次期領主からは婚約破棄、家族からは勘当を言い渡されましたが私を溺愛してくれる鍛冶師と出会ったので気にしません
「すまないが、俺はもう君に魅力を一切感じないんだ。ほら、両親からも許可は貰っている。もう分かるよな? セレナさん?」
アルトレス次期領主であるカイリから婚約破棄を告げる書物を投げ捨てられた。
あまりにも突然で、私は何も言葉を発することができずにただ呆然としているだけ。
……魅力を一切感じない。確かに私は他の令嬢と比べれば地味だ。何の特技もないし、形も普通。
だからと言ってそれだけで婚約を破棄するだなんて……。
「カイリ様……。ですが私の両親たちからの許可がまだ……」
少しでも時間を稼ぐためにそう尋ねてみた。なんたって、彼とお付き合いをしていた理由と言うのが私のお父様が領主であるアリューストとの同盟関係を作るため。
だからこんな急な話、受け入れられるはずがない!
「たっく、面倒だな。ちゃんと紙面を見てみろよ」
カイリは貴族がしてはならないような表情を浮かべ、私が持っている書物の一部を指差した。
内容はと言うと、婚約破棄を告げる報告書のようなもの。
そして――彼が指差した場所には。
「お父様の名が……!」
アレスと、たしかにお父様の直筆で書かれていました。筆圧も癖も、間違いなくお父様のものです。
「つまりだ。お前は元から俺からも、家族からも追放されるためにここにやってきたんだよ! 悲しいなぁ! 悲劇のヒロインさんよぉ!」
私の頭を力強く掴んだあと、地面に向かって押し倒しました。そのときに頭を強く打ってしまったらしく、意識は途絶え、一瞬ではありますが自身が捨てられた身分であるということを忘れることができました。
◆
目が覚めると、私は見知らぬ土地に捨てられていました。あれほど綺麗だったドレスは泥で汚され、見るに堪えない姿になっています。
ふらつきますが、どうにか立ち上がり近くにあった村へ逃げ込みました。しかし頭を強打してしまっていることもあり、上手く歩くことができず、路地裏に逃げ込み建物の壁にもたれかかっていました。
どうして……どうして私は捨てられてしまったのでしょう。
けれど、考えれば考えるほど嫌な思い出がふつふつと蘇ってきて苦しくなります。
この先どうしようか、助けてくれる人もいないしな。
なんて考えていた時のことです。
「あの、大丈夫ですか?」
優しい、ですが気弱そうな声が私の耳に届きました。
恐る恐る瞳を開け、声の持ち主を凝視します。
「……!」
どう、声を掛ければいいのか分かりませんでした。
彼は私と同じように、ぼろぼろの衣服を身にまとっています。が、それ以上に麗らかで体全体から優しさがにじみ出ていました。
私にはこの人しかいない! この人こそが私の救世主になりえるお方なはず!
そんな文句を並べましたが、正直なところ一目惚れでした。
彼はレンと言うらしいです。
気弱そうな彼にはあまり似合わないハツラツとした名前。だけれど、だからこそレンの魅力が一際目立っているように思います。
困る彼をどうにか説得し、私はレンのお世話になることになりました。
「セレナさん。壁に立てかけてある剣を持ってきてくれないかな」
「はい。喜んで!」
レンは鍛冶屋を営んでおり、住まわせてもらう代わりにお仕事を付きっきりでお手伝いしています。
「わわ!」
「ああ、大丈夫かい!?」
転んでしまい、剣を落としてしまっても、商品より先に私の方へと駆けつけてくれる彼の優しさ。
私は日が立つにつれて彼のことが好きになっていきました。
「あの……セレナさん。お伝えしたいことがありまして……」
お店を閉めた直後。
彼はもじもじといしながら一通の手紙を渡してきました。
手紙……か。
あまりいい思い出はありません。
また、私は追い出されてしまうのでしょうか。裏切られてしまうのでしょうか。
ですが、私は彼を信じました。
息を整え、ゆっくりと着実に手紙を開けます。
『私はあなたを愛しています。よければ私とお付き合いしていただけないでしょうか?』
「あ、ああ……!」
気がつく頃には、私は彼に抱きついていました。
温かい胸に包まれ、ずっと涙を流してしまっていたようです。
「ごめんね、驚かせてしまったね」
「いいんです……驚いたわけじゃありません。嬉しくて、嬉しすぎて泣いているのです……!」
もう、私は気にしません。
元婚約者のことも。家族のことも。
今、こうして新たな家族ができたわけですし。
私は今、レンに溺愛されて幸せです。
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