第21話 フェイルの能力
「さて、友達になったとはいえまだ全くお互いのことを知らない。ということで、今回は近くの商店街にやってきました~!」
「お、お~?」
テンションを上げて告げるラストに陽キャのノリについて来れない陰キャヲタクのような微妙な反応をして、僅かに拳を上げるだけにとどまったフェイル。
しかし、ラストの見た人を懐柔するような邪気のない笑みにフェイルは自然と口角を上げていき、やや緊張していた心も落ち着き始めたので、ラストに積極的に話しかけていく。
「突然呼ばれたからびっくりしたけど。確かに会ったのはあの時は初めてで形だけ友達になったんだよね」
そい告げたと同時にフェイルはふとあの時の映像が流れていく。
そして“考えてみればあの時の僕ってまだ赤の他人のラスト君に不幸自慢ってどんだけキモいことしてたんだよ”と思うようになり、涙まで流したことに異様な死にたさを感じた。
「どうしたの? 今にも死にたそうな顔してるけど」
「い、いや、なんでもないよ。にしても、ここって確か一番学院生が来る場所だよね? ってことは、ラスト君もここには何度か来たことあるの?」
「いや全然? 今回が初めてだよ」
「そう、そうなんだ......」
そう言う割にはズイズイと歩いていくラストに呆気を取られるフェイル。しかし、確かに初めてなようで目を輝かせながら随分と見渡し姿勢に不思議と楽しさが伝わってくる。
「来ないの?」とばかりに振り返るラストにフェイルは足早に歩いて隣に立つとそのまま二人で通りに並ぶ露店に顔を見回しながら進んでいく。
途中、近くの本屋や魔道具店、魔剣銃やそのほかの特殊機能武器、香ばしいニオイを漂わせる露店など様々な所に寄りながら二人で貴重な時間を過ごしていく。
それからしばらくして、露店で勝ったサンドウィッチを食べ歩きながらフェイルがラストに質問した。
「ラスト君はどうしてこの学院に来ようと思ったの?」
「単純な子供の夢を叶えるためだよ。よくある話のヒーローとなってたくさんの人を助けたいってやつ」
「そうなんだ。でも、夢を持つだけ凄いと思うよ。ただ自分の居場所を求めた僕とは大違いで」
「別にそんなことないと思うけど」
――――キャアアアア!
二人が話していたその時、近くの路地から女性の叫び声が聞こえてきた。
その声に咄嗟に二人が視線を向けると三人の男に担がれた女性が路地の奥へと吸い込まれていく光景を目撃する。
「ラスト君、今のって......」
「誘拐だ。しかも、随分と堂々な。見過ごしておくわけにはいかない」
そう言って手に持っていたサンドウィッチを口に押し込んで動き出したラストに咄嗟にフェイルは慌ててついていく。
そして、その連中が入った同じ路地に入り、そのまま一本道の路地裏を走っていく。しかし、途中で3つの分かれ道が現れて、これ以上どこに向かったかわからなかった。
ラストは僅かに体に魔力を込めると両端の壁を蹴りながら民家の屋根に上るが、そこら辺は家が密集しているのか上からでは犯人たちがどこに向かったか判別できない。
そのことにラストは僅かに歯を食いしばって地上に降りるとフェイルが何やら不思議な動きをしていた。
それは左手首に何かを取り付けるとそれにが半透明なディスプレイと小さなキーボードがあり、そのキーボードに右手で何かを打ち込んでいる。
そして、ショルダーバックから手乗りサイズのパラボラアンテナのようなものを取り出すとそれは自動で首を回して動き出し、その一方でフェイルは再び何かを打ち込み始めた。
「何してるの?」
「ここ近くの魔力残滓を調べてるんだ。犯人がここを通ったことは実は路地裏に入った時に採取した魔力残滓がここにも残っているから確定していて、その上でどの道に一番多くの魔力残滓を残しているか計測してるんだ」
魔力残滓――――それは普段魔力を持つ人々がその無意識化で放出している魔力のことである。原理は人の皮膚呼吸と同じで、細胞が常に新鮮な魔素を吸収して古い魔力を魔素として吐き出しているのだ。
フェイルはその計測結果が半透明なディスプレイに現れたのか正面から見て右手にある道を指さした。
「こっちに魔力残滓がたっぷりある。つまりこっちに行った可能性が高い」
「わかった。なら、そっちに行こう」
ラストはフェイルの言葉を信じるとそのまま右手に向かって走り出した。
それから少しすると声が聞こえてきて、距離が近づくとともに男達の下卑た笑い声が聞こえてきた。
「ガハハハッ、まさかこんなにあっさり上玉が捕まえられるとはな」
