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第19話 ルナトリア学院

「ついに来ちゃったんだ......」


 ラストの目の前には数々の優秀な特魔隊員を排出してきたルナトリア魔法学院が存在感を示すようにあった。


 特魔隊本部がある中心地区から北東に上った先にあるこの学園はすぐ近くに街と森とがあり、近代都市的なデザインの建物が多くあるこの国の中で唯一西洋風なデザインである。


 とはいえ、レンガ造りになっているわけではなく、アート性の高い近代建物という感じに近かいようだが。


 そんな夢のような場所に入学できたことがラストにとっては夢物語の始まりのような感じがして、その感動に足を止めていた。


「おはよう、何してんだ?」


 呆けているラストの背中を軽く叩きながら現れたグラートは気さくに話しかけていく。

 それに対し、ラストも挨拶を返すと質問に答えていく。


「なんかさ、夢のような話に感じていたこの場所に来れたことが感慨深くて」


「おいおい、そんなんで一々感動していたらこの先持たねぇぞ? とはいえ、言いたいことはわかるけどな」


 ラストと同じようにルナトリア学院を見つめるグラート。

 そんなグラートを横目に笑みを浮かべるラストはおもむろに自分の服を見た。


「それにしてもさ、この制服ってどうして色が別れてるんだろうね」


「そういやラストは黒で俺は白だな」


 そう告げる二人の制服には明確に色の違いが示されていた。

 制服のデザイン自体は同じであるのに色は黒と白に分かれていて、その色の違いは二人の周囲を歩く生徒達の間でも同じであった。


 ただその中で気がかりなことがあるとすれば、登校風景の中で白の制服は同じ白、黒の制服は同じ黒としかグループを作っていないということだが。


 そんな二人の疑問に一つのトゲトゲしたような声が答えを示した。


「――――それは実力の差が明確に示された証だ」


「お、お前は......」


「エギル君!」


 エギル=ラクリエッタ――――ラストが憤怒の悪魔に憑りつかれる時に同じ現場にいたラストの同級生である。


 ラストはあの日以降学院に姿を見せることがなかったエギルを心配していたために思わず嬉しそうに近寄っていく。


「良かった。無事だったんだね」


「無事だ? ふざけんな。俺はお前に助けられた時点で無事だなんて思ってねぇ」


「助けられたのは僕の方だよ。それに助けたとしても僕が勝手にしたことだしね」


「チッ、ザコのくせに。俺はもうたかが魔族なんかに負けることはしねぇ」


 エギルはそう言うとラストの肩にあえてぶつかりながら歩き出す。

 そんな様子を見ていたグラートが「おい、謝れよ!」と言うが無視しながらそのまま行ってしまった。


「アイツ、ラストに助けられたくせに」


「それは別に感謝されようと思ったわけじゃないからいいよ。

 それよりも、今のエギル君どこか焦っているように見えた」


「焦ってる?」


「気のせいかもしれないけどね。けど、どこか周りに構っている余裕がない。そんな感じ」


「焦ってるねぇ......」


 ラストの言葉を受けて再び米粒ほどの大きさになったエギルの背中を眺めてみるが、グラートにはあまりよくわからない様子であった。


 同じように見つめていたラストはふとポンポンと右肩を叩かれる。

 それに気づいたラストが振り返ってみると途中で人差し指に振り向く顔を止められた。


「おは」


「り、リナさん!?」


 ラストの頬に人差し指を立てるように肩を叩いたのはリナであった。

 どこか眠たそうな目でありながら、随分な人懐っこいような行動にラストは思わず動揺する。


「ど、どうしたの!?」


「ん? 思っていた反応と違う。こうすればもっと仲良くなれるのではなかった?」


 リナは何か腑に落ちない様子で腕を組みながら小首を傾げる。

 それに対し、ラストの反応でリナに気付いたグラートは尋ねた。


「急に何してんだよ? 仲良くって......別にもう知らない仲じゃねぇだろ」


「だけど、こうすればもっと仲良くなれるはずってゼイン隊長が言ってた。それに他に友達を作る時も」


