第23話 バトルアーミー#2
「ふん、どうやら忘れずにちゃんとやって来たようだな」
「僕は来るつもりは無かったけどね。でも、ここで来ないと後々めんどくさいことになりそうだから来ただけだよ」
ラストチームと白服チームがメガネをかけた教師の男の前で視線でバチバチと火花を散らすように対立している。
そんな両者の様子を見ながら、教師の男はバトルアーミーについてのルールを簡単に確認していく。
「それでは簡単にルールの確認をさせてもらいます。
対戦形式は4対4のチーム戦。戦闘方法は魔法、武器とアリですが、完治不能なダメージを与えることや気絶後の攻撃は厳罰対象です。
また、それぞれの胸につけたエンブレムを破壊されればその時点で戦闘不能となったとみなされるのでお気をつけて。
それから、勝利条件はチームの全滅もしくは自陣のモノリスが破壊されること。
バトルフィールドですが今いる森の直径500メートル以内とさせていただきます」
教師が「両者、何か質問は?」と聞くが双方ともに特に質問はなさそうなので、「それではそれぞれ自陣に移動を始めてください。5分後に戦闘開始の笛を吹きます」と告げ、移動の指示を出した。
「白服の仲間がいるとは驚きだがそれで勝てると思ったら大間違いだぞ?」
「俺達はお前達よりも先にここにいてお前達が知り得ないことを知っている。負けるはずがない」
「せいぜい頑張って足掻いて見せろよ。ま、結果はわかりきってるがな」
「それじゃあ、また試合で会うとしようじゃないか。ビビって逃げるなんて真似はよしてくれよ? ガハハハッ」
そう捨て台詞のように吐いていく白服達は自陣に向かって歩いていく。
その後ろ姿を小さくなるまで眺めていたグラートとリナは嫌悪感を示すような睨むような目つきをしており、振り返って歩き出しながらその言葉に対して答えていく。
「ケッ、たかだか一年先に入っただけだろうに偉そうに。こうなったら俺とラストのコンビネーションを見せつけるしかなさそうだな!」
「同感。だけど、ラストの相手は筋肉ダルマじゃなくてこの私」
「ほぅ、言ってくれるじゃないか。んじゃ、見せてやろうか? 俺とラストのコンビネーションを」
「まぁまぁ、落ち着いて。4人チームなんだから4人で頑張らなきゃ」
「あ、あの......」
やる気満々と言った雰囲気の二人をなだめるように声をかけていくラスト。
そんな中で、ただ一人やや震えた声で小さく手を上げる少年がいた。
「どうしてここに僕がいるんでしょうか?」
そう聞いた黒に近い深緑の髪を目にかかるように伸ばしたフェイルは内気な雰囲気を醸し出すようにラスト達から僅かに離れた位置に立っていた。
そんなフェイルの質問に対し、ラストは答えていく。
「それについてはこっちの勝手な都合としか言えないからごめん。
でも、君の力が必要だからこうして呼ばせてもらったんだ」
「ボクの力が?」
「そうそう、なんでも戦況を動かすには便利な魔法を持っているとかで。
それにお前さんはあの連中にイジメられてたんだろ?
