第30話 バトルアーミー#9
『魔力回線が復活したのか?』
「みたいよ」
グラートの僅かに驚くような声が脳内に響く。そして、その声で無事であることを確認したリナは軽く息を吐いた。
『あなたも無事で良かったわ。私の方では突然魔族が介入してきたから』
『俺の方でも中級魔族が介入してきた。近くにいた二年と一緒に倒すことが出来たのが幸いだったな』
『そうね、あなたには初めての中級魔族の討伐であろうからね』
『あぁ、正直中級魔族があそこまで苦戦する相手とは思わなかった。俺一人だったら勝ち目無かったかもしれない」
『ともかく無事でよかったわ。でも、今は歓談してる時間はない。今から私の言う指示をよく聞いて』
リナはそう言いながら周囲に魔力を飛ばしていた。それをソナーのように使って魔力の濃い場所を漁っていく。
そして、一つの方向から膨大な魔力反応を見つけ、そこに向かって走りながら会話を続けていく。
『確認だけど、今私達は閉じ込められてるのはわかってる?』
『あぁ、天井にうっすら結界が張られてるのが確認できる。ただ、さっきは結界に妙な揺れを感じてな。
タイミング的にお前さんから連絡を受ける直前だったから......何かしたのか?』
『えぇ、恐らく原因は私でしょうね。たまたま結界を起動させている結晶体を見つけて破壊したの。それで今はもう一つの場所を見つけてそこに向かってる最中』
『ってことは、今からの俺の仕事はその結晶体を破壊することだな?』
『いや、それは二の次でいい』
リナの前に下級魔族である醜悪な顔をした数人の小人や猪の顔を持った大男、鬼顔をした巨体が現れた。
その魔族の出現にリナは少しだけイラッとしたような表情をしながら、左腰の鞘から蛇腹剣を引き抜いていく。
『どういうことだ?』
グラートの返答が帰ってくるとともに小人の集団が一斉に襲ってきた。
それらに対して全く退くことなく左手に腰から引き抜いた魔剣銃(銃型)の銃口を突きつけるとそこから魔力弾を射出していく。
飛び出した弾丸は百発百中とも言うべき精度でそれぞれの顔面を打ち抜いて一瞬で絶命させた。
すると、サイドからリナに向かって猪男が丸太のような棍棒を振り下ろしていく。
それを華麗に躱しながらリナはグラートの疑問に対して答えた。
『本来魔族に徒党を組むような意思は少ない。それこそ奪い取った肉体に血縁関係があった場合とか夫婦や恋人という強い繋がりが無ければ』
リナは蛇腹剣を振るうと蛇のようにしなやかに曲がる刃が猪男の首に絡みついて削るように動きながら切断した。
『しかし、それを意図的に可能にする方法があるとするならより強い存在の支配下に置かれているということ。いわゆる兵隊ね』
『そういえば、俺が戦っていた魔族も他に仲間がいるみたいなことを言ってたな』
鬼男が巨大な戦斧をリナに向かって叩きつけた。
それをバックステップで躱していくと背後の木の後ろから現れた数体の小人が飛び掛かってくる。
リナはその存在に気付くと僅かに振り向いて距離感だけを確認していく。
そして、左手に持つ魔剣銃を正面から向かって来る鬼男に、右手に持つ蛇腹剣はその刀身を鞭のようにしならせて背後に振るった。
放たれた魔力弾は鬼男の太ももにそれぞれ直撃して、バランスを崩した鬼男は前のめりに転んでいく。
また、リナの背後で動いた蛇腹剣は揺らめきながら全ての小人に対して斬り払った。
しかし、ほぼ刀身に当てただけのそれではその小人達は倒せていない。
故に、後ろを振り向くと地面を踏みつけて<凍草>によって串刺しにしていく。
その一方で、右手を背後に向けて伸びた蛇腹剣の先端を鬼男の脳天に突き刺して絶命させた。
「全く、めんどうね」
『確かにそうだな』
呟いた言葉がグラートに聞こえてしまっていたのか思わずビクッと反応したリナ。
幸い、偶然にも話が繋がって問題なかったが、“ふと思ったことが容易に伝わってしまうことには気をつけねば”と感じながら、グラートに返答する。