「それ、絶対知らない人にやんなよ? 相手との距離感確バグってるって思われるからな」


「そうなの?」


「あ、うん、そうだね......初対面な人にはやらないかな」


「そうなんだ。特魔隊(あっち)では基本周り年上ばっかだったし、小さい頃から顔見知りだったから知らなかった」


「だとしたら、ゼイン隊長大分適当な事言ってんなぁ」


 思わず脳裏に浮かんだちゃらんぽらんなゼインにグラートは思わずため息を吐いた。

 そしてグラートの言葉に同じように苦笑いを浮かべるラストはふとリナの制服に目が移る。


「リナさんも白い制服なんだね」


「うん。ただこの色分けに対した意味はないけどね」


「そうなの?」


 リナの言葉にラストは思わず小首を傾げた。するとそのラストの疑問にリナは言葉を続けていく。


「この色分けは基本的に貴族の血筋か学院の選定基準におけるもので、今挙げたそれらの連中は白の制服、その他一般上がりや基準値以下は黒い制服になってる」


「つーことは、この学園ですでにヒエラルキーが出来上がってるってことか。にしても、なんで貴族の血筋ってだけで白なんだよ?」


「単にプライドの問題。明らかに能力が低くても貴族としての人間性の優位だけは保っておきたいんだと思う。ただ、そんなプライドは現場では毛ほども役に立たないけど。

 後はここが貴族の有志によって作られた学院だからというのもある」


「確かに、プライドを持っててもあの存在達には意味ないからね」


 三人は知っている。悪意のある魔という存在を。

 ラストやリナはもちろんのこと、グラートも入学までの期間にゼインによって魔獣や下級魔族であるが討伐経験を持つ。


 この戦闘経験の差は大きく認識の違いを生み、戦闘経験があるもとないものでは敵に対する気持ちが変わってくる。


「つまり、色で分けようが死ぬときは死ぬ。故に、色で分けようと意味がないってわけ。

 ちなみに、私が入学前に調べた統計データによると貴族の生徒の戦死が多いと出た」


「なんか聞きたくないデータだね。それは......」


 三人は一先ず学院に向かって歩き始めた。

 するとグラートが先ほどの話で一つ疑問に思ったことを口に出す。


「ん? 待てよ? それじゃあ、なんでラストは黒なんだ?

 実力の基準がわからねぇが、中級魔族を討伐出来るんだったら十分に白でいけたろ?」


「確かに」


 グラートの疑問にリナも納得するように頷く。

 そして二人して視線でラストに答えを求めるとラストは少し照れくさそうに答えた。


「実は出来る限り自分の実力で試してみたくてあまり悪魔の魔力は使ってないんだ」


「そうなんか」


「さすがに魔力がないとなると入学は絶対に無理だから少しは出したけど、出来る限り自分の力だけで試験を受けてたんだ。それにあまり出し過ぎると聡い人に気付かれる可能性もあるから」


「確かにその可能性は今後も考慮した方が良いかも。ただ試験にあった魔獣討伐は大変だったんじゃない?」


「必要最低限しか出してなかったから少しだけてこずった。

 だけど、実践を知ってたから動きでカバーできたと思う。

 まぁただきっと点数低かったと思うから普通に座学で稼いだんだけどね」


「ま、なんにせよここにいるんならいいさ。さて、最初は何かな」


「まぁ、恐らくは―――」


 そして三人はそれぞれ同じ大学のような席の並びをした教室に入っていくと体育会系の女性教師が入ってきて告げた。


「さて、これから魔法工学について授業を始める」


「座学だろうね」


「クソォ、俺は座学低かったこと知ってんだぁ......」


「脳筋うるさい」


*****


 とある森の中には今は無人となった廃村があった。そこは野盗のアジトとなっていたが、それはもはや昔の話。今はただそこに無残に切り裂かれた死体が残るのみ。


 そこに集まるは4人の悪意を持った存在。その中でリーダーと思わしき人物は静かに告げた。


「さぁ、我が主の仲間を俺達の手で奪還して差し上げよう」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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