第24話 バトルアーミー#3
笛の音が鳴り響くとラストとフェイルはモノリスに残り、後のリナとグラートの二人は白服チームの陣に攻め込むように動き出した。
その二人の後ろ姿を眺めながらラストはモノリスに寄り掛かるように座りながら小型パソコンを弄っているフェイルに声をかける。
「一先ずはこれでいいんだね?」
「うん、あくまで情報によるとね。相手が二年生であるならば授業の中でいくつかの陣形を学んでいて、その中であの人達が得意とするのが守りを捨てた特攻型。
しかも、その中で一人が森に隠れながら自陣のモノリスの周囲に潜んでいて、モノリスを壊しに来た相手を狙い撃ちして仕留めることを得意としている」
「自分のモノリスすら囮にしてるってわけか。なら、その相手を倒すことが出来ればモノリス破壊に集中できるんじゃない?」
「さすがにそう簡単には行かないよ。その狙撃手の魔力特性は『這い寄る者』で気配を消すことに特化した魔法なんだ。
その狙撃手を探すにしてもそのうちに自陣が攻め込まれたらおしまいになっちゃう。
といっても、それが通じるのはあくまで隠した相手だからあの二人が簡単に突破されるとは思わないけど」
「そうだね。あの二人なら問題ないよ」
*****
その一方で、相手の陣へと攻め込むためにサイドから回り込んでいるグラートは突如として通り過ぎた木から横に伸びてくる枝に気付き、避けていく。
「よく避けれたな」
そう言って現れたのは白服Bの生徒であった。短髪の前髪を手でかき分け、不敵な笑みを浮かべながらグラートを睨みつけている。
「こんなもんはとっくに味わい尽くしてんだよ」
「さすがフォーゲル家の嫡男ってか」
「俺のことを知ってるんだな」
白服Bはゆっくり近づいていくと近くの大木に寄り掛かるように手で触れた。
「そりゃあ、同じ貴族だからな。だからこそ、解せないなぁなんでお前があの黒服といるのか。
しかも、調べてみれば貧民街出身だってんじゃないか。
そんな小汚い奴とつるんでいてもいいことないぞ?」
「ケッ、貴族という立場を笠に着てる奴にはわからねぇことだろうよ。
貴族とかそういう時代はもう終わったんだ!」
「ま、そう言うと思ったよ。もう手遅れになるぐらいに毒されてんのは見てわかってたからなぁ!――――角材鉄砲」
その瞬間、白服Bが触れる気から角柱の木の一部が勢いよく伸びてきた。
それに対して、迎撃しようとするとその角材はグラートの数メートル手前で停止たかと思うと角度を変えるように上に伸び、そこから横に伸びるとグラートのいる真下に落ちてくる。
「鉄壁の盾」
グラートはその勢いよくスタンプしてくる角材を左腕に作り出した盾でガードして防ぐ。
「よく見てるな」
「いつまでも先輩風吹かしてるんじゃねぇよ――――鉄針山」
グラートはガードした状態のままガントレットをつけた右手を思いっきり地面に叩きつけた。
その瞬間、僅かな振動が周囲に響くと次の瞬間には白服Bの足元から斜めに伸びる鉄の針山が飛び出す。
白服Bはその攻撃を咄嗟に後ろに下がって避けるが、僅かに制服を掠めたのか白い制服の前面が縦に切り裂かれていた。
「随分と貴族らしくない格好になったじゃんか」
「くっ、お前ぇ!」
グラートはその場から横にズレるように移動しながら挑発するように白服Bに言葉を投げつける。
それが成功するように白服Bは額に青筋を走らせていく。
その様子を確認するとグラートは耳に二本揃えた指をつけて魔力を流していくと頭の中で言葉を念じた。
『お前さんの言ったとおりだ。挑発に見事に乗ってくれた。どうやら相当短気らしいなアイツ』
『そうですか。なら、良かったです。そうなれば、注意力散漫になるので戦いやすくなるはずです』
『了解。後は任せてくれ』
そう伝えた先は「テレパス」の魔法を使えるフェイルであった。
試合が始まる前に魔法付与で全員が会話出来るようにしといてあったのだ。