『皮肉にもこの状況は似てるのよ。前の私達の遠征と』
『遠征......ラストと共に中級悪魔を倒しに行った日のことか』
リナは再び走り出した。それと共に下級魔族が配置されていたことに目的地が近くなっていることを確信していく。
すると、その時のことの内容を思い出したグラートは思わず焦った声で返答してきた。
『ちょ、それってまさかここに上位魔族がいるってことか!?』
『そうなる。加えて、倒した中級魔族が私達の2体とは限らない。
けど、もし今回の襲撃の狙いがラストに眠る憤怒の悪魔だとすれば、それに結界まで張って逃がさないように用意周到さを考えれば、これが単なる中級魔族の思い付きの行動ではないのは確か。
明らかに計画性があるし、それに......もっと上の存在による影響もあり得る』
『それっていわゆる特魔隊が悪魔を殲滅するうえで避けては通れない大罪シリーズの悪魔だよな?』
『......あなたも気づいていたのね』
『たまたまだ。たまたま相手がそう匂わすような発言をしていたのを聞いただけだ。
だが、それが意味するのは今回の襲撃なんてまだ始まりに過ぎないってことだろ?』
『それを今から不安がっても仕方ない。それに今はやるべきことがある。
少し話が長くなってしまったけれど、用件を伝えるわ。あなたにはラストへの救援に向かって欲しいの』
『俺がか!?』
グラートの驚くような声が聞こえる。それに対し、リナは淡々と答えていく。
『えぇ、あなたが。ラストは前に上位魔族に対してダメージを負い過ぎて憤怒の悪魔が持つ魂に触れ過ぎた。
その結果、暴走しかけてゼイン隊長が来てくれなければ最悪な事態になってたかもしれない』
『それについての話は一応聞いているが......そんなに酷かったのか』
『ラストにはあえて伝えられてないけどね。ただ、それは悪いことばかりじゃない。
それが起きたのはラストが憤怒の悪魔との同調率が高いからでもあるの。
高ければそれだけ憤怒の悪魔の力が引き寄せることが出来て、それがラストにコントロールできれば特魔隊の軍勢なんて比じゃないほどの超戦力になる』
『そんなに凄いんだな、それは......』
『そう。故に、魔族の中にいる悪魔至高信者からすれば、ラストを意図的暴走させるような攻撃を仕掛けてくる可能性もある。それを防ぐためにあなたにはラストに向かって欲しい』
『そう言うことか。納得した』
『結晶体は見つけたら破壊でいいわ。
これがある数も把握できてない以上、これを探すのは後回しでもいい。
それから、くれぐれも死なないこと。死んだらラストが確実に暴走するわ』
『上位魔族相手に死ぬな、か。そうだな、俺のライバルをここで失うわけにはいかない』
リナはグラートの言葉に僅かにほほ笑むと「武運を祈る」と言って通信を切り、見つけた結晶体を破壊した。
******
通信が切れるとほぼ同時に魔力の揺らぎを感じた。ふとグラートが上を見てみれば結界が揺れている。
「仕事が早いことで。なぁ、ちょっと頼みたいことがあるんだが――――」
「後ろだ、一年!」
「......っ!」
グラートが深刻そうに叫ぶ白服Bを見た瞬間、背後から悍ましい気配を感じてすぐさま振り返った。
すると、その眼前には今にも首を掻き切ろうと手刀にした右手を伸ばす魔族の姿があるではないか。
「マジか――――」
「――――ぶっ殺しに来てやったぜ! クソ悪魔!」
その直後であった。グラートの目の前にいる魔族の真横から高速で何かが飛来してきた。
そして、それは魔族の顔面をその勢いのまま蹴り飛ばしていく。
グラートはその刹那のような一瞬に確かに捉えた。
ここにいるはずのない――――エギル=ラクリエッタの姿を。
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