十
何度も打ち合う内に、勇者の剣の魔法石のひびが大きくなってくる。 このまま削っていけば壊れるはず。
俺の横を掠めた黒いトルネードが、氷の壁を吹き飛ばして壊していく。 近い場所にあった黒い岩の塔を削って、黒いトルネードは消えた。 銀色の足跡が輝く、足跡を踏んで打ち込む。 木刀と勇者の剣が打ち合わされる。 火花が散って、木刀と剣から黒い煙があがる。
木刀に魔力を流す。 黒い花びらが舞った後、魔法石が黒に変わっていく。 木刀が震えて魔力を抑えていられない。 勇者の剣の魔法石が黒く光って震えた。 一瞬だった。 木刀と勇者の剣は、震えが止まった後、真っ二つに折れた。 折れた木刀の先が、粉々に崩れていくのをただ、じっと眺めていた。
遠くでベネディクトの声が聞こえる。
「あ~あ、折れやがった。 やっぱりハズレ武器は駄目だね」
ベネディクトは、ニヤリと笑って掌から黒いオーラを、大鎌に変えた。 ベネディクトの魔力が膨張するのを感じた。
『攻撃来ます。 避けてください』
スキルの声が頭の中で響く。 俺はまだ、折れた木刀を眺めたままで、事実に消化出来ないでいる。
頭の上でフィルの声が響いた。
「ユウト! しっかりして! 折れてもまだ使える!」
フィルの魔力が俺に流れてきた。 魔法石が光って、いつもの花びらが舞う。 桜の香りが俺の周囲に漂ってきた。 木刀を構えて魔力を流す。 木刀が氷の剣に変わっていく。 悪魔が跳ねて、心臓が大きく震えた。
氷の剣に黒が混じっていく。 ベネディクトから放たれた黒い刃が飛んでくる。 氷の剣で跳ね返して、そのままベネディクトに突っ込んで行く。 大鎌が俺の頭を狙って振り払われる。 屈んで避けて、黒い心臓を狙って突きを繰り出す。 ベネディクトは、歪んで消えた。
っくそ! また、あれか! 何処行った……
『後ろです。 でかい衝撃刃が来ます』
振り向きざまに、氷の剣を払って衝撃刃を放つ。 二つの衝撃刃が衝突して、轟音と爆風で吹き飛ばされた。 勢いがあり過ぎて止まらない! まずい! このままだと氷の壁を壊して下に落ちる!
スピードは緩まない。 踏ん張ると床を削って、氷の壁に向かって飛ばされていく。 頭の上でフィルが、俺の髪を引っ張って何とか止めようとしている。 仰け反る体勢になって、余計にスピードが上がった。 悪魔の心臓が僅かに動いた後、翼が大きく羽ばたいた。 氷の壁に当たるギリギリの位置で止まった。
フィルと二人で大きく息を吐く。 フィルが引っ張った場所が痛い。 頭、剥げてないだろうな……。 悪魔の翼、飾りじゃなかったのか……。 肩甲骨を動かしたら僅かにパタパタと羽ばたいた。
黒い煙が晴れた瞬間、ベネディクトが突っ込んで来ていた。 振り回される大鎌を避けて、逃げ回る。
どうする? どうすればこいつを倒せるんだ。 華の様子も気になる。
俺の影が、黒い影を吹き飛ばしてる画像が、頭の端で映し出されている。 華の方は大丈夫そうだ。
ベネディクトの攻撃を避けながら考える。 防戦一方では駄目だ。 いつかやられる。
氷の剣と大鎌が打ち合わされる。 火花が散る中、ベネディクトが嫌な笑みを浮かべる。 大鎌を払い上げ体勢を崩した所を、黒い心臓を狙って突きを繰り出す。 ベネディクトに後ろに飛んで避けられた。
床に銀色の足跡が輝く、足跡を踏んでベネディクトの頭を狙う。 氷の剣と大鎌が触れて火花を散らす。 氷の剣に魔力を流して更に強化する。 力の限り打ち下ろす。 大鎌が氷の剣が触れた場所から、凍りついていく。 ベネディクトが大鎌に魔力を注ぐと、凍りついた先から溶かされていく。
ひるまずに、攻撃の手を緩めず打ちに行く。 ベネディクトの大鎌に大きくひびが入った。 ベネディクトの魔力が注がれると、ひびが塞がっていく。
『衝撃刃来ます。 間に合いません。 防御に徹してください』
スキルの声が頭に響いた時、大鎌から黒い魔力の波紋が拡がって、衝撃刃が放たれた。 氷の剣で受け止める。 火花が散って煙があがる。 暴風で吹き飛ばされそうになって、悪魔の翼が羽ばたく。
奴の動きを止めないと……
華の悲鳴が、離れた場所からと、頭の中で響いてきた悲鳴と重なる。 頭の端で華の画像が映し出された。
『花咲華の危険を感知、影が消えます』
俺の影が、黒い影に吹き飛ばされて消えた。 華が黒い影に捕まってしまった。 壊された氷の壁から、黒い影が華を落とそうとしている。 頭の中で何かが切れた音が聞こえた。 その後はあっという間だった。 床に氷の剣を突き刺して、全てを凍り尽くす。
ベネディクトが氷の虚像に変わる。 奴の足元に銀色の足跡が輝く、今までで一番はやく動けたと思う。 氷漬けから抜け出す前に、足跡を踏んで黒い心臓を狙って突きを繰り出す。 氷を割ってベネディクトの黒い心臓に刺さる感触に顔が歪む。 黒い心臓は、一度だけ跳ねて黒い煙になって消えた。
ベネディクトも黒い煙になって消えた時、奴が嗤うのが聞こえたような気がした。
『花咲華が落下します』
頭の中で響くスキルの声と、頭の上からフィルの慌てた声で我に返る。
「ユウト! ハナが落ちるよ!」
『花咲華の意識が途切れた為、結界が解除されました』
華の方を見ると、黒い影が消えていく所だった。 華が下に落ちていく。
「華ーー!」
床に銀色の足跡が輝く、足跡を踏んで跳躍するとダイブした。 落ちながら華の手を取って抱き寄せる。 華は青い顔をしていたけど、気絶してるだけみたいだ。 華の身体が淡く光り出した。 もしかして、エルフの血が光ってるのか?
「華……」
落ちないようにギュッと抱きしめる。 下を見ると、底に黒いオーラが蠢いてるのが見える。 奴が嗤ってたのは、これを見越してたのか。 悪魔の翼が羽ばたいたけど、落ちるスピードが少し緩んだだけだった。
頭の上のフィルが、俺の背中の上で銀色の少年の姿に変わる。 フィルの体重が重くなって、ぐっと俺に伸し掛かってきた。 フィル重い……。
「ユウト! ハナをしっかり捕まえててね」
フィルの言葉に頷くと、フィルは思いっきり息を吸い込んで叫んだ。
「主さまーー!! 助けてーー!!」
えっ……主さまって世界樹ダンジョンの? 下から眩しい光が膨らんでくる。 この光景、どっかで見た事ある。 光に突っ込んだ瞬間、悪魔をガッチリ掴んでたエルフの血が、悪魔を離した。 悪魔は光に当てられて、跡形もなく消えていった。 悪魔の叫び声が聞こえたような気がした。 俺とフィルの悪魔の翼も、光の粒になって消えいく。 俺たちを包んでいた光が、更に眩しくなって弾けた。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
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