第31話 バトルアーミー#10
流れるような光とともに一瞬弾けるような紫電が僅かに煌めく。その一瞬に確かに捉えたいるはずのない人物の姿。
そして、その人物は魔族と一緒に流れていったのですぐさまその方向へと視線を向ける。
「どうしてお前がここにいる――――エギル!」
グラートは思わず叫ぶように尋ねた。それに対し、エギルはめんどくさそうな表情をしながらも応えた。
「ここに悪魔の魔力を感じたからやって来ただけだ」
「やってきただけって......ここには結界があるんだぞ!? それをどうやって?」
「突き破った。厳密には突き破るまで攻撃していたら一瞬結界が弱まる波状が見えたからそこを突いたら入れただけだ」
その時、グラートは先ほどの結界が揺れたのを目撃した記憶を思い出した。どうやらリナの行動は思わぬ人物を招き込んだようだ。
「つまりだ、コイツの獲物は俺のだ。コイツをぶっ殺すのは俺の役目だ」
漲る殺意を不敵な笑みに変えてエギルは地面に寝転ぶ魔族を見た。すると、その魔族は上体を起こすと口元に流れる血を手の甲で拭う。
「横槍とは随分無粋じゃないか?」
「俺ははなからお前が相手だ。お前が勝手によそ見していただけじゃねぇのか?」
「ふっ、減らず口が。まぁいい、それよりもだ。ランザ、ラクロスと倒されるとは正直舐めてた。
だが、この俺様――――ガンム様が来たからにはもはやお前達に生きる未来などない」
立ち上がったガンムは堂々とした姿で告げた。見た目が20代のイケメンであるが故に、その口調と笑みのウザさが癪に障ったのかエギルは言い返す。
「未来がないのはテメェの方だ。俺は狩人。悪魔を鏖殺するためにここにいるんだからな」
そして、エギルはグラートへと振り向くと告げた。
「コイツは俺の獲物だ。手を出すことは許さねぇ。テメェはさっさと他所へ行ってろ」
「......! お前......」
その言葉をグラートはすぐに察した。そして、それ以上聞き返すことはしないと「死ぬなよ」とだけ告げてグラートは走り出す。
「すんなり行かせるんだな」
「別に問題ないからな。俺様の“美声”の前では。それよりもそんなに俺達が憎いならもっと相応しい相手がいることぐらいお前にも理解できているだろう?」
ガンムの指す言葉の意味はこの魔族軍団を率いてきた上位魔族に対する言葉であった。
それをエギルもしっかり理解している。故に、平然と告げた。
「たまたま見つけたザコをとっとと片付けて向かう予定だ。何の問題もない」
「ほう、そうか」
ガンムの言葉を真似したような言い回しにガンム本人は眉をピクつかせて苛立ちを感じる。
しかし、あくまで理性的に悪意を剥き出しにして告げた。
「なら、ぶっ殺すまでだ!」
「こっちのセリフだ」
「とっとと仕舞にしてやるぜ!」
エギルは自身に雷を纏わせるとそれによる全身の筋肉に刺激を与えて高速移動を開始した。
そして、あっという間にガンムに近づくと右側に大きく振りかぶった両手に持つ魔剣樹(剣型)で斬りかかる。
しかし、その動きをガンムは容易く躱すとその次のエギルのラッシュも躱していく。加えて、その魔法を冷静に分析していた。
「ふむ、「感電させる者」で魔法は雷ときたか。貴重な原種魔法を持っているようだな。
その魔法は原種が故に応用の幅は少ないが確実な攻撃性と単純パワーが備わっている厄介なものだ」
「なんだ? 怖気づいたか?」
「怖気づく? この俺様が? 当ても出来てないのによく言う」
「だったら、今この瞬間に当ててやるよ――――崩雷」
その瞬間、ガンムの頭上から雷が落ちて来た。その雷をガンムは咄嗟に地面を蹴って大きく後方へと跳んでいくとその背後には回り込んだエギルが剣を構えている。
そして、両手に持つ剣を駆けだした勢いと共に突き刺そうと伸ばしたその瞬間、小さく一つの音が鳴り響いた。
――――パチンッ
