第12話 初めての依頼
「任務ですか?」
「あぁ、上層部からのお達しでね。是非とも二人にやってもらいたいと」
卒業まで残り4か月ほどとなったある冬の日、本部近くにある事務所に集められたラストとリナは唐突にゼインにそう言われたのだ。
それに対し、リナはすぐに理解したようだが、まだ理解しきれていないラストのためにゼインが説明していく。
「先日、俺は上層部の方に呼び出しくらったんだけど、そん時に言われたのが“ラスト君の魔人としての危険性を確認できない”というものだったんだ。
つまりはしばらく修行してきた俺達は君が大丈夫だと知ってるけど、上層部は知らない。
故に、本当に味方であるかを確かめるための試練みたいなものと言っても過言ではない」
「なるほど......」
「これはあくまで魔人となった者の通過儀礼的なものだ。
よって、君にはこの依頼を達成して是非ともその有用性を示してもらいたい。何か質問あるかな?」
ゼインがそう聞くとリナがチラッとラストを見て手を挙げた。
「この任務については私もですか?」
「あぁ、リナちゃんにはラスト君のサポートをしてもらいたい。
その理由はここでは言えないが聡明なリナちゃんならわかってくれるはずだ」
その返答はまるでハッキリしておらず、含みのあるような言い方で終わらせたゼイン。
しかし、リナはなんとなく察したようにその言葉にコクリと頷いていくとそれ以上の質問はしなかった。
「それじゃあ、依頼内容を説明しておくと君達に倒してもらいたいのは中級魔族に魔獣の討伐。場所はここから南のエルゼ地区だ」
「魔獣もいるんですか?」
そのゼインの言葉にラストは思わず聞き返した。
ここで「魔獣」について簡単に説明しておくと、魔獣と魔族は基本的には同じである。
違うとすれば、その容姿が“人の姿”か“それ以外”かで、魔獣は人型よりも知能は低いが攻撃的で集団で襲い掛かることが多いとされている。
ゼインはラストの質問にコクリと頷くと返答した。
「どうにもそこの地域だけ魔獣が多くてね。恐らく魔獣が作り出されてる可能性がある。
その魔獣は人々にとって脅威な存在だ。それに作り出す魔族もね。すぐに対処に向かってくれ」
「「わかりました」」
二人は敬礼するとその部屋を退出していく。
その二人と入れ違いになるように入室してきたマーリアは出ていった二人の姿を後ろ目で見ながらゼインに質問した。
「また上層部の我が身可愛さイビりですか?」
「いや、今回は少し違う。何しろ魔人となったのが俺達と関わりのない一般生徒だからね。
しかも同調率が未だ低いのに適正者としてはリナちゃん以上。故に怖いのさ、あのクソジジイどもは」
「だとすれば、こんなことを聞いてゼイン隊長がこのままでいるなんて正直意外なんですが」
「ま、それは期待だよ。まだ荒さがあるが鍛えた二人なら何とかなると思ってね」
「どちらかというと、上層部の鼻を明かしたいという感じにも思えますが」
「あら、バレテーラ」
*****
――――移動してから数十分後
しんしんと雪が降り、十数センチと雪が積もっている道路の上で防寒対策がされた隊服を着た二人は白く染められた建物を眺めていた。
そこはすでに住人避難がされているのか人の気配はない。
されど時折何かがガタッと動くような音は周囲から聞こえてくる。
初めての任務に緊張で心臓がドクドクと激しく高鳴って無言になっているラストの様子に気付いたリナは抑揚のない声色で告げた。
「大丈夫。あなたはすでに中級魔族に立ち向かってる人。
魔獣はそいつに比べたら取るに足らない存在だから簡単に対処できる」
「そっか。ありがとう。励ましてくれて」
「別に。最初は誰しもこんなもんだから言っただけ。
それにあなたの中にいる悪魔が他の悪魔や魔族に取られるのは危険だから」
そう言ってリナは白い道に足跡を作りながら歩き出した。
言葉の端々からどこか距離感を感じるラストはそれを少し気にしながらその後をついていく。
「悪魔が他の悪魔や魔族に襲われるってことはあるの?」
