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第17話 教師ゼイン=アルベルト

「ゼイン隊長......どうしてここに......?」


 ラストは突然目の前に現れたゼインに対して驚いた。

 そんなラストの質問に答えながら振り向くとそっと頭に手を乗せていく。


「君達に何かあったら不味いからね。ラスト君の渡した衣服にこっそりと発信機をつけさせてもらった。

 本当はただの初任務での訓練成果を見るためのものだったけど......思わぬ事態になってしまったようだからね」


 ゼインは僅かに顔を後ろに向けると取り囲んでいる魔族達を見た。

 その数をざっと確認すると再びラストへと顔を向ける。


「今の君は少し危険な状態だ。意識が悪意に飲まれ始めてる。

 それは君が扱える領域にはまだないから戻させてもらうよ――――反転・優有劣消」


 ゼインが魔法を発動させた瞬間、ラストの炎は消え、上半身を覆っていた禍々しい紅黒い腕は霧散するように消えていき、ラストのもとの色を戻していった。

 瞳や歯も同様に元に戻るとラストは不意にぐらついて尻もちをつく。


「魔力の使い過ぎみたいだね。後は任せろ。俺が片付けるから」


 そう言って魔族側に向いたかと思うと何かを閃いたようにゼインはラストに向かって告げた。


「あ、せっかくだからここで最後の授業のおさらいをしよう」


「おさらい......ですか?」


 ゼインの突然の言葉にキョトンとした顔を浮かべるラスト。

 一先ず体勢を立て直すとゼインの言葉を傾聴する。


 その一方で、ラストに眠る憤怒の悪魔の覇気が消えたことによって金縛りから解放された魔族達は形勢が有利になったことに対して笑みを浮かべていた。


「なんだ? お前は? そいつとは明らかに違うな」


「そうかな? あんまり変わらない、いやむしろ劣るような気もするけど。ま、それはさておき......さすがに上位魔族の存在は聞いてないんだけど?」


 ラクトマは突然のゼインの登場に警戒すると近くにいた中級魔族に下調べするように指示を出していく。


 それに対し、力による上下関係が出来ているのか魔族B、C、Dは指示に従いながらも、ラストの暴走形態よりも覇気がないゼインに僅かに余裕が現れた。


「どうやら天はわたくし達に味方してるようですわね」


「ま、なんでもいいよ。今は目の前にエサが増えたってだけ」


「ならもう奪い合いでいいよな」


 好戦的な魔族B、C、D、はこの好機に戦闘意欲と食欲を昂らせていくと魔族Bが<水流弾(アクアライフル)>を放ち、魔族Cが<草結び>でゼインの両脇から巨大なツタを出現させ、魔族Dが正面から特攻を仕掛けた。


 それに対し、ゼインは特にこれといった反応も示さずにラストに話しかけながら腕を動かしていく。


「おさらい➀、魔力とは物理干渉物質である。

 魔力はそのままで使えば物理干渉力を伴う物質として周囲に事象を与えていく。

 例えば自身の正面に魔力で出来た障壁をつくり攻撃を防いだり、攻撃に対して魔力をぶつけて弾き返したりできるわけ」


 ゼインは自身の前に魔力障壁をつくり水流弾を防ぐと同時に両脇に手を向けて、両サイドから襲ってきたツタを魔力をぶつけて弾き返した。


「おさらい➁、魔力とは万能な変質物質でもある。

 魔力について謎も多いが、わかっていることは自身の能力や系統に合わせて物質が変化すること。その際たる例えが俺達が使う魔法になる」


 ゼインは魔力障壁を消すと正面から向かって来る魔族Dに対して指鉄砲の形にした手の人差し指を空に向けようにかざした。


「魔法は能力にもよるが大体は自身の与えたいイメージにもっとも近い形を事象として出現させる。

 要は攻撃手段は己の想像力ってわけだ。例えばこんな風にね――――反転・対極」


「!?」


 ゼインが手先をクルっと捻った瞬間、ゼインの1メートル手前まで迫っていた魔族Dは数メートル離れている魔族Bの位置まで強制的に移動させられた。


 そのことにはラストを含め、魔族達もその突然の事態に驚きが隠せなかった。

 そんな周囲の驚きを気にすることなく、ゼインは言葉を続けていく。


「おさらい➂、魔力は有限であり、悪魔や魔族に対しての最大の攻撃なので確実に当てることを意識しましょう。

 ま、相手が強ければ強いほど難しくなってくるから、さっきの基本的な2つだけ押さえておいてくれればいいよ」


 ゼインがラストの方に顔を向けてニコッと笑っているとその隙を狙うように魔族Cの<草結び>がゼインの足元から出現した。


 鋭く尖らせたツタの先がゼインの胴体を貫かんばかりに迫り、それに気づいたラストが咄嗟に声をかけようとするがその攻撃がわかっているかのようにゼインはラストに向けてウインクしていく。


