第32話 バトルアーミー#11
互いの思惑が交錯する中、エギルは口元に流れる血を手で拭い、その場を立ち上がる。
そして、正面に立つ僅かに焼き焦げたガンムを見て不敵な笑みを浮かべる。
「随分と勝ち誇った笑いをするではないか?」
「そりゃ、勝つことは決まってるからな。後はテメェをどうやって徹底的に折って殺してやるかと考えてるだけだ」
「お前が嫌う悪魔らしい邪悪な思想だな。過去に悪魔にお前自身もしくは身内が何かされたか?」
「......」
「図星か。まぁいい、あの世でゆっくりと語らわせてやるよ
「勝手に殺すんじゃねぇ!」
エギルは地面を蹴って突貫した。そして、ガンムの背後に回り込むと斬りかかる。
しかし、ガンムが指パッチンをしたことで音の障壁が出現して防がれる。
だが、エギルはその防御に対してお構いなしにもう片方の剣を振るっていく......が、結果は同じ通り。
「何度やっても変わらない」
ガンムは不敵な笑みを浮かべるとそう言ってのける。その挑発にエギルは反応することなく、同じような攻撃を繰り返していく。
何度も何度も防がれる結果を作り出すだけ。剣で攻撃しても、蹴りを入れても、魔法で攻撃してもずっと変わらない。
しかし、その単調な攻撃パターンの中で唯一違ってきていることがあるとすれば、それは攻撃速度によるものであった。
ガッガッという音がガガッガガッガガッという攻撃回数が増えた音に変わり、さらにガガガッガガガッと増えていき、やがてはガガガガとまるで機関銃が撃たれているかのような猛烈な攻撃に変わっていった。
その頃からだろうか、ガンムの防御が間に合わなくなり始めたのは。ガンムが作り出す音の障壁による最低音が指パッチンである。
しかし、その音を作り出そうとしてもほんのわずかな予備動作がある。
エギルの攻撃はその刹那の時間を狙ったものであった。それ故に、ガンムの体には無数の傷が刻まれ始めている。
その攻撃は魔族であるガンムには取るに足らない傷である。しかし、それはあくまでその傷に回せる魔力がある場合だ。
加えて、いくら回復出来ようとも心臓を貫かれたり、首を刎ねられたりと致命傷に至る攻撃を食らってしまえば死ぬ。
猛攻に防御で対処するだけの今はその危険に常に脅かされている状態になっているのだ。
そのため、体勢を立て直すためにはエギルの動きを止めることは必要不可欠。
となれば、大きい動作による大きな音を発生させる必要がある。
「チッ、仕方ない!」
ガンムは鳴らしていた両手を大きく開き、腕を左右に開いていく。そして、その両腕を思いっきり閉じる。
「そこだ!」
エギルはその瞬間を狙った。その瞬間が最大の好機と。
無策特攻にも思える攻撃を繰り返し、やっと引きずり出した相手の最大の弱点である音が鳴るまでの動作の時間。
大きな音を作り出すほど大きな力が必要になり、その力を作り出すには大きな動きが必要になる。
そして、その時間では指パッチン程度の時間では出来なかった巨大な一撃が放てる。
ガンムの背後に回り込んだエギルは左手に持っていた魔剣銃を突き出す。
「甘い!」
だが、ガンムはその動作をピタッと止めると右腕を振り回しながら後ろに向かって横に振り抜いた。
その動作はエギルの虚を突くためのデコイであったようだ。
しかし、そこに残っていたのはエギルが突き出したまま投げた魔剣銃だけであった。
ガンムの攻撃は魔剣銃の僅か下の空を切り裂き、飛んでくる魔剣銃は咄嗟に首を傾けて躱していく。
「それはこっちのセリフだ」
そして、背後から聞こえてくるのはエギルの声。
エギルは飛んできた魔剣銃を左手でキャッチするとそのまま体の右側に左右の手に持つ魔剣銃を揃えて、大きく振りかぶりながら振り下ろした。
「――――いいや、俺様のセリフであってる。『邪魔だ!』」
「がっ!?」
ガンムは大声で叫んだ。したことはただそれだけ。
だが、その攻撃はエギルに空気の衝撃波を直撃させ、エギルの最大の好機を潰すとともに吹き飛ばした。
エギルは血反吐を吐きながら地面を大胆に転がっていく。
そして、そのまま背後の木にぶつかり、さらに肺の空気を強制的に吐き出さされる。
すぐには動かないエギルを見てガンムは勝ち誇ったような笑みを浮かべて告げた。
「お前の敗因は盲目であったことだ。
俺様の魔法のトリガーは音を鳴らすこと......それにおいて当たり前すぎて忘れている最大にして絶対的な発音器官を忘れてないか? それは当然――――声だ」
ガンムは喉に指を指して主張した。そして、悠々と言葉を連ねていく。
「確かに、俺様の魔法において発動最低限の音が指を鳴らすことだ。
