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第25話 バトルアーミー#4

「誰だ、お前は?」


 白服Bはせっかく始まろうとした戦いに水を差され、イラ立ったように背後に立つ異様な気配に言葉を投げつけた。

 それに対し、角を生やした青年の姿をした人物は眠たい目を向けてその質問に返答していく。


「誰って普通聞いたならそっちから言うものでしょ? まぁいいけど、僕の名前はラクロス。

 覚えたかったら覚えてもいいよ。どうせすぐに覚える必要も無くなるけど」


「はぁ?」


 どこか挑発的な口調に白服Bは噛みついたようにイラ立ちの募った声を上げていく。

 それに対し、グラートは今の現状に対して困惑していた。


 それはここに突如として現れた中級悪魔についていの存在とその気配であった。

 まず悪魔がここにいる存在......それについては、このエリアそのものについての前提がある。


 現在ラスト達がバトルアーミーを行っているエリアは直径500メートル以内の森の中。

 そして、その周りには外部からの干渉が無いように結界が張られているのだ。


 当然、それを張るための魔法陣が3つ設置されていて、それは教師によって何重にも重ねがけされた言わばいくつもの錠がされた空間であるために外から入ることは不可能。その発動及び解除は審判が出来る教師にしかできない。


 しかし、現にグラートの目の前に中級悪魔がいるということにより、その結界は破壊されているということ。


 加えて、その結界の破壊に気付かず、ましてや明らかな強い気配を漂わせる存在に教師が気づかないはずがない。


 だが、教師からの緊急連絡が出来るようになっているエンブレムからは音沙汰がなし。連絡をしている暇がないか、もしくはもう連絡ができないか。


「少なからず、この様子だとここに入ってきた悪魔は目の前の一体だけじゃなさそうだな」


 グラートは咄嗟に指先に魔力を溜めて耳に当てた。そうすることでグラートからフェイルの方へと連絡できるのだ。


『聞こえるか、グラートだ。そっちの状況はどうなってる!?』


『―――――ザ―――――ザザッ――――ザッザ――――』


「クソッ、魔力回線が繋がらねぇ。ジャミングされてる。ってことは、この場所自体もうすでに結界が塗り替えられてるってことか!」


 グラートはふと辺りを見回しながらそう判断する。

 空を見た感じでは変化がないが、それぐらいのことは中級悪魔には造作もないことだろう。

 そして、グラートは改めてラクロスへと目を向ける。

 ラクロスから感じる強い気配とともに異様な悪魔的悪意のなさに冷たい汗を感じていた。


 悪魔と言えば正に「悪意」を持った「魔物」であるがために対面した悪魔は総じて常に刃物を向けられているかのような尖った殺意を持っていた。それこそ初めて悪魔を見たあの時のように。


 しかし、今見ている悪魔はどこかやる気がなさそうと言うべきか、人間臭いような雰囲気が溢れていて、こちらに向けられるような直接的な殺意はない。それがグラートの感じる違和感であった。


 ゼインに鍛えてもらっていた間にグラートは実践として下級悪魔であるが討伐経験を持つ。

 それらからしても、ここまで人間に対して興味が薄い悪魔は初めてであった。


 それはもしかしたら器となった人間の性格の影響による可能性もあるが、魔人として二つの魂が存在するわけでもなく、その人間の本質である魂は悪魔に食われている後なのでその可能性は低い。