「反転・奪魔強行」


「なっ!?」


 次の瞬間、ゼインの足元から生えたツタが消えたかと思うと数メートル離れた魔族Cの足元から出現して、魔族Cの胴体を貫いていた。


 そのあまりの光景にはラストも思わず言葉が漏れてしまった。

 そしてそれは魔族側も同様であり、恐怖で慄くままにゼインに尋ねた。


「な、なんですの? あなたの魔法は?」


「あぁ、俺? 俺の魔力特性は『逆転するもの』で使う魔法は『反転』。

 俺の好きなように位置を入れ替えることが出来るっていう何の変哲もない魔法さ。

 当然制限もある。ただし入れ替えるのは位置だけじゃないけどね」


「そ、そうかコイツが......逃げろ! コイツとは戦うなと言われていた!」


 ラクトマはが突如としてそう言うとその場から離脱しようと動き始めた。

 しかし、ゼインがその魔族達を逃すはずがない。


「もう俺に認識されたからには逃げれないよ――――反転・対極」


 魔族達は一斉にバラバラへ逃げようとする。

 しかし、地上を蹴って離れた瞬間、1秒もなく先ほどまでいた地上に戻らされていく。


 何度も何度も魔族達は繰り返していくが結果はどれも同じで、地上には魔族達が逃げようとあがいた凹んで泥っぽくなった雪の足跡だけが残っている。


「これで魔力の大まかなレクチャーは終わり。後は自分で色々試しながらやってみてね」


 そうラストに伝えたゼインは魔族達の方へと両掌を合わせる。

 だが、逃げられないとわかった魔族達がそのまま死を待つはずもなく、ゼインに向かって突撃しようとした。


 しかし、それすらももとの位置に戻され、魔法攻撃をすればゼインに届く前に一瞬消えたかと思うと軌道を逸らされている。


「クソ! 逃げられねぇ! 俺はただ嬲りたかっただけなのに!」


「生徒の復習相手として一役買ってくれてりがとう。それじゃ――――反転・廻天」


 ゼインは合わせた手のひらを直角になるようにズラしていく。

 すると、魔族達の顔がそれに合わせて強制的に横に向いていき、さらには180度まで回転しようとしていくではないか。


 そして最後には顔が一気にグルンと回っていき、ねじれて細くなった首が切れて頭が空中に弾け飛んだ。

 それによって、その場にいた全ての魔族が魔力の塵となって消滅していく。


「んじゃ、帰ろうか」


******


――――数日後、


 ラストは検査入院のために病院にいて、遮光カーテンを揺らすような心地よい風が吹く中で窓の外に見える大きく抉れた特魔隊本部がある中央タワーを見ていた。


「アレ、隊長が半ギレしてやったらしいですよ?『何、人の部下にちょっかい出してくれてんだ』と」


「マーリアさん......そ、そうなんですか......それで肝心のゼイン隊長はどこに?」


 ラストはいつの間にか近くにいたマーリアに驚きつつも、ゼインについて質問していく。

 それに対し、マーリアはしれっと答えた。


「自宅謹慎だそうです。ま、本部のタワーに風穴開けてそれだけで済むんですから本部にとってどれだけゼイン隊長が重要かわかる結果ですね。

 といっても、もう少し見た目のお茶らけ感には気を遣ってほしいものですが」


「ハハハ......そういえば、エストラクトさんは大丈夫ですか? 僕が不甲斐ないばかりに」


「大丈夫ですよ。命に別状はありません。それにリナの方は案外そう思ってもないみたいですよ」


 ラストとマーリアが話しているとドアがノックされ、入ってきたのはグラートであった。


「よっ、初任務お疲れさん。危険みたいだったが大丈夫そうだな」


「うん、僕はね。エストラクトさんには無理をさせてしまったみたいだけど」


「そう思ってるのは案外お前だけだと思うぜ? ま、気になるだろうし会いに行くか?」


「......うん、そうだね」


 ラストはグラートに提案に乗ってリナの病室まで訪れた。

 ドアをノックしてはいると窓から入る風に髪をなびかせて、ベッドに座って読書しているリナの姿があった。


 その姿はまるで芸術家が描いたかのような美しさがあり、言葉に出来ない儚さにラストは思わず見惚れた。


 ラストの視線に気づいたリナは特に表情を変えることもなく手招きをするとラストが近づいてきた所で顔を引き寄せて抱きしめた。


「良かった。無事で」


「......っ!?」


 ラストは突如としてリナの胸に顔を埋めるような形になってしまって動揺が隠せないでいた。

 しかし、リナの方はラストが無事に戻ってきたことに安堵しているような表情を浮かべていて全然気にしていない様子だ。


 そんなリナの様子に気付き、なんとか平常心を保ちながら赤らめた顔を話すとリナに笑顔を向けて告げた。


「その言葉はこっちのセリフだよ。無事で良かった。痛みはない?」


「大丈夫。ここには優秀な回復魔法が使える人がいるみたいだから。今日には退院できるみたい」


「そっか。良かった。僕も今日には退院できそうだよ」


「そう」


 返事をしたリナが僅かに笑みを浮かべた。

 どこか母性的なその表情にラストは思わずドキッとして顔を逸らしていく。

 そんな二人だけの甘い空間のような空気に思わずグラートがカッとなる。


「待て待て! 新参者が俺の親友を絆そうとするとは何事か! まずは親友の俺に話を通してもらおう!」


「え、グラート!?」


「望むところ。あなたに何の権利があってそうするのかはわからないけど、徹底的に潰してあげる」


「エストラクトさん!?」


 空気は一転して急なバチバチモードに。どうしてこうなったのかラストにはまるで理解できていない。


 そんな様子を傍から見ていたマーリアは「妙な三角関係は置いといて」と告げると手に抱えていたタブレットを見ながら告げた。


「どうやら隊長が皆さんに集まって欲しいみたいですよ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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