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第29話 バトルアーミー#8(グラートサイド)

「ハハハッ、全身に風穴を開けるか、刺さってサボテンになるか! 好きな方を選びな!」


「急に粋がってんじゃねぇよ!」


「だが、このままでは本当にそうなっちまう。ここは一旦防ぐしかない!」


 ラクロスによって放たれた数多の棘に対し、白服Bとグラートはそれぞれ木の枝を編み込んだ障壁、地面を隆起させた障壁を作り出してその攻撃を防いでいく。


 そして、二人はグラートの作り出した壁に背をつけると身を隠すように座り込んだ。


「これは不味いな。なんか策はあるか一年?」


「そんな急に言われてもなぁ......と言おうと思ったが一つだけ策がある。

 だが、そうなると少なからず体張ってもらうけどいいか?」


「仕方ない。魔族が襲撃してきた時点でもはや俺達のいざこざなんてどうでもいい。それよりも生き残る術を考えた方が得策だ」


「ま、それがあの魔族を討伐しなきゃいけないってのが皮肉だけどな」


「―――――それで隠れたつもりか?」


「「......っ!」」


 壁を乗り越えるようにして長く伸びた二本の棘が二人の頭上まで差し掛かると一気に棘の雨を降らせていく。


 その攻撃に咄嗟に地面を蹴った二人は躱していくが、その棘は射出向きを変えて二人を追うように棘を飛ばしてきた。


 それによって、それぞれ左右に展開していくように走り出すと突然白服Bがグラートに向かって叫んだ。


「聞け、一年! お前の策は知らねぇがとにかく壁になってやる! しくじるんじゃねぇぞ!」


「わかった! そっちこそ早々にくたばるんじゃねぇぞ!」


 白服Bは木製戦槌(ウッドハンマー)を取り出すと正面からも飛んできた棘に対してそれで弾いていく。


 そして、そのままラクロスに肉薄していくと木製戦槌(ウッドハンマー)を思いっきり叩きつけた。

 しかし、それはラクロスの作り出した黒紫色の膜に弾かれる。


 その一方で、白服Bに注意が向いた隙を狙ってグラートが一気に走り出す。

 後方から追ってくるような棘も前方から向かって来るような棘もない。

 距離はおおよそ5メートル程。それぐらいならすぐに攻撃に踏み切れる――――距離だった。


「くっ......!?」


「お、よく反応したね」


 グラートが接近するために足で地面を蹴った直後、真下から黒い何かが迫ってくるのをグラートは咄嗟に目の端で捉えたのだ。


 しかし、まるで合わせられたかのようなタイミングにより止まることはできない。

 故に、グラートは僅かに体を逸らし、加えて重心を外側に向けるようにして真下から飛び出した棘を躱したのだ。


 それはグラートの頬を縦に掠めながら木の高さほどに伸びていく。また、その攻撃によってバランスを崩したグラートは地面に転がった。


「何かが......来る!?」


 だが、グラートが寝そべった先にも地面から何かが接近してくる気配に追われそのまま横に転がっていくと先ほどいた地面から棘が飛び出してきたのだ。


 それはグラートが地面を転がって行く度にいくつもの棘が地面から生えていき、このままじゃ埒が明かないと感じたグラートは地面を隆起させて自身を吹き飛ばした。


 しかし、その行動は一旦仕切り直しのための距離稼ぎとはいえ、空中に一時的に居るというリスキーな賭けでもあった。


 ラクロスの棘は見て避けれるほどの速度じゃない。

 自身の行動というコマンドを捉えるよりも少し前に行動コマンドを入力しなければ避けられないのだ。


 故に、空中に一時的にでも浮いてしまったということはその一時的の間に仕留められることは普通にあり得るということ。


「......」


「......?」


 しかし、ラクロスは後ろ目でグラートを認知してるはずなのに追撃をせず黙っているだけ。

 その行動にさらなる疑問を感じながらグラートは距離を取ることに成功した。


 またその直後すぐに、ラクロスの不可解な原因について探っていく。

 それは当然“どうして追撃してこなかったか”ということだ。

 敵の一人を仕留められるチャンスをみすみす逃す。

 それがめんどくさがってる時のラクロスなら未だしも、今は完全に殺すための行動をしていての見逃しだった。


「つーことは、これは何か制限がある?」


