第27話 バトルアーミー#6(リナサイド)
「くっ......!」
リナは苦虫を嚙み潰したような顔をした。それは目の前で広がる凄惨な光景が物語っていた。
「こっちは少々頭が弱いらしいな」
リナの目の前にはランザが人狼となっている白服Dの胴体を手刀で貫いている光景があり、白服Dは反応もなくぶらさがっているのみ。
そんな白服Dに対して嘲け笑いながらランザはそのまま貫いた右腕を振ってランザの胴体を吹き飛ばした。
空中を飛ぶ白服Dの体は徐々に人狼の姿から元の人間の姿に戻っていき、リナの目の前で地面を転がる頃には完全に人の姿になり、遠くを見つめたような目でうつ伏せになる。
リナはすぐさま駆け寄って白服Dの体の向きを仰向けに戻すが明らかに呼吸はない。
真っ白のな制服が中心から深紅に染まっていて、口元からも血が逆流したように血が流れた跡がある。
リナは思わず歯を食いしばる。勝手な行動による自業自得の結果とはいえ、人の死に対して何も感じないほど冷めていない。
そんなリナの姿を遠目で見ながらランザは話しかけた。
「即死だ。今更確かめる必要も無い。お前達人間の体はもろすぎていかんな。
食料のために半殺しにしようかと思えば、腹を貫かれただけで死ぬんだから」
「ハァ、ほんとに辟易するわ。あなたのような最悪の悪魔に出会うとね!」
リナが珍しく声を荒げた。普段は落ち着きのある彼女だが、他人とはいえ人の死とランザの言葉が怒りのボルテージを上げるには十分だったようだ。
しかし、僅かに違うことは昔なら持っていた“憤怒の悪魔の力”が発動しないこと。
その力はよりよい素体のもとに移り、今や悪魔の力を引き出した魔人としての戦闘力は無い。
「なんだ殺きか?」
「はなからそのつもりよ」
だが、その力が無かろうと彼女には関係ない。
もとより中級悪魔との戦闘で勝利経験もアリ、小さい頃から数々の悪魔を屠ってきた経歴もある。
故に、これからやることはこれまでと変わらないいつも通りの悪魔との戦闘でしかない――――が、憤怒の悪魔との過ごした経験か、はたまた過去のラストとの不甲斐なさを思い出してか、憤怒の悪魔がいた時と変わらない強い殺気を放っていた。
その殺気にランザは不敵な笑みを浮かべるが、その目からは余裕はなくなっていた。
出会った当初の反応である程度想像はついていたランザであったが、たったこの瞬間からは“藪蛇だったかもしれない”と僅かに思った。
「さっさと終わらせましょう――――凍えた地面」
リナは僅かに上げた足を地面に叩きつけるとそこからランザに向かって地面に氷が伸びていく。
ランザが“氷に足を取られるかもしれない”と感じ、その場からジャンプするとその動きを見てからリナが伸ばした左手の指先をクイッと上げる。
「凍草」
その瞬間、氷の草がその凍った地面から突如として生え、草の葉が鋭利な刃物となってランザを襲った。
「破空衝」
ランザは下から伸びてきた氷の草の刃に拳を振るって、そこから飛び出した衝撃波で根底から破壊していく。それによって、砕け散った氷が太陽の光に反射してキラキラと宙に舞う。
リナはランザに隙を与えないように左手の親指と人差し指を伸ばして横に向けた。
そこで摘まむように指先を縮めるとランザの両脇から二本の氷柱が飛び出した。
その鋭い先端がランザを両脇から貫こうと迫っていく。
「小賢しい!」
ランザは両拳を左右に広げるとそこから飛び出した衝撃波で氷柱の先端を折って、さらに体を逸らすことで攻撃を躱した。
「次はこっちの番だ――――蹴空打」
すると、ランザは思い切り右足を振り回してそこから強烈な衝撃波をリナに向かって放った。
それに対し、リナは右手で氷の盾を作ると左側を素早く腰に回した。
衝撃波が縦に直撃すると一撃で粉砕されリナの上半身は右側を弾かれたように回っていく。
――――ドパンッ
その直後、リナは左手に持っていた魔剣銃を銃型にして射出する。
