第33話 バトルアーミー#12
――――時は十数分前
自陣のモノリス前にいたラストとフェイルの前に突如として上位魔族バスーが現れた。
そして、その手に引きずるのは人形のように動かない白服Aの姿。
「お迎えに上がりました。憤怒の悪魔様、こちらは粗末なものですが献上品となります」
「献上品......? まさか殺したのか......?」
「当然でしょう? 暴れられても困りますし、それにこれは人間に敵対している証でもありますし」
それが当たり前かのように疑問の余地もなく告げるバズーの言葉にラストの怒りが触発された。
しかし、ラストは震えだす右手を左手で抑えるとなんとか理性的に尋ねていく。
「バズーさん、あなたは俺に忠誠を誓うということ?」
「呼び捨てで結構ですよ。それにその問に関してはイエスと言えるでしょう。
私は怠惰の悪魔様の使いとしてここに来たのです。
そして、憤怒の悪魔様は怠惰の悪魔様に並ぶ存在――――いや、統率者と言うではないですか。
なら、怠惰の悪魔様の配下であるならば、その統率者たる憤怒の悪魔様にも誓いを立てるのは当然でしょう?」
バズーは誇らしげに話していく。
しかし、その言葉の意味を理解できたのはラストだけで、一緒にいたフェイルにはただでさえ上位魔族という存在に頭がパニックになっているのに、さらに意味不明な言葉が並んで半分思考を停止していた。
そして、残りの半分の思考回路でラストに尋ねていく。
「ら、ラスト君......これってどういう状況?」
「それは......」
ラストの口から言い出しづらかった。なぜなら、今のフェイルは魔族という初めての存在にすっかり委縮しているのだ。
その状況で信用しているラストの口から自分は悪魔、それもバズーが告げる憤怒の悪魔であることは言えなかった。
加えて、バラすことは自動的に黙っていただけとはいえ騙していたとなり得たからだ。
結果、選んだのは沈黙。
また、ラストは悪魔化せずにどうにかしてこの状況を切り抜ける方法を探していた。
そして、今まさに思いついた唯一の方法を試そうとしている。
「バズーさん、いや、バズー。命令する、今すぐ人間との停戦及び他の魔族の人間への非殺傷を怠惰の悪魔に伝えるんだ!」
ラストが試したことは簡単に言えばハッタリだ。
相手が自身のことを憤怒の悪魔として見て忠誠を立ててくれるのなら、自身を憤怒の悪魔のように演じてこの場からバズーを退散させるのが一番と言える。
なぜなら、一度上位魔族には事実上敗北しているから。当然その時の恐怖心は蘇っている。
しかし、今はそれ以上にフェイルを守るにはこの選択しかなかった。
仮に戦うとしても、このままでは確実にフェイルを巻き込んでしまう。
フェイルの能力は戦闘向きではないから。加えて、悪魔の力もバレかねない。
そのラストの言葉にバズーは驚いたような表情をした。
だが、次第に小刻みに肩を震えさせると最後には顔を手で覆いながら大笑いした。
「ハハハ! 本当にあの方の言う通りでしたよ! 全く同じ内容をまんま告げました! どうやら本当に――――憤怒の悪魔様ではないとは」
「......っ!」
ラストのハッタリは最初から見透かされていたようだ。
むしろ、それを告げさせるような誘導的な会話と言えたかもしれない。
つまり、バズーがしているのは現段階でラストが人間か悪魔かどちらであるかを確かめたかったということだ。
「さて、確認が出来たところでどういたしましょうか。
『やることは簡単』とは言われましたが、万が一の場合があると多少は加減しなければいけませんね」
バズーはあごに手を付けて今後のプランを考え始めた。
一見あまりにも隙の多い姿であるが、その中に隙は全く無いことをラストは理解している。
故に、近くにいるフェイルに告げた。
「フェイル、君だけでも逃げて」
「え?」
「相手の狙いは僕だ。このままここにいれば君も確実に巻き込まれる。今から時間を稼ぐからそのうちに逃げて」
「そ、そんな――――」
