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異世界転移したら……。  作者: 伊織愁
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最終話

 光が弾けた瞬間、嗅いだことのある匂いがした。 土と草花の匂い、森の中の匂いだ。 川のせせらぎも聞こえる。 柔らかい草の上に落ちて川辺まで転がっていく。 目を開けると、そこはダンジョン内の休憩ポイントだった。 俺の上に乗っかったままの華は、まだ気絶している。 俺の横で、転がって落ちたフィルが起き上がった。 銀色の少年の姿に変わる。 俺の腕を引っ張って叫ぶ。

 「ユウト! 早く、起きて! ここから出るよ! 出口が閉まる!」

フィルの声で起き上がって、華を抱き上げる。 急いで世界樹ダンジョンを出る。 出口を出ると世界樹ダンジョンが消えて、草原が現れた。 華を寝かせて、フィルと二人で大きく息を吐いた。 

 「フィンに連絡取るよ。 迎えに来てもらおう」

寝ている華の髪に触れてみた、さらさらと頬に落ちる。 さっきより顔色は良くなってる、良かった。

フィルが振り返って、明るい声で報告してくる。

 「直ぐ来るって! ハナはまだ、起きない?」

 「うん、そのうち目が覚めるだろう。 それより、もう魔王候補って出てこないよな?」

フィルに訊いてみる。

 「う~ん、どうだろう? ベネディクトの奴があらかたやったらしいけど……人間って欲深で、弱い生き物だからね。 闇に落ちない人間はいないから、魔王候補レベルの魔族は当分出ないけど、弱い魔族は生まれるかもね」

 この先にまだ、魔族と戦う事があるかも知れないという事か。

何処からか風が吹いて顔を撫でる。 頭の中に世界樹のイメージが浮かんだ。 足音もしないのに、人が近づいて来る気配がして、世界樹が消えた場所を振り返った。

 「あ! 主さまーー!」

主さまって、世界樹の……。 フィルが嬉しそうに主さまに駆け寄っていった。 頭を撫でられて嬉しそうだ。 主さまが俺に近づいてくる。 主さまの手には、世界樹の枝が一枝、握られていた。 

 主さまは、めっちゃ若かった。 でも、声はしわがれていて老人の声だった。 性別は分からない、どっちにも見える。 俺に世界樹の枝を差し出すと、優しく頭を撫でた。

 『世界樹の扉が開いた時にまた……』

最後は聞こえなかった。 主さまは光の粒になって消えていった。 慈しむような微笑みを残して。



 『花咲華の位置を確認、安全を確認しました。 【透視】【傍聴】スキルを開始します。 就寝中の危険はありませんでした。 朝の画像を送りますか?』


いつものスキルの報告が頭の中で響く。 画像は危険な時だけでいいって。 ベネディクトの戦いから無事に戻って、一か月ほど経った。 スキルの暴走は、華とのスキンシップが多くなった事で、落ち着いた……。

 今日の朝ごはん当番は、華たちだ。 食堂のテーブルには、定番のハムエッグとロールパンの皿が並んでいる。 朝の恒例のミーティングを始める。 今日は、近くの農家で老夫婦のお手伝いだ。 報酬は新鮮な野菜、とても助かる。 話し合いが終わると、華が新しい俺の防具を作ったと言い出した。

嫌な予感が頭を過ぎる。 華の魔法陣が光って、俺の立体映像が現れる。 見た瞬間に思った事は「でかっ」だった。 

 「八分の一のスケールで作ってみました」

悪魔を取り込んだ時の姿を思い出す。 二十二・五cmもある俺の立体映像は、背中に黒い翼がついている。 黒一色で、あの時には無かった、角とか牙も付いてある。 相変わらず、ポージングを決めている。 華、お披露目しなくていいから……。 俺の隣で、瑠衣は肩を震わせて、声を殺して笑っている。 鈴木は顔が引き攣ってる。 瑠衣が小声で話しかけてきた。

 「何か、色々と盛られてないか? 何処の悪魔だ」

 「あの立体映像は、華が妄想する何処か、他所の世界の俺のそっくりさんだ」

俺の言葉が瑠衣のツボにはまったらしい。 そんなに面白いか。 ゲラゲラ笑っている。 ミーティングの後、予定通りに老夫婦の畑を手伝いに行った。 俺たちは、段々とこの世界に馴染んでいった。

 

 俺と華は二十歳の時に結婚した。 子供も出来たし、孫がセレンティナアンナさんとの約束通りにエルフの所に嫁にいった。 そして、元の世界に戻る事無く、寿命を全うした。


 

――数千年後

 俺は寿命を全うしたはずなんだけど……何で? どうして? こんな事になってるんだ?