そこから飛び出した氷の弾丸はランザに向かっていき、当然太陽の光に反射して飛んでくるそれに気づいたランザは撃ち返すように衝撃波を放った。
「がっ!?」
しかし、ランザの想定とは裏腹にその弾の勢いが止まることなく、その弾丸は右肘から刺し込んでめり込んで止まった。
そこにリナが更に弾丸を何発も射出していく。
しかし、その弾丸が向かったのはランザではなく、その周囲に出来ている氷のオブジェクトであった。
その弾丸は一発一発に相当の魔力が込められているのかいくつもの中途半端に残ったオブジェクトを破壊し、その断片を空中に舞い上がらせる。
やっとのことで地上に降り立ったランザは貫通した右腕を素早く再生させながら、リナの行動に目を細めて尋ねた。
「俺に何をした。そして、何をしてる?」
「あなたの撃ち出す衝撃波は強さはあるものの貫通力はない。
円錐状のものではなく、面のようなものでそれはもう何回も見て確かめてわかった。
なら、こちらがその面に対抗するような貫通力がある攻撃をすればいいだけ」
「......っ!?」
その瞬間、ランザは空中に舞い上がった大小さまざまな破片の先端が等しく自分に向いていることに気付いた。
また、その氷の破片の全てを操っているであろう目の前の女が怒りを通り越したような冷徹な目で見つめていた。
そして、リナはランザに向かって走り出しながら左手を向けて握る。
「氷の串刺し刑」
「ぐっ......!」
リナの動きに合わせて空中の氷の破片が一斉にランザに向かって突撃した。
それに対し、ランザは咄嗟に衝撃波を放って迎撃するが、小さいものは弾けても大きいものは空気の面を貫通して全身に刺さっていく。
そこに接近したリナが蛇腹剣を鞭のように振るってランザに追い打ちをかけるように攻撃を加えていった。
縦横無尽に来る蛇腹剣に全身の至る所を切り刻まれながら、ランザは周囲から降りそそぐ氷の刃に耐えていく。
人間に悪魔が勝るのは純粋な膂力や魔力の他に致命傷でも死ななければ完全再生できること。
これは魔人にも出来ない悪魔だけが出来る最強の能力である。故に、いくら攻撃が加えられようと死ななければ問題ない。
そして、襲い掛かる氷の刃も有限だ。それを耐えきってしまえば後はリナによる攻撃の手だけになり、いくら速くてもやがてはその速度に慣れよう。
もちろん、他に別の魔法が放たれる可能性もある。しかし、反撃する隙無く仕留めてしまえば問題ない。
――――ガンッ
「ハハッ! これで終わりだ――――破空衝!」
リナの蛇腹剣を左手で弾いて勝機を見出したランザは大きく振りかぶった右手で顔面を狙った――――その瞬間だった。
「あなたも頭があまり良い方じゃないみたいね」
「がはっ!?」
リナが左手の指先を横に向けるとそれに合わせてランザの右手が勝手に自身の顔面を殴った。
直後、全力で振りかぶったことによる本日一番の衝撃波がゼロ距離からランザの顔面を通り抜けていく。
それによってランザの意識が歪む最中、一つ思い出したことがあった。それは右腕に打ち込まれた氷の弾丸が貫通せずに残ったこと。
先ほど触れずにただ壊した氷の破片を動かすことが可能であるならば、当然右腕に残った氷によって右腕の主導権を一時的に奪うことも可能。
「......そうか、負けだ」
「その奪った肉体に懺悔して地獄に落ちなさい」
リナは蛇腹剣を元に戻し一つの剣とすると横薙ぎに振るってランザの頭を刎ねた。
それによって、ランザの頭は空中を舞いながら魔力となって消えていき、地面に背中から倒れた肉体も手足から徐々に魔力となって消えていった。
戦闘を終えるとリナは一息吐いて、戦死した白服Dの下に近づいていく。
「特魔隊では持ち帰れる死体は持ち帰ることになってるの。だけど、恐らく今はまだ持ち帰れない。だから、寒いけど我慢して」
そう言ってそっと白服Dを氷の棺桶に閉じ込めた。
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