第22話 バトルアーミー#1
「おい、お前」
「......?」
そう突然声をかけられラストは振り向くといつぞやの白服を着た4人組がそこにはいた。
ラストはフェイルの時の報復とも考えたが、場所は図書室なので暴れることは出来ない。
一先ず何の用で話しかけてきたかを知るためにラストは努めて穏やかに質問した。
「何か御用ですか?」
「何かって......まさか忘れたわけじゃねぇだろうな?」
「お前のような舐めた黒服には俺達が直々に躾けなければと思ってな」
「そこでお前にバトルアーミーを受けさせるためにやって来た。もちろん、拒否権はねぇ」
残りの3人が矢継ぎ早にそう言うと「日と場所はは明後日の森林フィールドだ」と捨て台詞にそう言って帰ってしまった。そんな4人組の言葉をラストはただ黙って見つめ、呟いた。
「“バトルアーミー”ってなんだ?」
「バトルアーミーって言うのは簡単に言えば4人制チーム対戦のこと。
つまりは宣戦布告してきた連中は4人で戦いたいがためにそう言ってきたのかもね」
時間は進み、様々な生徒が修練場の中で木刀やモデルガンを使って対人訓練を行っている中、休憩中に壁に寄り掛かりながら三角座りをするラストは同じく休んでいた座ってリナにそう聞いてみれば、そう答えが帰ってきた。
するとリナとは反対側に立ち、壁に寄り掛かりながら立っているグラートはその宣戦布告してきた連中に関してラストに聞いた。
「にしても、白服の4人組から絡まれるなんてなんかしたのか?」
「特には。いじめられてる子がいたから助けたら逆に僕が標的になったみたいな」
「そいつの名前を詳しく教えて。今からなにも反撃できないように躾けてくるから」
「待って落ち着いて、リナさん! このままじゃ凍っちゃうから!」
ラストがイジメの標的に怒りを露わにしているのか力のこもった淡い青色の瞳には熱を帯びていて、リナの周囲から冷気が漏れ出して床の一部を凍らせた。
そのリナの反応にラストは慌てて制止するとリナは止まった。すると、そんなリナの様子を見てグラートが告げる。
「ま、気持ちはわからなくもない。俺の大切な友達が傷つけられそうになって黙ってられる奴は男じゃねぇな」
「にしても、4人組となると私と筋肉ダルマを入れても3人にしかならない。
ここでの試合だと基本的にルールに厳しいからあと1人チームに入れないと試合させてもらえないかもしれない」
「確かに。となると、後1人をどうするかだな。それと筋肉ダルマって言うんじゃねぇ」
「ちょっと待って。二人とも参加する気なの?」
いつの間にかチームでのメンバーが決まっていたことに困惑するラスト。
それに対し、二人はさも当然のように声を揃えて告げた。
「だって仲間でしょ?」「だって仲間だろ?」
「そっか」
「「それに舐めた連中にとって良い薬になると思うし」」
「......そっか」
ラストの一瞬の胸の高まりは二人のゲスの笑みで消えていく。
どうやらラストを標的としたことに随分とお冠であるようだ。
そもそもラストは“宣戦布告をされただけで受けるかどうかは全く別の話ではないのか”と思っていたが、もはや言われた本人以上にやる気満々の二人を止める術はない。
ラストは半ば強制参加のような形で試合をすることが決定してしまったことに何とも言えない顔を浮かべる。
もはやこの流れを止めるのはラストにとって不可能なので、大人しく試合を受けることを引き受けると残りのもう一人について考え始めた。
「残る一人となると現状で足りないものを補う人であるのがいいよね」
「となると、俺とラストは近距離アタッカーで」
「私は一応中距離もいけるけど遠距離とかは無理だし、サポート役とも言われればそこまでキッチリした立ち位置でもない。
全員アタッカーなら辺に考えずにもう一人アタッカーを追加して各個撃破とかでいいんじゃない?」