しかし、それは完全ではない。俺様の発生させている音が指を鳴らす音より大きければ発動するのさ。
お前はよくやった方だ。僅かな時間の中での情報集めと分析。
それによって、俺様に奥の手を使わせるほどに追い詰めた。
しかし、まだ僅かに考えが浅かったようだ。だが、それも仕方ない。
本来発生した音が徐々に大きくなるなんて思わないものな。
加えて、俺のやっていた音を出す方法ではどうやっても音が徐々に大きくなるなんてことはない。
故に、お前は俺様に負けることに恥じる必要――――」
「ごちゃごちゃとうるせぇな。俺がいつ負けたって?」
「......ほう?」
額を切ったのか血を流すエギルはそのままで睨みつけるような目線を送ったまま、魔剣銃を地面に突き立てて立ち上がる。
「俺は全ての悪魔をぶっ殺すまで負けねぇ。死なねぇ。そのためにはテメェ程度に苦戦してるようじゃダメだ」
「俺様程度ね......虚勢はほどほどにすることだ。もう一発喰らえばもうまともに立ち上がれないことになる」
「やってみろよ。キザ野郎!」
エギルは全身に雷の魔力を纏わせると筋肉のリミッターを僅かに解除させた。
その姿は全身に紫電を走らせる雷の化身のようであった。
「纏雷速滅 解放率20%」
「それがお前の奥の手か?」
「いくぞ」
エギルは走り出した。そこに僅かな雷の道筋を残して。
その速度にガンムの余裕の笑みはすぐになくなり、視線を込まなく動かしていく。
「ぐっ!」
ガンムは指パッチンで音の障壁を作った。しかし、それがある反対側から攻撃を食らう。もう一度音を鳴らすが結果は同じ。
自身の周囲に連続で指パッチンして障壁を作り出すが、障壁が出現していられる1秒後には消えた障壁から攻撃が振るわれてくる。
だが、次第に目が慣れて来たのか僅かにエギルの速度に目が追い付いてきた。
そして、エギルが正面から攻撃してくることが察知できると正面に音の障壁を作り出した。
ガンッと音が鳴る。エギルの攻撃を防いだのだ。
防いだとなれば、攻撃した時の反作用で僅かな静止時間が生まれる。
「残念だったな。お前の命運もここまで......なぜお前は素手なんだ?」
ガンムはここで気づく。エギルが攻撃した際に音の障壁で防いだのが拳であったことに。
あれほどまで両手に剣を持って戦っていたのに。
その時、エギルはほくそ笑んだ。
「テメェは俺の速度に慣れたんじゃねぇ。テメェの目でも追える程度に速度を落としただけだ」
「何? なら、剣は――――」
そう言いながら目の端で一つの剣がガンム自身の横側にある木に剣が刺さっていることに気付いた。
反対を見てみれば同じように刺さっている。
「まさか......!」
「今更気づいても遅せぇよ!――――雷撃」
エギルが後ろに下がると同時に片方の剣に向かって雷を飛ばした。
その雷を受けた剣に溜まった雷エネルギーはガンムを通過するようにして、もう一つの剣へと流れていく。
それによる感電でガンムの動きは痺れによって一時的に止まる。
そのタイミングを狙うように左手でブレを無くすように支え、右手で指鉄砲の形を作った。
「これで終わらせる」
しかし、全身に魔力を巡らせて動けるように回復させたガンムはエギルに向かって叫んだ。
「これで終わりだ――――『死ねぇ!』」
ガンムの声から音の衝撃波が放たれる。
最大限に叫んだそれは音速波となっていて、エギルが攻撃するよりも先に容易くエギルの体を通り抜けていく。
全身を揺さぶられていく衝撃にエギルは盛大に血反吐をぶちまけた。
酷使した足の骨が衝撃で骨折していくのを感じる。
しかし、エギルは頭と手さえ動けば十分であった。
その意味を示すようにエギルは意地でも動かさなかった右手の人差し指から雷の魔力弾を放つ。
それはガンムの喉に突き刺さるとエギルは「仕舞だ」とでも告げるように撃ち終わった銃が反動で銃口を上に向けるように肘を曲げた。
その直後、ガンムの喉に刺さった魔力弾は激しく光始め、一気に爆発した。それによって、ガンムの頭が弾け飛んでいく。
「俺様が......負けた......だと?」
「ハッ、ザマねぇな」
ガンムの体は霧散していく。そして、エギルはそのまま背中から地面に叩きつけられると大の字になったまま空を見上げる。
「折れたのは右足か......中級魔族一体にこの体たらく......クソが!」
エギルは愚痴を吐き捨てると痛みをこらえて起き上がり、近くにあった木の棒を支えにして立ち上がると剣を回収して森の中へ進んでいった。
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