第28話 バトルアーミー#7(グラートサイド)
「ふぁ~~~むにゃむにゃ......ねぇ、まだ粘るつもり?」
切り株に座りながら退屈そうにあくびをするラクロスの正面には魔物の軍勢と戦っているグラートと白服Bの姿があった。
その二人は動物型や昆虫型、それらの一部を複合したような合成魔物に対してひたすら防戦一方に近い戦いを強いられていた。
しかし、その二人の襲っている魔物の数は最初に襲ってきた数より明らかに少なくなっていることからかなりの数を削ったとも言えていた。とはいえ――――
「このままじゃ埒が明かねぇぞ!」
「わかってる! だが、このままどちらかが攻め込んで勝てるような相手じゃなさそうだけどな!」
苛立ちを示す白服Bに対してグラートも魔物の激しさに口元を歪めながら冷静に分析した意見を返した。
その言葉に白服Bも思うことがあるのかただ舌打ちするだけで反論してこない。
「んじゃあ、この数を一気に叩くしかねぇ! 手を貸せ一年!」
「言われずともわかってる!」
「樹木針!」
「飲み込む大地」
グラートは一瞬の隙をついて地面に手を触れさせると正面に即席の落とし穴を作り出した。
その穴にほぼ埋まりきるほどに魔物が落ちると落とし穴を作り出す際に外周からその穴の分だけ抜いた土で蓋をしていく。
そこに白服Bが周囲の木々から枝を伸ばして何本もの杭を作り出すとその埋めた穴に向かって突き立てていく。
「ちゃんと倒したんだろうな?」
「安心しろ。突き刺した木から更に枝を伸ばして穴の隅々まで行き届くように枝を伸ばしてある。後は残りの数体だ」
そして、二人が生き残って襲ってきた魔物を全て倒すとそれを眺めていたラクロスは「おぉ~」と言いながら拍手していた。
「すごいね、君達。まさかあれだけの魔物の数を凌ぎきるなんて。
前に襲ってきた特魔隊? って連中は逃げちゃったのに」
「だとすれば、それはきっと賢明な判断だっただろうな」
「俺達はすでに逃げられないと分かっているから抗うしかなかっただけだ」
全身の無数の傷をそのままに滝のような汗を拭うこともせず荒々しい呼吸をしながら返答する二人はここからが本当の戦いになることを直感していた。
それに対し、ラクロスは少しめんどくさそうな顔をすると告げる。
「でもなぁ、これって結局僕が戦うことになるわけでしょ? うわぁ、めんど」
「だったら引いてくれないか?」
「だから、無理だって。そんなことしたら殺されるの僕だし。それに君達如きで逃げるなんて真似したくないし」
「んだと!?」
「おい、落ち着け!」
ラクロスの挑発的な言葉に白服Bが声を荒げる。
その反応にグラートは制止させようとするが、逆にその反応を好機と感じたラクロスは僅かにニヤリと口元を歪め言葉を重ねた。
「ま、君達のちっぽけな魔法で僕の魔法に敵うわけないし?