だったら、この際ギャフンと言わせてやろうじゃないか」
「筋肉ダルマの言う通り。もっと言うなら私達の勝利は揺るがない。
でも、その勝利を手にするにはきっとあなたの力が必要。
チームのブレインとして頼りにしてる」
「あ、うん......」
そう言われると悪い気はしないフェイル。
しかし、内気な性格が邪魔をしてやはりテンションが上手く上がらない。
加えて、グラートとリナに関してはフェイルは初対面である。
故に、人見知りが発動して態度がオドオドしてしまっている。
その一方で、出来るだけ空気を悪くしないように脳内では数多くの情報を整理しながら、リナとグラートに関する情報を引き出していた。すると、僅かにヒットする情報が出てきた。
「グラートさんにリナさん......え、もしかして入試戦闘技能5位のグラート=フォーゲルさんと総合成績1位のリナ=エストラクトさんですか!?」
「おう、そうだぜ」
「筋肉ダルマよりすごいピース」
快活そうに返事をするグラートと明らかにマウントを取るようにピースをするリナ。
そんなリナの態度にやっぱり反応してしまうグラートは「お前、人が黙ってれば2回も言いやがって!」と突っかかっていく。
そんな二人が別の浅い理由でバチバチやってる一方で、フェイルはどこか呆けたような表情をしているのでラストが気になって声をかけてみる。
「どうしたの?」
「いや、凄い人がチームにいるんだなって思って。そう思うとその二人と友達のラスト君は凄い......ってあれ? ラスト君はどうして......」
「どうして黒服なの?」と言葉に仕掛けた口を咄嗟にフェイルは閉じた。
しかし、そこまで言ったのならそれはもはや言ったも同然で、フェイルは表情を窺うようにやや顔を下に向けたまま恐る恐る覗き込んでいく。
しかし、ラストは特に気にしてない様子で柔和な笑みを浮かべていて、その言葉にさらっと答えていく。
「まぁ、それは単純な僕の力不足によるものかな。この学校に入れたのも筆記でカバーした結果からだと思うし、この服は今の僕の実力をそのままに表してると思う」
その言葉にフェイルは僅かに自分に近しいものを感じた。
フェイルもまたこの学校に入れたのもラストと同じ理由であるからだ。
「だけど、僕はもちろんこのままで終わるつもりは無いよ。
僕はこの学校を卒業して特魔隊に入る。それが僕の夢だから。もっと多くの人を認めさせるために」
「......すごい」
その瞬間、フェイルにはラストと言う人物が僅かに違って見えるようになった。
まるで手に入れたいけど届かない太陽のような存在に。
そこに時間は関係ない。感じた今に、ラストと言う存在に前とは違う人間性を感じ取っただけのこと。
その瞬間、フェイルから僅かに漏れた言葉は今のフェイルを満たす感情を如実に表していた。
そして、少しずつフェイルの心に熱いものが込み上がってくる。
ラストに必要とされたのなら答えたい、と。ずっと一人だった自分を頼ってくれている、と。
その時、フェイルは深く考えるよりも先に言葉を口から出していた。
「僕も僕を認めさせたい。だから、その一歩としてこの試合で頑張る!」
「そっか。なら、一緒に頑張ろう」
ラストは拳を突き出した。その意味がわかったフェイルは同じく拳を突き出して小突いていく。
それから少しして、自陣のモノリスに辿り着くと簡単に作戦を立てて、フェイルのやりやすいように小型パソコンを開いて戦闘準備を終えた。
―――――ピィィィィッ!
戦闘開始の笛が森に鳴り響く。その音を合図にラスト達は動き出した。
「よし、勝とう!」
「おう!」「えぇ」「うん!」
******
場所は移って、教師の男がいる森の中央の開けたエリア。
そこで笛を吹き終えた男は僅かにダルそうにして頭を掻いていた。
「あぁもう、まだ新しく一年が入ってきて早速いびりとか貴族はホントにもぅ......それにたまたま人が空いてなかったからってどうして俺に......」
「――――なら、その役目を変わってやろうか?」
「......誰だっ!?」
教師の男は自分しかいないこの場所に突如として背後から男の声が聞こえたことに驚き、咄嗟にその場から離れながら振り返る。
そして、その声をかけた人物の特徴を見て思わず愕然とした。
「ど、どうしてお前のような存在がここに......!?」
「それを知るには力が足りない」
そう言った角を生やした謎の男は一瞬にして教師の男の前から消え、教師の男の頭をもぎ取りながら首無し体の後ろに立っていた。
「さて、偉大なる七大悪魔の一人を迎える準備を始めよう」
そうニヤリと告げながら教師の男の頭部を握り潰した。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