「振り返らずに走るんだよ!」
ラストは腰にある鞘から剣を引き抜くと憤怒の悪魔の力で身体能力だけを上げてバズーに突撃した。
そして、真正面からバズーに剣を叩きつけるが、それはバズーの左腕で防がれる。
しかし、それで良かった。確かにバズーの注意はラストに向いたのだから。
「逃げて!」
怒鳴ったようなラストの言葉にフェイルは涙ぐみながらその場から走り出した。
それを尻目に確認するとバズーに死線を向ける。
「お前の相手は僕だ。そうだろ?」
「えぇ、場合によってははですが。
なら、まずは痛みによる方法で憤怒りを溜めてみましょうかね」
バズーはニヤリと笑うと防いだ手を振り払ってラストを弾き飛ばすとすぐさま近づいていく。そして、ストレートな右拳を突きつけた。
「疾っ!」
しかし、その速度はおおよそ躱すには厳しい速度でラストは咄嗟に剣で受けるものの、そのまま勢いよく弾かれていくと背後の木をへし折ってなおもほとんど勢いをそのままに地面を数回に分けて跳ねていく。
ラストは剣を地面に突き立てて勢いを殺していく。
そして、バズーがいるであろう方向を見てみれば――――すぐ目の前にいた。
「何を出し渋っているのですか?」
バズーは回し蹴りでラストの顔を蹴り飛ばすとラストは再び数本の木をへし折りながら地面を転がっていった。
口の中を切ったのか荒い息を吐くたびに痛みが走り、口元から血が滴り落ちる。
そんなラストの姿を見ながらバズーは悠々と歩いてきた。
「今の蹴りは常人であれば容易く頭が微塵になっていたものでした。
ですが、その蹴りを受けてもなお少し顔が腫れるぐらい......なるほど、どうやら憤怒の悪魔様は強力な防御を誇っていたと聞き及んでいましたが、どうやらその言葉は本当らしいですね」
「くっ......」
「実はこう見えても私......ワクワクしてるのですよ?」
ラストは痛みを堪えて立ち上がるとバズーに突貫した。
憤怒の悪魔の“純粋”魔力のみを借りて身体能力を強化するとバズーに向かって鋭く斬りかかる。
「私の役目は本来原初の悪魔とも言えるあなた達に仕えること。
となれば、戦いを挑むなんてもはや忠義に対する謀反に等しい」
ラストの剣は容易く躱される。しかし、そうなることは“想定通り”。
故に、すぐさま背後に向かって剣を横薙ぎに振るっていく。
だが、首を狙ったその剣はバズーに片手で簡単に止められる。
加えて、どんなに動かそうともビクともしない。
その状態でバズーは会話を続けていく。
「しかし、ある特定の条件ならそのような夢の戦闘が叶えられるというもの。
それが今のあなたのような魔人となりつつもまだ覚醒に至ってない人の場合です」
バズーは剣を放すとラストはその場から距離を取っていく。
まるでいつでも殺せるようなそんな素振りにラストは言い得ぬ恐怖を感じつつ尋ねた。
「あなた達は大罪悪魔を集めてどうするつもりだ?」
「それは当然この世界の支配――――というのは、所詮この私の小さき願いでしかありません。
正直、今仕えている怠惰の悪魔様が何を考えてるかはわかりません。
しかし、こんな私よりも遥か至高なる願いであることは確実でしょう」
ラストは呼吸を整えると一度大きく深呼吸して覚悟を決めた。
その変化に気付いたバズーは僅かに目を細める。
「なら、一つ教えてあげるよ。憤怒の悪魔の目的を」
ラストの右腕に黒い魔力が纏い始め、禍々しい黒腕に変色していく。そして、それは首筋を辿っ右頬まで至った。
「ほぅ、それは是非ともお聞かせ願いたいですね」
また、黄色い目に爬虫類のような瞳に変わり、額の右側には天に伸びる角が生えていく。
「あの人は言ってたよ――――全ての悪魔を滅ぼすってね!」
「ハハハ、耳を澄まして聞いてみればなんと耳障りな言葉だ......憤怒の悪魔様がそのようなことを言っただと?――――ぶち殺すぞ?」
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