「で、そのアタッカーっていうのは例えば?」
グラートの質問にリナは答えるよりも先に指を修練場の中央付近へと向けた。
そこにはもう既に一人で何人も相手してそうな双剣で金髪の男子生徒の姿があった。
「例えばエギル=ラクリエッタとか」
「嫌でぇアイツは。確かにアイツは同じ学院の間じゃ名の知れたアタッカーだ。
けど、そもそもアイツがまともに俺達の話を聞いてくれると思わねぇし、それにアイツが俺達の勝手な試合に首を突っ込んでくるとは思えねぇ」
そうグラートの意見を聞きながらラストは対人戦の中で一番機敏な動きをするエギルの姿を目で追っていた。
その姿はやはりどこか心に余裕がなく、焦っているような印象が伝わってくる。
その影響か周りのことはお構いなしに、自分の体力が尽きるまで対人戦を繰り返していた。
『剣に迷いがあるうちは紙すらも切れない』
不意にラストの頭に流れてきたのは高等学院に上がる前にゼインに修行をつけてもらっていた時に告げられた言葉。
その言葉がピッタリくるほどにエギルの様子は正しくそれであった。
「どうしたラスト?」
「ちょっと待ってて」
そう言うとラストはその場で立ち上がり、遠くにいるエギルに向かって足早に歩きだしてしまった。
そして、エギルのもとに辿り着いたラストが交渉している様子を遠くから眺めるリナとグラート。
「ねぇ、成功すると思う?」
「十中八九しないだろうな。なんたってアイツは常に自分の目的のために剣を振るってる感じだから」
腕を組みながらそんなことを告げるグラートにリナは思わず彼の顔を見た。
「なんだよ?」
「別に。ただ嫌ってる風なのに案外見てるんだなと思って」
「そりゃあ正確に難アリだがアイツ自身の上では確かだからな。
伊達に中等部でランキングが一つ下で並んでた奴じゃねぇよ。
ま、魔族騒ぎの影響で余計に焦りが現れてる感じだが」
「そうなんだ。全然知らなかった。二人とも私よりも下だから」
「おうおう、それはケンカを売ってるようにしか聞こえないから発言には気をつけろよ?」
「それは失礼。ただいい加減ラストの護衛は一人でいいと思わない?」
そう下から見上げるリナの目を明らかな挑戦的な意思を表していた。
そこまでのハッキリとした意思に気付かないはずがないグラートは「やるか?」と呟いて睨み返す。
「ふん、俺のラストクイズに勝てると思うなよ?」
「これまで負け続けてきた雪辱は今度こそ返す。そのためにラストの生態調査は済ませてきた」
「カッコつけていってるとこ悪いが相当キモいこと言ってるぞ?」
二人してバチバチと目線で火花を散らしているとそこにラストが足早に帰ってくる。
その姿を二人とも視界の端で捉えると先ほどのいざこざはなかったかのように笑みを浮かべて出迎えた。
そして、リナがラストへ成果を尋ねる。
「どうだった?」
「ダメだった。『テメェらの茶番に付き合ってる時間はねぇ』だって」
「まぁ、予想は出来てたがな。さすがに仕方ないか。それじゃあ、適当に別の奴でも当たってみるか」
「それなんだけどさ」
グラートの言葉を聞いたラストは一つ思いついた人物を告げるために少し前置きを入れて説明していく。
「僕達の戦いってさそれぞれが各個撃破するっていう作戦でも何でもない脳筋プレイをしようとしてたじゃん?」
「そうだね、正しく筋肉ダルマの脳内のように」
「待て、誰が脳筋だ」
「それに相手がわざわざ4人組で来るとすれば、それはチームプレイで挑もうとしてるってことじゃないのかな?」
「ってことは、こっちもチームプレイで行くってか?
でも、そんな作戦が立てられる頭脳なんていないぞ?」
「いや、僕には一人だけ心当たりがいるんだ。チームプレイに打ってつけの魔法を持った友達がね」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




