
「嘘ではありません。見ればわかるでしょう?
あなたの仲間が使う魔法とは明らかにかけ離れた禍々しい見た目を。
そして、感じるでしょう? 目の前の存在からの威圧感を」
「フェイル君......」
ラストは地面に手を付けて立ち上がった。
しかし、未だ視界のブレがハッキリと定まらない。
されど、必死に何かを伝えようと手を伸ばしている。
だが、そんなラストの希望を打ち砕くようにバズーはフェイルに囁いた。
「あなたはどう思いますか? 彼の姿を見て。私には彼の方がよっぽど悪魔だと思いますがねぇ。
肉体に悪魔を宿しながら人間のフリをしてあなたに近づいた。それもあなたは戦うことができない。
つまりは逃げ出すことも出来ないとわかっていながら、まるで保存食のように自らのそばにいるよう仕向け、あまつさえあなたをこのような危険な場所へ誘い込んだ」
「え?」
「聞いちゃダメだ! 僕はそんなことしていない!」
ラストは必死に叫ぶ。
しかし、ラストの姿が影響しているせいか、もしくは耳を傾けなければ死ぬ可能性がある状況のせいかフェイルはバズーの話を聞いた。
「どうして私がこんな場所にいると思いますか? それもこれも彼の指示によるものですよ。
今はまるで味方のように敵対していますが、どうせあなたが死にかけたら本性を現すはずです」
「僕はそんなことはしない! あなたを倒すためにいるだけだ!」
「さて、あなたはいったい私と彼のどちらを信用しますか? まぁ、わかりきってることでしょうけど」
そう言ってフェイルの喉元に鋭くした指先をラストにバレないように近づけた。
それはもはや一択しかない答えを強要しているように。
するとその時、ラストはようやく自分の手を握ったり開いたりしてブレていないことに気付いた。
そして、強く拳を握るとフェイルに向かって頭を下げる。
「フェイル君、ごめん! 僕は確かに君に隠し事をしていた!」
「ラスト君......」
ラストの予想外の行動にフェイルは目を丸くし、バズーはニヤリと笑う。
「本当の僕は特魔隊の特別監察対象とされている人物なんだ。
今は詳しくいえないけど、色々あって僕の肉体にはそこの魔族が言ったように大罪シリーズの一人である憤怒の悪魔の力を宿している。
そして、今見えてるこれはその力による影響によって形成されたものなんだ」
「......」
「君を騙すつもりはなかった。ただ自分の存在が脅威となっていることがわかってたからすぐに伝えることは出来なかった。伝えたらきっと怖がってしまうだろうから」
「......!」
「僕が君と友達になりたかったのは本当だ。
ただ、フェイル君が魔族を見た瞬間の反応を見て、僕は伝えなかったのは正解だと思ってしまった。
長い付き合いのあるグラートやすでに事情を知っているリナさんとは違い、君とはまだ友達としての関係も浅い。
だから、拒絶されるのが怖かったというのもあるかもしれない」
ラストは頭を上げると強く握った拳を心臓のある位置へとトンッと押し当てて告げた。しっかり伝わるように真剣な眼差しで。
「ただ、僕が君を助けたいという気持ちは本当だ。
たとえ僕のことを嫌いになってもいい、もう関わるなと言われればそうする。
でも、この瞬間だけは信じて欲しい。僕が君を助けたいということを」
その言葉を受けてフェイルの思考は激しく戸惑っていた。
このバトルアーミーというゲームが始まってからずっとそうである。
だからこそ、今の判断が正常かどうかは実に怪しい。
それでも確かな気持ちはある。
それは今のラストは何一つ嘘を言ってないということだ。
フェイルは長年一人であった。
ルナトリア学園に入ったのでさえ、自分と言う存在を周りに気付いて欲しかったからに過ぎない。
そんな人の顔色を窺う生活を送っていると自然と人が何を考えてるかうっすら読めるようになってくる。
その中でもとりわけ嘘に対してはハッキリわかるようになった。
視線の動き、声色、口調、仕草、その他にも様々な動きからなんとなくその言っていることが嘘かホントはわかるようになってしまったのだ。
そして、それでわかることはバズーは嘘をついていて、ラストは嘘をついていないということ。
確かにラストの隠していたことは少なからず特魔隊を目指して入って来たフェイル自身にはあまりにも大きい衝撃だった。
しかし、それは信じるか信じないかと言われば些細なことだ。
至極単純な話で、嘘をついている相手とそうでない相手がわかるとしてそのどちらを信じるかと言われれば当然後者であろう。
今はたったそれだけ。ごちゃごちゃと考えていようとラストを信じるか信じないかと言われれば当然――――
「さて、あなたはどちらを信用します?」
バズーはニヤリと笑った。まるで全てをわかっているように。
ここで嘘をついてバズーに味方すれば悪魔であるラストは確実に敵の手に落ちる。
しかし、ラストの味方をすればその即座に喉元にある鋭い指先が掻き切りに来るだろう。
そして、この魔族は臆病な自分には我が身可愛さに必ずラストを裏切るだろうと思っている。
「......ラスト君、僕を助けてくれるってホント?」
「あぁ、絶対に助ける」
「そっか......」
その瞬間、フェイルはゆっくりと深呼吸した。
そして、臆病な心に鞭を打って不格好な不敵な笑みを浮かべてバズーに言い切った。
「僕はラスト君の言葉を信じる。残念だったね、そんな薄っぺらい煽り文句じゃ僕の心には響かないよ」
「そうですか。ならば、死ね――――」
そう言ってバズーは指先を喉に向けて動かした。
それを咄嗟にフェイルは目を塞いで心の中でラストの名前を叫ぶ。
すると直後に、バズーの僅かなうめき声が聞こえた。
「もう大丈夫」
その声に目を開けてみるとラストがフェイルを抱えているではないか。
それと同時に、フェイルを掴んでいたバズーの腕は千切れて吹き飛んでいる。
「あなた、一体どこにそんな力が? まさかそれが憤怒の悪魔様の力だと?」
ラストはフェイルをそっと立たせるとバズーに向かって告げた。
「そうだよ。正しく僕の逆鱗に触れたんだ」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