「あるみたい。それらの存在は基本的に人の魂を食らって強くなる。
故に、人を襲いまくったそれは強いと同時に食らった分だけの上質な魂が宿っていることになる。
そしてもしそてを食らうことが出来たならその食らった分に合わせてその存在が持つ力も手に入れられる」
「ってことは、二つ名を持つ悪魔を宿す僕は格好のエサってわけか」
「そうなる。そしてそういう存在は強烈な存在感を放っているから敵が寄ってくる――――その魂を食らおうとしてね」
リナが止まるとその正面には十数匹のオオカミの魔獣が立ちふさがっていた。
白い雪に際立つように全身が黒いそのオオカミ達は威圧するようにグルルルと唸っている。
「ま、あなたの場合魔力の使い方がまだ未熟だから悪魔の強い気配を消せてないだけだけどね。
私が半分やる。もう半分はあなたが受け持って」
「わかった」
ラストがオオカミ達に突っ込んでいくとオオカミ達も一斉に動き出した。
そして最初に攻撃を仕掛けたのは後方のリナであった。
「これだけ雪があれば少しの魔力で十分そうね―――凍草」
リナはオオカミ達に向かって手をかざすと魔法を発動させた。
その魔法は周囲の雪を押し固めて氷にし、それを草のように地面に敷き詰めるというもの。
一見単純かもしれないその魔法だが、その草は余裕で胴体を貫通するほどの氷柱で出来ているのでその魔法が発動したタイミングで通過したオオカミの半分は串刺しとなっていく。
しかし、当然それを避けたオオカミ達もいる。それらに対してはラストが対処していた。
ラストは腰から魔剣銃を引き抜くとそれを剣の形に変えて二匹のオオカミを斬り払っていく。
そして憤怒の悪魔の魔力を使って身体能力を強化していくと襲い掛かってきた残りのオオカミを素早く避けた。
「熱風」
ラストはすぐさま攻撃に転じると左手を伸ばし、空気をかくような手の形にしながらその場で一回転した。
その瞬間、ラストの周囲から文字通り熱風が吹き、足元の雪を水に変えながら残りのオオカミ達を吹き飛ばしていく。
そしてすぐさま銃にした魔剣銃で全てのオオカミにヘッドショットを決めていく。
「お見事ね」
戦闘を終えるとラストの戦いを見ていたリナが歩きながら感想を述べてきた。それに対し、ラストは謙遜する。
「いや、そんなことないよ。これだって前にエストラクトさんが練習していたのを見て出来るように練習しただけだから」
「だからといって、早々に実践で試せるものでもないはずだけど......」
リナはラストが向ける笑みを見て思わず言葉が詰まった。
そしてそれ以上その続きを言うことをやめるとラストの横を通り過ぎながら一言だけ。
「大丈夫、あなたは私が守る」
「――――おいおい、俺のペットを随分と殺しちゃってくれて。この落とし前はお前の魂でいいよな?」
「――――二人いるんだからキッチリ一人一つよね?」
男女二人の声。その声に目線を向かてみると未知の両脇の屋根に少年と少女の姿があった。
その向けてくる視線は明らかに敵意そのものである。
「お前達がこの場所で人を襲っている魔族か?」
「人を襲ってると言われるぞ、レダン」
「襲ってるのはあんたの方でしょ、ゲイル? さっき死んだ犬っころを使ってさ」
ゲイルと呼ばれる少年はレダンと呼ばれる少女といがみ合いながらもどこか仲良さそうに話している。
「アレは狩りの仕方を教えてただけだ。だがまぁ、その手間をぶち壊しにしてくれたこの連中にはその身をもってキッチリ清算してもらわないとな!」
「ん? 待ってこの気配......」
「どうした?」
「あの男の方、体に最高級な悪魔宿してるわ。それも未熟な器の状態で」
「うぉ、マジか! ハハッ、これは滾ってくるなぁ! 安心しろアイツは俺が相手する」
「なら、あたしはこっちの女ってわけね」
二人は口元を大きくゆがめると揃って告げた。
「今夜のディナーはお前達だ!」「今夜のディナーはあなた達よ!」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




