六
「ふっしゅ〜!」
鼻から荒い息を吹き出して、前足で地面をかいている。ブダに似た鼻面、牙が4本あるけど、間違いなく猪だと思う。 魔物だよな? なんか、黒いオーラみたいなの出てるし、闘牛並のデカさだな。確か猪の弱点は、眉間って聞いた事がある。
深呼吸して、猪の魔物を睨み据える。 木刀を強化すると花びらが散った。
猪が突進してくる。 デカさを感じないくらい速い! 緊張が増す。 衝突する瞬間、左に避けてかわして、同時に脚を払う。
硬い! 強化が足りない。木刀の柄が熱くなる。強化を上乗せして……衝撃でよろけた所を……。
右手に力を入れるな。真っ直ぐに眉間を突く! グシャッと嫌な音がして猪の魔物は沈んだ。
うげっ! 何か飛び出したな。 見なかったことにしよう。 花咲が草陰から伺っている画像が送られてきた。
「花咲、終わったよ。 もう、出てきても大丈夫だ」
花咲が、不安そうな顔で草陰から出てきた。
「小鳥遊くん、怪我はない?」
「大丈夫」
笑顔で返したけど、正直、上手く誤魔化せたかどうか分からない。 ここまで狼、大蜘蛛、猿に蛇と今の猪。 立て続けに倒して、疲労はピークに達している。 花咲が、回復薬を作ると言って頑張ってたけど、上手く行っていない。 薬草の見分け方が、分からなくて苦労していた。
轟音と共に出入口が、せり上がってきた。 深呼吸して、気合いを入れる。
「行くか」
「うん」
降りた先は、草原が広がっていて、近くに魔物は居なかった。 良かった。 少し、休憩したい。
「私、薬草探してくる。 小鳥遊くんは休憩してて」
少し、離れたとこで探し出した。 そんな離れてないし、何かあったら、あのスキルがあるし、大丈夫か。 花咲が、薬草探しに必死になってる姿が、脳裏に映し出される。
『花咲華の周囲には危険はありません』
スキルが、教えてくれる。 そう言えば、ONとOFFが、出来るって……
『『花咲華を守る』の[位置情報:透視]を、一次停止します』
『……傍聴を、一次停止します』
『『花咲華を守る』スキル、全内容を、一次停止します。 五分後、再始動します』
切れても五分か。
俺は気づかなかった。 色々とスキルを弄ってる間に、花咲が、位置情報で感知出来る距離を離れている事に。
私は焦っていた。 小鳥遊くんが疲れているのに、我慢して強がっていることに、気づいていた。
小鳥遊くんに負担を掛けたくない。 だから、絶対ちゃんとした回復薬を作りたくて、知らないうちに、小鳥遊くんから離れてしまった事に、気づかなかった。
「うっ! また、変な薬が出来た。 う〜ん、ちょっとした違いが分からない」
出来ても、澄んだ綺麗な色にならない。
「これじゃ、効力ないわ」
グルルルルル! 獣の唸り声と影が落ちる。
「へっ?」
顔を上げると目が合った。 死の恐怖が過ぎる。 頭から爪の先まで震えて、血の気が引く。
デカい牛が二本足で立ってる。 次の瞬間、天地がひっくり返って、魔物に担がれていた。 パニックで声も出ない。 小鳥遊くーーん!
ハッ! 何だ? ものすごく嫌な感じだ。 あれ? もう、五分以上過ぎてるよな?
花咲は?
『『花咲華を守る』スキルの距離外に移動した為、感知でません』
えっ! 辺りを見回しても花咲の姿は何処にもなかった。
「花咲……」