馬車が砂利道を走る音がする。 揺れが酷くて、車輪が跳ねて尻が痛い。 窓から見える景色は広い草原だ。 俺の対面に座ってるのは、セレンティナアンナさんに似ているエルフで……御車席に座ってるエルフの男性は、アンバーさんに似ている……。

 俺は、どうしてか分からないけど、エルフに生まれ変わった。 二人は今世の俺の両親らしい。 俺の見た目は前と同じだけど、瞳は灰色で髪も肌も真っ白だ。 セレンティナアンナさん……名前、長いな。 彼女は、俺の疑問に答えてくれた。

 「あなた達が飲んだ薬はね、転生出来る薬なの。 薬に転生したい種族の血を混ぜるか、一緒に飲むとその種族に生まれ変わる事が出来るのよ。 でも、何時かとか記憶が残るかは選べなくて、どうなるか分からないのよね。 だから、こんなに揃うなんて稀なのよね」

 「どうなるか分からないのに飲ませたのか……」

彼女はてへって笑った。 てへって笑うな。 記憶があっても仕方ない。 華が今世に、転生してなかったら意味がないじゃないか。

因みに、この人たちは、子供の頃に悪戯で飲んだらしい……で、今世に転生したと……まじか。

 「ところで、今は何処に向かってんの?」

俺は改めて彼女に訊いた。 アンバーさんは、クスクス笑っている。 俺は白いタキシードの様な服を着ている。

 「えっ? 言ってなかった? ハナちゃんの婚約者を決めるお見合いパーティーよ。 パーティーでは、私たちの事、父母って呼ばないと駄目よ。 それと十二歳らしくしてよね」

ん? 今、何て言った? 華も今世に転生してるのか? 彼女は俺の表情で、言いたいことが分かったらしい。

 「ハナちゃんは、私の血が混ざってたでしょ? だから、村長の家系に生まれ変わってるのよ。 でも、記憶があるかどうかは分からないわね」

それ、もっと早く言って欲しかった。

 「もし、華に記憶がなかったら……生まれ変わっても追いかけてくる奴って……気持ち悪くないか?」

 「「……」」

二人の動きが止まる。 

 「私が思い出したのは、あんたを生んだ時なのよね。 私の悪戯のせいだし、決めた事だけど、アンバー気持ち悪いって思ったわね。 記憶なくても会ったら思い出すかもよ」

 「……」

彼女は、軽く笑いながら何でもないように言った。 馬車が砂利道を走る音が響く。 窓の外の景色が、草原から街並みに変わっていく。


 パーティー会場に入ると、婚約者候補が沢山招待されていた。 華が会場に入って来た。 前に一度だけ見たエルフの姿だ。 その時より少し幼い。 華も見た目が変わってなかった。 白いドレスを着た真っ白な華は綺麗だった。 俺の視線を感じた華と目が合った。 こんなに緊張したのは久しぶりだな。

 華は、少し目を見開いた後、視線を逸らした。 胸の奥が痛い、胸が痛いなんて久しぶりだ。 

やっぱり、記憶がないのか。 華……。

 華が他の婚約者候補に、囲まれてるのを見てイラつく。 近づいて虫除けスプレーを振りたい気分だ。

華の後ろから近づいて、話しかけてみる。 何て、声かければいいんだ。 あ、華の転生後の名前、ちゃんと聞いてなかった。 俺を振り返った華が、不思議そうに見つめてくる。 何か言わないと。 

 まごまごしているうちに、華が痺れを切らしたのか、俺の手を取って走り出した。 会場の中を中庭に向かって駆け抜けていく。


 中庭と言うには、広すぎる庭を手を繋いで二人で走る。 湖に着いた時、華が振り返った。

俺たちの間に緊張が走る。 喉が渇いて張り付いてるみたいだ。 華はじぃと俺の姿を少し、信じられないような顔をして凝視している。 この空気感は、覚えがある。 先に口を開いたのは華だった。

 「小鳥遊優斗くん……だよね?」

華の言葉に俺は、笑顔で返す。

 「花咲……華、だよな?」

俺の返事に華は、あの時と同じ言葉を叫んだ。

 「何でーー!!」

湖の畔で座って、華に事の経緯を説明した。 華は白いドレスが汚れるのも気にしてないみたいだ。 

 セレンティナアンナさんとアンバーさんが、今の両親だと聞いて物凄く驚いてた。 華は、俺と目が合った時に思い出したのだと、俺が話しかけてくるのを待ってたらしい。

 「私が生まれ変わって、秘術を引き継ぐんなら、別にエルフと子孫を残さなくても良かったんじゃない?」

 「ああ、それは……何でか分かんないな。 俺が嫌がる顔が見たかったとか……」

彼女ならあり得る。 今度、訊いてみるか、忘れてそうだけどな。 俺が寝転がると華も隣で寝転んできた。 

 「白いドレスが汚れるよ。 家の人に怒られない?」

 「いいよ別に、気にしないから。 優斗くんも白い服汚したら、怒られるんじゃない?」

華はにっこり笑った。 華を抱きしめると、華も背中に手を回してきた。

 「成人したら、フィルたちに会いに行くか。 あいつらまだ生きてるだろう」

 「うん、フィンたちに会いたい。 優斗くん、また変なスキル貰ったりしてね」

華の言葉を聞いて、不安になった。

 「世界樹ダンジョンの外から声掛けるか」


 暫くしてから会場に戻った俺たちは、服を汚して案の定怒られた、アンバーさんに。 無事に俺と華の婚約が決まった。 

 俺と華は成人を迎えた時に、何故か世界樹に呼ばれた。 成人のお祝いパーティー中に、世界樹ダンジョンの中に転送されたのだ。 フィルたちには無事に会えた……んだけど。

 俺はまた、誰にも言いたくないスキルを貰ってしまった。 俺の落胆の声がダンジョンに響いたのは言うまでもない。 どんなスキルを貰ったかは誰にも秘密だ。

最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

皆さまにとって、午後のひと時が素敵な時間になりますように。

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