グラートは耳から指を放し、両手の拳を付き合わせて気合を入れるような笑みを浮かべた直後、妙な寒気に襲われた。
この感覚はいつしかの怖気づいた時と一緒で戦わずとも強いと感じさせる圧倒的な存在感。
「.......なんでこんなところに!?」
*****
時はグラートが白服Bと接敵した頃、同じようにリナも肩まで髪を伸ばした白服Dと対面していた。
「僕の相手は女子生徒か。さすがに傷つけるのが嫌になるね」
「そんなことが出来るならやってみればいい」
「強気な女の子は嫌いじゃないよ。あんな矮小な男じゃなくてこっちに来なよ――――っ!?」
そう白服Dが告げ終わる直前、白服Dの顔のすぐ横を鋭い物体が通り抜ける。
それはリナが飛ばした氷の槍で、それによって白服Dの切り裂かれた頬から血が流れだしていく。
白服Dはその頬に触れて血濡れた指を見た。そして、僅かに熱を帯びる頬を感じた。眉をピクつかせて怒りをなんとか抑えた表情で告げる。
「何の真似かな?」
「私の仲間を侮辱した罪。ルールは知ってるわよね? 致命傷にならず、気絶しなければ攻撃していいって――――氷槍」
そう言ってリナは再び複数の氷の槍を空中に展開させて白服Dに投げつけていく。
しかし、それらの氷は白服Dのオオカミの爪のようなもので壊されていった。
「魔力特性『獣なる者』のモデルオオカミってところかしら?」
「ご名答。そういう君は氷の密度がかなり高いから氷系統の魔力特性でもかなり上位のものかな?」
「そうね。でも、分かった所で問題ない」
そう言ってリナは再び複数の氷の槍を展開すると白服Dに向かって飛ばしていく。
それに対し、白服Dは全身をオオカミ人間へと変えていくと向上した身体能力で正面から突撃していった。
「実は君について調べたいことがあるんだ。相手の情報分析は大事だからね。その上で聞かせてもらう――――君は何者だい?」
白服Dは迫りくる氷の槍を全て躱すとリナに接近し、鋭い爪をリナの左胸のエンブレムに向かって振り下ろした。しかし、リナはその攻撃を鞘から引き抜いた蛇腹剣で防いでいく。
「君のこの学院までの経緯は中等部からの入学というもので特に変わりないものだ。
しかし、名前、年齢、それらの情報以外一切出てこない。
貴族ネットワークにヒットしないってことは貴族じゃなく、ましてや普通の平民ですらない。これはどういうことだ?」
「別に。それはあなたには関係ないことだし、仮にバレたとしても何の問題もない。
強いて言うなら、あなたよりもより多くの実践を経験してるってこと」
「気になるねぇ!」
白服Dは再び鋭い爪を搭載した両手を大きく広げて突撃してくる。
それに向かえ討とうとリナが構えた瞬間、その間に黒い影が勢いよく落ちてきた。
その姿を見た瞬間、リナは思わず目を見開く。
「どうしてここに!?」
******
同時刻、ラストとフェイルがいる自陣も同じように強大な気配が正面から向かって来ていた。
その気配の悍ましさに冷や汗をかきながら臨戦態勢に入るラストと完全に委縮してしまっているフェイル。
そして、その気配が勢いを増すように何かを引きずるような音をさせながら森の奥から一人の人物が歩いてくる。
黒いローブを着た人物は深くフードを被っており片脇に丸いものを抱え、反対側の手では何か重たそうなものを抱えている。
そして、森の奥から明るい陽射しの下に現れたその人物が抱えていたものと引きずっていたものにラストとフェイルは思わず絶句した。
なぜなら、それは審判役の教師の頭と胴体を貫通された白服一人の姿であったからだ。
それらを持ってきた人物はラストの前に放り投げると「貢ぎ物です」と言ってフードを取った。その瞬間、特徴的な角が露わになる。
「お迎えに上がりました。上位魔族のバズーと言います。どうかお見知りおきを」
そう言ったバズーは貴族がするような丁寧なお辞儀をするのであった。
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