 だからこそ、グラートは咄嗟にとある考えが頭をよぎった。それは彼の危機管理リスクによる判断の結果。


「なぁ、ラクロスさんっつたか。ここはどうか手を引いてくれないか?」


 それは交渉であった。この行動は本来なら意味をほとんど持たない。

 なぜなら悪魔にとって人間は食事対象であり、嗜虐性がとても高いからだ。

 しかし、相手が通常とは異なるからこそ試す価値はあるのかもしれない。

 当然、その後のことも考えなければいけないが。

 それに対し、ラクロスはあくびをしながらボサボサの頭を掻きながら返答していく。


「僕的には別にいいんだけど、他の仲間はそれを許さないだろうね。それにここで逃がしたところでどのみち逃げ場はないと思うよ」


「こっちの要望を伝えてくれるってのは?」


「無理だろうね。あの人は奇麗好きだし。他の皆も食欲旺盛だし」


 ラクロスは近くの切り株に「よっこらせ」と呟きながら座るとやや鋭い目つきに変えてさらに言葉を続けた。


「ま、そもそも僕が人間の言うことを聞いてやる必要も無いしね」


 その尖った圧はグラートの上半身を僅かに逸らさせた。

 しかし、それ以上の後ろ足を出さなかったのは昔の怖気づいた過去の自分の惨めさとどのみち逃げれないという判断によるものだったかもしれない。


 それに対し、あまり状況がわかっていない白服Bはグラートに向かって調子づいた言葉を吐く。


「なんだお前、こんな相手にビビってんのか? 確かに弱くはない相手だろうが俺に敵う相手じゃねぇな」


「......お前、その相手が中級悪魔って分かってて言ってんのか?」


「中級悪魔? ふんっ、なるほどな。だが、それが分かったとしてもこの印象が変わらないうちは俺の敗北はない!」


「お前、まさか! クソッ!」


 白服Bはラクロスに向かって手をかざした。それが戦いの合図であるかのようにグラートは自身の魔力を全開放して臨戦態勢に入る。


「そこにいるのが不幸だったな――――樹木圧殺の手(ランバーハンド)


 白服Bはラクロスの座る切り株から全身を覆いつくすような巨大な木製の手を作り出すとそのまま握り潰そうと襲い掛かった。そして、その手は一瞬にしてラクロスを覆い隠していく。


 その光景にニヤリと笑みを浮かべる白服Bであったが、その手がラクロスを覆い隠してから握り潰すような動作は一切なかった。


 それどころかその手の至る所から棘が生えてきて、その数がやがて一定以上を超えると木の手は割けて音を立てて崩れていく。


 すると、そこから現れたのはラクロスを覆い隠すようにして現れた棘の生えたドームであった。

 そのドームに守られるようにしてやる気のない顔をそのままにして座っているラクロスは告げる。


「魔力特性『突き刺す者』。僕の魔法は自在に棘を作り出せる。

 でも、それで戦うってことは僕もある程度は魔法の構築とかしなくちゃいけないわけで、ぶっちゃけめんどくさい。だから、君達にはこれを相手にしてもらおうと思う」


 そう言ってラクロスは指で輪っかを作るとそれを口でピューと笛を吹いた。

 その瞬間、次第に遠くから地響きがしてきて、僅かに地面も揺れていく。


 そして、現れたのは下級悪魔の大群であった。種類は頭が二つあるオオカミ、尻尾が蛇の猫、下半身がムカデのカマキリ、翼が刃物となっているワシなど様々。


 それらが一斉に白服Bとグラートに向かって突撃していく。それらの下級悪魔はほとんどが黒に近い色をしているためにさながら黒の波となって見えた。


「衝撃に備えろ!――――大地の岩盤(アースバンカー)


通せんぼの木々(クルドサックツリー)


 グラートは地面から岩盤のような分厚い土壁を作り出し、白服Bは木と木の間にいくつもの横に伸ばした太い枝を張って下級悪魔の突撃に備えた。


 その直後、爆弾が弾けるような大きな音ともに正面にいた下級悪魔の数体が吹き飛んでいった。

 そしてその後も次々とぶつかっていき、やがてそれらの防御壁も壊されて下級悪魔が流れ込んでくる。


 それに対処するように各々が所持している近接武器を下級悪魔に向かっていく二人。辺り一面は黒が蠢く海であった。

 それを捌きながらグラートは僅かばかりの思考で思う“皆、無事で”と。


******


 その一方の、リナと白服Dがいるサイドでは――――


「くっ......」


 苦虫を嚙み潰したような表情をして僅かばかりに目を背けるリナ。

 その正面には人狼の姿をした白服Dがもう一人の中級悪魔によって胴体を貫かれていた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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