五
頭が可笑しくなりそうだな。
この[花咲華を守る]スキルは、取り敢えず、横に置いとて、これからどうするか考えよう。
振り返る前に花咲が、桜柄の木刀を持ってる姿が送られてきた。 あの木刀って、もう一人の俺が持ってたやつだ。
「花咲、その木刀……」
「あ、これ? 私が作ったの」
「これを花咲が?」
「うん、私、錬金術が使えるんだけど、魔法陣のファイルの中に、小鳥遊くんの武器があってね。はい、持ってみて」
「俺の武器が、花咲の魔法陣の中に?」
「うん、材料は世界樹だよ、さっきひと枝くれたの」
大木を仰ぎみる。 風が吹いて世界樹が、何か言ったような気がした。 この大木、世界樹だったのか。 まぁ、普通は予想つくよな。
持ってみたら、軽くてびっくりした。 木刀って普通は重いんだけど、しっくりと手に馴染んで、握りやすい。 振ってみた、綺麗な音が鳴った。 やっぱり軽いからか。 ただ、桜柄は派手だな。
「魔法剣みたいだから、魔力を込めてみて」
えっ! 魔力を込める? どうやって? 取り敢えず、握る手に集中してみる。 何か手が、暖かい。 そのまま集中を続けると、魔力が切先まで包み、強化されたのが分かった。 強化が終わった時、桜の香りと花弁が舞った。 演出も派手だな。
「すごいな。こんなの作れるなんて」
「ふっふっふ、趣味でもあるしね」
「? 趣味って?」
「や、こっちの話」
花咲は手と顔を、振って慌てて誤魔化した。 何か、知られたくない事でもあったか。
「花咲はRPGとかした事ある?」
「や、そっち系は……運動神経切れてるし、反射神経もやばいから、狩りとか討伐クエとか無理だし、やってもオートモードオンリー(私が興味があるのはキャラの衣装だしね)」
「運動神経云々は知ってる(ずっと、見てたしな)
俺は部活ばっかりで、疲れて早く寝るしな。 ゲームなんてしてる暇なかった」
「剣道部だよね。 実際に闘うならゲームより剣道の方が、役に立つと思うけど」
「それもそうか、何かちょっとしたゲーム感が、現実味を無くすよな」
うんうん頷く花咲は可愛い。
「取り敢えず、ここを出る為には力を手に入れて、ダンジョンを攻略しないとだな。 出口を探すか」
「うん」
じっと草陰から二人を盗み見ている影があった。
「やっと、行ったわね」
「だね。 どっちに賭ける? 死ぬか生き延びるか」
「……賭けない、生き延びてもらわないと行けないんだから」
「死ぬと思ってるんだ?」
「このままじゃね」
「助けないの?」
「助けるわよ、 力を手に入れた後でね。 そういう指示だし。 追うわよ、見失う」
「了解! それに、見極めないとね」
「……そうね」
ガサガサと草陰から二匹の影が、飛び出して行った。 そのフォルムは丸く、羽根が生えていた。
二匹が怪しげな話をしている頃、俺たちは出口を探して彷徨っていた。 俺たちは、まだ分かっていなかった。 心の何処かで、まだ帰れるんじゃないかと思っていた事 このダンジョンの危険性とか、死と隣合わせの世界で、生きて行かなければならない事を。