直後、エギルの剣先が謎の壁によって弾かれた。そこには一見何もないように見える。しかし、確かな強度があった。
「透明な壁!?」
「正解だ。おまけにもういっちょくれてやる」
「がはっ!」
ガンムがもう一度指をパチンッと鳴らした瞬間、エギルの腹部に不可視の何が飛んできてそのまま吹き飛ばしていった。
感触からしては箱状の何か。先ほどの壁とは違う。しかし、同じところがあるとすれば、透明であること。
エギルは転がりながらもすぐさま剣を地面に突き立てて勢いを殺していく。
「お前の能力は自在に不可視の壁や箱を作り出すって能力じゃないな?」
「なぜそう思う?」
「だとすれば、お前の行動の中で無意味な行動が2つあったことになる。
まず一つは俺の攻撃を避ける際、分析するためであれば初めから透明な壁を自身の周囲に張った状態でも出来たはずだ。
そして、2つ目はお前が俺の攻撃を防ぎ、さらに攻撃する瞬間、まるで演出するように指を鳴らしたが......それがトリガーなんだろ?」
「......存外バレるのが早くてびっくりしてる。そうだ、俺様の魔力特性は『響かせる者』。そして、響かせた音を任意に形に出来る。
お前は存外知恵者だな。一見好戦的な死にたがりに見えるが、すぐさま俺様の魔法を看破する冷静さを持っている」
「死にたがり? 違げぇな。俺は死ぬ気はねぇ。俺は勝ちしか見ねぇ好戦的な戦士だ!」
そう言ってエギルは高速で動き出した。その姿を見てガンムはため息を吐く。
「それを死にたがりと言うんだ―――反響壁」
エギルは攻撃を仕掛けるがそれはガンムが指を鳴らしたことによる透明な壁で弾かれる。
すぐさま回り込んで攻撃を加えていくが弾かれ、さらに回り込んで......とほぼ多方向から同時的に攻撃を加えているが、その全てがガンムには届いていない。
「無駄だ」
「がっ!」
エギルが攻撃を仕掛けようとした瞬間、音が2回鳴った。直後、一つは壁となって攻撃を防ぎ、もう一つは箱状の砲弾となってエギルの顎を打ち抜いた。
その衝撃でエギルは大きく体を逸らしていく。しかし、エギルは自身の胸の前で剣を交らわせるとその剣を媒介にして集中させた雷のエネルギーを一気に放出した。
「拡雷溜弾」
エギルが剣を開放するとともに周囲に無数の雷の球体が拡散していく。
その攻撃にはガンムもさすがに嫌な気配を感じたのか胸の前で両手を合わせて大きな音を鳴らすとうっすらと肉眼でも確認できるような巨大な壁を作り出した。
「崩雷」
「があああああ!」
エギルは体を無理やり一回転させると片方の剣を地面に突き刺して勢いを殺し、もう片方の剣をガンムに向けた。
すると、その攻撃はガンムに弾かれることなく、そのまま直撃して感電させていく。
しかし、その後の追撃をエギルは行わなかった。いや、行えなかった。それは顎を攻撃されたことによる脳震盪によってだ。
平衡感覚が崩れ、視界がぼんやりと歪んでいく。立てないほどではないが、回転する遊具で回り終えた直後のような目が左右にブレる感覚がしている。
とはいえ、咄嗟の攻撃によって新たに2つの収穫があった。
それはガンムが魔法を発動させるには音を鳴らす必要があるのだが、その音が大きいほど魔法の影響も大きくなる。つまりは指パッチンが最小音と仮定できるということであった。
加えて、大きな音を鳴らせばその分強い衝撃に耐えられる魔法を作り出せるが、当然大きな音を作り出すにはそれなりの準備がいる。
仮に両手で音を鳴らしても、拍手程度の音で防げない攻撃であれば、一度の大きな音の後には再度大きな音を鳴らすためのクールタイムが生まれる。つまり、その瞬間がねらい目であるということ。
エギルは僅かにニヤッと笑みを浮かべた。それに対し、ガンムも僅かに焦げた体をそのままにエギルを見て思った。
――――そこが狙い目と思ってんだろうな、と。
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