「昼間だからって油断しちゃいけねぇぜ嬢ちゃん。悪魔が現れるのは夜だけじゃねぇ。昼間もいるんだよ。俺達のような悪魔がな」
「んじゃ、さっそくこっちの飢えを満たすための処理道具となってもらおうか。嬢ちゃんが可愛すぎて俺達を唆すのがいけねぇんだぜ?」
「い、嫌......やめて! 近寄らないで!」
抵抗する女性であるが腰が引けていたり、恐怖が先行しているせいかその場から動けずにいて、精一杯張っている声も虚勢と見透かされているのかジリジリと距離を詰められている。
その時、一つの声が響き渡った。
「それ以上はやめるんだ!」
「なんだ?」
男達が振り返るとそこにはラストが立っていて、壁裏からはフェイルがこっそりと顔を覗かせていた。
「なんだガキか。勝手に俺達の仲睦まじい様子に水差すんじゃねぇよ」
「そうは見えないけどな」
「助けて――――うむっ!?」
「お前は黙ってろ!」
「そういうプレイなんだ気にすんな。さっさと消えろ」
そう一人の男は告げるが咄嗟に助けを求めて口を押えられた女性の表情は明らかに恐怖と悲しみに溢れている。
その表情を見て容易く「憤怒り」というトリガーに指がかかりそうになるが、ラストは小さく深呼吸して落ち着かせると構えた。
「なんだやる気か?」
「あなた達が悪魔であるというのなら、僕はその悪魔を退治するための学院生だ。あなた達が戦うというのなら、僕もあなた達の暴挙を止める義務がある」
「ケッ、生意気なことを」
「さっさと殺るぞ。数の利ならこっちだしな」
「止まらない、か。なら、力づくでも止める」
そのラストの言葉にイラ立ちを覚えながら突っ込んだ武器を片手に三人の男達は一瞬にして消えたラストの姿に思わず驚き、ブレーキをかけながら止まった。
そして二人の男が思わず周囲を見渡すと真ん中にいた男が一人消えていることに気付く。そして、その二人の後ろにはラストが掌底を突き出したまま止まっていて、さらに向こう側には壁に打ち付けられた一人の男が。
「なんだコイツは!?」
「いつの間に一人をやりやがった!?」
動揺を隠せない二人にラストは容赦なく一人の男に詰め寄ると左手で右手を押し込むようにして突き出した鋭いエルボーで更に一人を倒していく。
そしてそのまま近くの男に裏拳を振り抜くがそこには残り一人の姿がない。それとほぼ同じくしてラストには不思議な声が聞こえてきた。
『正面下から短剣で突き刺してくる』
その言葉に僅かな動揺を見せるラストであったが、その言葉を信じるようにその場からバックステップしていくとラストを追いかけるように男が短剣を腰だめに構えて突っ込んでくる。
「熱波」
ラストは冷静に両手を男の正面にかざすと火傷しない程度にひるませる熱の風を浴びせると男はたちまち顔を押さえて勢いを止めたので、そこにボディーブローを入れて気絶させていく。
全て倒し終えてラストはふとフェイルの方を見るとそこにはサムズアップするフェイルの姿があった。
捕まえた男達をこの街の自警団に送り届けたラストとフェイルは僅かに茜色がかった空の下で学院に向かって歩いていた。
「凄かったよ。一人で三人の大の男を倒しちゃうなんて。僕には出来ないよ」
「それはなんというか、良い先生に出会えて力をつけてもらったというか......それよりも、フェイル君のが凄いと思うよ。あの人達を見失った時、フェイル君の力を借りなきゃ辿り着けすらしなかったと思うし」
「あれは人間観察しかできなかった僕のちょっとした技みたいなもの大したことない」
「それじゃあ、あの時声をかけたのは? 聞いた直後はわからなかったけど、後々あの声はフェイル君のって思ったんだけど?」
ラストが最後の男との交戦時に聞いた不思議な声。その声にちょっとしたあたりがついてフェイルに聞いてみるとフェイルはこくりと頷いた。
「あれは僕の魔力特性『伝える者』の『テレパス』っていう脳内に直接声を届ける魔法だよ。ただ当然ながら攻撃性とかはないからあまり実用的じゃないけど」
「そんなことないよ!」
ラストはフェイルの手を取ると嬉しそうに告げた。
「あの時、フェイル君が教えてくれなきゃ刺されてたと思うし。そう考えるとフェイル君の魔法は僕を助けてくれた。ありがとう」
「......っ! そっか......そうなんだ。助けられたのか......僕の力で」
そう呟くとフェイルの目には次第に涙が浮かんできた。その涙を必死に拭おうとするフェイルにラストはニコニコした様子で告げる。
「意外と泣き虫なんだね」
「ち、違うから!」
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