第18話 夢への第一歩
「さて、集まってもらったのは他でもない。是非とも未来の特魔隊一員にエールをと思ってね」
退院したリナ、ラスト、付き添いのグラートの三人はゼインに呼ばれて彼のオフィスにやって来ていた。
大き目なデスクに座るゼインのその隣にはここまで一緒についてきたマーリアも静かに佇み、彼女がゼインの代わりに端的に用件を伝えた。
「まぁ、なんともカッコつけた言い方ですが、用は餞別を送りたいんですよ。その都合のいい口上でしかないです」
「え、そんなにハッキリ言わなくても......まぁ、間違ってないけどね」
「待ってください。俺もいいんですか?」
そう待ったをかけたのはグラートであった。その反応は当然かもしれない。
なぜなら現状グラートだけが一番この中で部外者に近い立場なのだから。
しかし、ゼインは特に気にするようすもなく答える。
「君は特魔隊に入るつもりなんだろ?」
「はい、もちろんです」
「なら、俺が言ったことは何も間違ってない。俺は未来の部下にしか贈り物しないしね」
「.......っ!? あ、ありがとうございます!」
グラートはその言葉に胸が熱くなるような気持ちと共に頭を下げた。
そんなグラートを見てラストは嬉しそうに笑う。
ゼインはマーリアに餞別品を渡すよう指示するとマーリアがそれぞれ包装されたものを手渡していく。
それを見たラストは「開けていいですか?」と尋ね、ゼインが了承したので三人は開けていった。
それぞれ三人がその包装を解いていくとラストには長剣、グラートにはガントレット、リナに蛇腹剣が送られた。
「それらはそれぞれの攻撃スタイルや動きから見て判断した。
ラスト君の場合は悪魔の力を行使して近接で戦うのが一番で、その長剣は魔力伝導率がとても高いから魔法の火力を高めて放つことが出来る」
「凄い......ありがとうございます!」
「グラート君の場合はラスト君よりもさらにインファイト向きだと分かり、さらに君の魔法としても合わせて攻防一体にしてみた」
「こ、これが俺の......ありがとうございます!」
「リナちゃんの武器だけがちょっと特殊だけど、状況把握が出来て氷の微細なコントロールが出来る器量から近距離でも中距離でも使えるようにした。
これでサポートも出来るし、前線も張れるし、蛇腹であるから使い方は君次第で変幻自在だ」
「ありがたく使わせてもらいます」
三人はそれぞれ感謝の言葉を述べると「まだ少しだけ話させてもらうよ」とゼインが告げるので、三人はゼインへと耳を傾けていく。
「さて、一番最初に俺は君達になんて言ったか覚えてる?」
「えーっと、『未来の特魔隊一員にエールを』とかでした」
「そうその通り。それからわかることは君達――――特にラスト君はまだ特魔隊の一員ではないんだ」
「え、でも、前に魔族を倒しに行ったっていうのは特魔隊としての仕事だったのでは?」
そう思わず疑問を持ったグラートがゼインに尋ねるとゼインはそれに返答していく。
「確かにあれは特魔隊の一員だった。そして現状二人は特魔隊の一員として俺はカウントしている。
しかし、上層部の奴らはラスト君を特魔隊に入れるかどうか悩んでいるみたいなんだ。
ならば、せっかくラスト君が特魔隊へ行くための高等学院に入るのなら、そこで実績を積んで認めさせようってね」
「なるほど......」
「あと付け加えるのなら、特魔隊に入るのなら特魔隊ならでは知識を深めた方が良い。
俺から教えることも出来るけど、常にそう時間を作れるほど僕も案外暇じゃないんだ。だったら、餅は餅屋にってことにしたわけ」
そう答えたゼインに対し、リナがそっと手を上げて発言を求めた。
その手に気付いたゼインが「どうぞ」と告げるとリナは答えていく。
「私が行くのは護衛的な役割が大きいですか?」
「そうだね。リナちゃんはもう特に特魔隊での動きを知ってるし入る必要はない。
でもまぁ、復習がてら行ってきなよ。それに縦社会ばっかだったこことは違って同世代っての交流も大事だと思うしね」
「わかりました。ラスト君のサポートが務まるよう行ってきます。さすがにこの筋肉ダルマだけでは不安ですし」
「ほぅ~? 言ってくれんじゃねぇか氷の女王さんよ?