 考えてみれば、そうとも思えなくもない行動はいくつかあった。

 棘を網のように張り巡らせて攻撃したあの時、なぜあの状態から棘を撃ち出さなかったのか。


 またグラートが二段構えの攻撃した時の体を逸らすような避け。

 先ほどのグラートに対する攻撃もそもそも前からも後ろからも下からも攻撃していたのならば、容易くグラートは死んでいた。


 それらから考えるに恐らくは――――


「そうか。それがお前への勝機か」


 グラートは気合を入れるように両拳をガキンッと鳴らすと白服Bに向かって叫んだ。


「チャンスを作ってくれ!」


「簡単に言ってくれる!」


「だがら、最初の手助けはしてやるさ――――鉄針山(アイアンパイレーツ)!」


 ラクロスの伸びる棘の猛攻に耐えていた白服Bはラクロスの周囲の地面から鋼鉄の針が飛び出してきたことに気付いた。


 そして、同じく気づいたラクロスはその魔法の攻撃性の高さから白服Bに向けていた棘を霧散させて、自身の周囲に障壁として膜を作り出した。


 ガガガガッと一斉に襲ってきた鋼鉄の針は膜に直撃すると僅かにオレンジ色の火花を散らして停止した。

 だが、そこにすかさずに白服Bが攻撃を仕掛けていく。


「そらよ!」


「くっ......!」


 振り下ろされた木製戦槌(ウッドハンマー)をラクロスは素手で触れて僅かに軌道を逸らすように流した。


 そのことに白服Bは僅かに目を開かせるとそこからさらに木製戦槌(ウッドハンマー)の先端を向けると魔法を発動させる。


「樹槍」


 その瞬間、木製戦槌(ウッドハンマー)から独立するようにいくつもの鋭い枝が伸びていった。

 その攻撃に咄嗟に膜を前方に移動させながら、距離を取るように後ろへ飛んでいく。


「譲ってやったぞ、一年!」


「どうも!」


「次から次へと......!」


 ラクロスの懐までダッシュしたグラートは膜がない側面から拳を叩きつけようと思いっきり振るった。


 それを膜で受けようとしたラクロスであったが、前方には白服Bの攻撃を受けていて、その他の後ろやもう片方の側面からは新たに生成された鋼鉄の針が攻撃してきているため、その攻撃は我が身でどうにかしなければならなかった。


 そんなラクロスの状態を見てグラートは笑みを浮かべる。


「やっぱりそうだ。お前さんが創り出せる膜の面積は決まっている。

 加えて、強い攻撃をしようとしたり、膜を厚くしようとすると膜が使える面積はさらに減る。そうだろ?」


「それを知った所で僕が人間に負けるはずがない」


 グラートの鋭い右ストレートをラクロスは腕をクロスさせて防いだ。

 その瞬間、二側面からの針の攻撃が止んだことに気付き、防御に回していたその分を攻撃に回してグラートを包み込むように棘を作り出していく。


「残念だったな。僕の勝ちだ」


「いや、俺の価値だ――――変形 剣型(ブレイバー)


「がっ......!?」


 直後、グラートの右拳に纏っていたガントレットの甲辺りから真っ直ぐ伸びる鋼の剣が生成された。

 その剣はラクロスのガードを貫いて、そのまま心臓を貫く。


 ラクロスは何が起こったかわからなかった。ただハッキリしていることは負けたということだけ。


 周囲の膜が霧散していく。そして、剣を引き抜いたグラートの方へと倒れ込むように前かがみになっていった。


「嘘......だ」


 そう言い残しラクロスの体は空気中へと溶けていく。

 その姿が完全に見えなくなるとグラートは初めて息を吐いた。

 すると、グラートに白服Bは声をかける。


「やはりお前も『変形させし者』だったか。違いがあるとすればその対象が“木”か“土”かの違い。だが、まさか物質そのものにも干渉できるとはな」


「勝つための秘策だったんだけどな。それよりも、やはりまだ結界は壊れないか......」


 グラートが見上げる天井には相変わらず薄く膜のようなものが見られる。このフィールドに設置された結界だ。


 するとその時、その結界が僅かに揺らめいたような気がした。その直後、グラートの脳内に声が届いた。


『私の声が聞こえる? 今からやって欲しいことがある』


 それはリナの声であった。 

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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