勝てると思うならせいぜい足掻いてみなよ。特別に相手してあげるからさ」
「上から目線でペラペラと......! 上等だ! ぶっ殺してやる!」
「待て! チッ、クソッたれ!」
ラクロスに刺激された白服Bは闇雲に走り出すと近くの木から木製戦槌を作り出し、そのまま突撃していく。
それに対し、ラクロスはポケットに手を突っ込んだまま自身の背後に黒紫色をした幕を展開するとそこから何本もの棘を射出していく。
膜から伸びるようにして飛び出した棘は標的の白服Bに向かって直進していくが、白服Bはその棘を木製戦槌で先端をへし折りながら掻い潜っていく。
「ケッ、調子乗ってる割には大したことねぇな!」
「調子乗ってるのはそっちじゃない?――――蔓延る棘」
「......ぐっ!」
その瞬間、へし折った棘の伸びた部分から分岐するように新たな棘が生み出され、射出されていく。
加えて、それが四方八方に伸び、その伸びた棘から新たに棘が射出されていくという範囲攻撃がなされた。
その棘に直撃こそしなかった白服Bであったが、僅かに腕や足を掠めてラクロスまでに失速していく。
「それじゃ、バイバ――――っ!?」
「大地の鉄拳」
そのまま無数の棘の攻撃で白服Bを串刺しにする予定のラクロスに両端の地面から生えた二つの巨大な拳が殴りかかってきた。
ラクロスは咄嗟に白服Bに向けていた膜を自身の囲うような膜に変え、その膜に纏うように無数の棘を配置した。
その瞬間、膜から切り離された白服Bの周辺にあった棘は霧散して消えていく。
ガンッと鈍い音を立てた振り下ろされた拳は強固な壁によって亀裂が入り、そこから徐々に壊れていく。
「不意打ち残念だったね」
「不意打ちが効くような相手だったらどんなに楽か」
ニヤリと笑うラクロスに無理に余裕そうな笑みを作るグラート。
そこに攻めがなくなった白服Bが一気に距離を詰めていく。
「よそ見すんじゃねぇ!」
そう叫びながら振り下ろした木製戦槌はすぐに膜によって防がれた。
「よそ見しても攻撃を食らわないんだよ、残念ながら」
「だったら、よそ見しなくても攻撃を食わせられるようにすりゃいいんだよ!」
グラートが一気にラクロスに接近していくと右手につけたガントレットで殴りかかっていく。だが、それも膜によって防がれた。
「寄りよって素手?」
「だけじゃねぇよ!」
グラートは構わず左拳をフックのように振るった。当然その拳も防がれるが、それによって地面から生えたもう一つの拳に反応が遅れたラクロスはその攻撃に対しては咄嗟に距離を取っていく。
「いけ、二年!」
「指図すんな、一年!」
「ぐっ!」
直後、大きく振りかぶった白服Bが木製戦槌をラクロスに叩きつけることに成功した。
それによって、吹き飛んでいくラクロスは地面を転がりながら自身の周りに展開した膜から棘を地面に突き刺して勢いを殺して止まっていく。
無防備な状態からの重たい一撃に口から血を流すラクロスは先ほどまでのダルそうな目つきから一気に鋭い目つきに変えて告げた。
「痛ってぇじゃなぇか!」
「はっ、ザマぁ見ろってんだ」
その言葉に白服Bはドヤ顔した方に言い切る。その一方で、グラートはラクロスは先ほどの僅かな行動の変化に疑問を感じていた。
「良い気になるなよ人間風情が。お前達は所詮僕達の家畜でしかない。食われるその日まで生きれることに感謝しながら暮らすことだ」
「ざけんな、悪魔風情が。この未来の特魔隊員の俺が直々にぶっ殺してやるから覚悟しておけ」
「それについては同感だな。これ以上悪魔に好き勝手に犠牲者を増やさせるわけにはいかない」
言い返してくる白服Bとグラートに対し、ラクロスはケタケタと笑っていく。
そして、立ち上がったラクロスはそっと右手を掲げた。
「お前達は俺達を殺しきることは出来ない。この世界にあの方達がいる限り、永遠に安寧な世界など訪れない!」
その言葉にグラートは何かに気付いた様子で尋ねた。
「『あの方達』ってのはお前ら悪魔でも数人しかいないと特別な悪魔である″七つの大罪シリーズ”の存在のことか?」
その言葉を聞いた瞬間、ラクロスの笑いをピタッと止まり突如として静寂が訪れる。そして、少しの間が空いた後にラクロスは答えた。
「そうだ。僕はあったことがある。あの方この世界を支配するにふさわしい存在だと直感した。
そして、その方の仲間が人間の器に未覚醒のまま留まっていると聞いたから僕はここに来ることを選んだんだ。
だけどね、その方達を知ったように言うんじゃねぇよ! クソ人間が!」
ラクロスは叫ぶと同時に背後に膜を展開してそこから短い棘を無数に射出していく。
「ハチの巣になって死にやがれ!」
*****
場所は変わって結界の外。そこには一人の金髪の少年が立っていた。
白の制服を着た目つきの悪いその人物は両手に持った剣をおもむろに結界の壁に向かって斬りつける。
しかし、結界が壊れることはない。
「チッ、クソが。ここに悪魔の気配がするのはわかってる。悪魔をぶっ殺すのは俺だ。さっさと入れやがれ!」
そう言いながらその人物は結界を壊そうと剣を振るい続けた。
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