言っておくけどな、これまでの学院で散々サポートしてきたのはこの俺なんだぜ?」
「特魔隊に関しては実際に特魔隊としてのサポートが聞く私の方が有利。
マウントを取ろうとしたって所詮は中等部での話。これからは全然放ちが違う」
「いーや! 俺の方がラストをサポートできるね!」
「私の方が」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!」
急にどちらがラストを一番サポートできるかという割にどうでもいい張り合いを始めたグラートとリナにラストは嬉しい気持ちも抱きながらも、妙な空気に困惑気味でもあった。
そんなケンカする二人とそれに挟まれる一人という構図を見たゼインはゲラゲラと笑っていて、マーリアもクールな表情から僅かに笑みを零した。
そんな妙な空気をゼインが手を二回叩いて気を引かせることで元に戻すと言葉を告げていく。
「ま、二人の主張はともかく二人がいれば互いのラスト君の知らないことを補えれるでしょ?」
「まぁ、それは......」
「一理あります......」
「よし、それじゃあこの三人で是非とも学院生活を楽しんできてくれ」
「「「はい!」」」
そう元気よく返事をすると三人はピシッと立ちながら敬礼した。
*****
――――数週間後
「ここが受験会場か......」
「なんか妙な緊張感があるな」
「緊張して筆記でド忘れとかしないでよ?」
「しねぇわ!」
相変わらず妙ないがみ合いがあるグラートとリナの横ではラストが正面にそびえる巨大な学院――――ルナトリア学院に目を光らせていた。
これまでの近代的な建造物が多かった中央地区とは違い、どこか中世のような雰囲気を漂わせる大学のようなその学院はまさにここが特魔隊へと登竜門とばかりの存在感を放ち、その学院に向かって様々な制服の男女が歩いている。
ラストは思わず固まってしまった。そんな様子に気付いたグラートとリナが一度互いの顔を合わせると声をかけていく。
「大丈夫か? そんな緊張すんなって」
「心配ない。あなたなら大丈夫」
「そうじゃないんだ。ただ少し......感動してただけ」
そのラストの言葉にリナは思わず小首を傾げる。
「感動?」
「僕さ、ここに入ることが夢だった。特魔隊に入るためにはここはいらなきゃなれないってわかってたから。でも魔力なかったから半分どこか夢物語のようにも感じてたんだ」
「「......」」
「でも、今は違う。紛い物の力かもしれないけど、それでも僕はこの力で皆を救えるようなカッコいい存在になれるかもしれないと思うと今は嬉しさしか込み上げてこないんだ」
ラストは自身の拳を見つめながらそう告げていく。
その拳はまるで自分の夢を手繰り寄せることが出来たことを表しているようであった。
そんなラストを見てグラートは笑い、リナも小さく口角を上げた。
「まだ感動するのは早いぞ。お前の夢はこの学院に入ってから始まるんだからな」
「グラート君の言う通り。あなたの物語はまだ始まったばかり。
安心して、私がどこまでもサポートしてあげるから」
「ありがとう二人とも」
ラストの背中に二人の手が触れている。その感触が、その手から伝わる熱がラストの夢へ向かうための「炎」にさらに勢いをつけていった。
「それじゃ行こうか」
「おう友よ!」
「えぇ、そうね」
そしてラスト達は仲良く三人並んで歩き始めた。
この瞬間からラストの果てなき夢への物語が刻まれ始めたのであった。
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