八
薄暗い森を、ひたすらに銀色の足跡を踏んで、跳躍しながら駆け抜けていく。 瘴気が濃くなる事に、俺の周囲に漂っている、桜の香りも強くなっていく。 頭の上からフィルの声がする。
「ハナ、ユウトの姿見たら、目がハートになるんじゃない? ハナの好みそうだよね。 悪魔の翼」
「……」
悪魔を取り込んだのはいいけど、見た目が少し変わってしまった。 背中に蝙蝠みたいな黒い翼が生えた。
フィルも少し、見た目が変わった。 銀色の羽根が、俺と同じ様な翼に変わっている。 フィルは俺の従魔で、同化してるから影響が出てるんだろうな。 悪魔の翼は飛べないらしい。
「これ、取れるよな? ずっとついてるの嫌なんだけど。 しかも、飛べないって全く使えない」
俺の言葉にフィルは容赦なく言った。
「う~ん、でも悪魔って実態が無いし。 この姿は、ユウトの悪魔のイメージじゃないの? 今まであった魔族たちは、翼なんて生えてなかったし。 普通に人に紛れてたら、魔族って分からない姿だよね。 悪魔が抜けたら、翼も消えるよ。 でも、間違いないく、ハナは喜ぶよ!!」
「……」
悪魔を抜く方法が分からないな。 悪魔は今でも俺の心臓で、エルフの血がガッチリ掴んでる。
『花咲華の最新の情報を送ります』
華は、黒い岩で出来た塔の一番上に居るらしい。 部屋の半分しか屋根がない。 壁も崩れている。 床も所々穴が開いている。 バルコニーだと思われる所は柵がなくなっていた。 華は、屋根のある場所で座り込んでいた。 画面の視点が変わって、高い場所から見下ろしている画に変わった。 先が尖った黒い岩が何本も拡がっている場所だ。 華が居るのは、真ん中にある一番でかくて高い塔だ。 禍々しい黒いオーラが放たれている。 華の画像に切り替わる。
結界はちゃんと発動されていた。 華は青ざめているけど、怪我もないみたいだ。 俺の、スキル越しの視線を感じた華と、目が合う。 目が来ては駄目だって言ってる気がした。 華が横目で何かを見た。
少し離れた所で、ベネディクトが他の魔王候補らしい魔族と戦っている。 防戦一方だった魔族は、ベネディクトの剣で、黒い心臓を突き刺されると、黒い煙になって消えた。 ベネディクトは、勇者の剣を持っていた。 勇者の剣が禍々しいオーラを放っていて、とても勇者の剣には見えなかった。
ベネディクトが華の方に近づくと、華に話しかけた。 頭の中で、ベネディクトの声が響く。
『次はお前の男だな。 あいつ来るかな? ここには、魔族じゃないと来れないからな。 あいつが来るまで、何しよっか? 取り敢えず、あんたの浄化の力を調べてみようか。 あんたの血、貰うよ』
ベネディクトが伸ばした手は、結界に弾かれて火花が散って少し焦げた。 忌々しく手を見てニヤリと笑った。 ベネディクトの身体から、黒い影が出てきた。 影が難なく結界に入る。 華が後ろに下がって影から離れる。 頭の上からフィルの声がする。 画像に見入っていて足が止まってたようだ。
「ユウト! 早く行かなきゃ! 華が危ない!」
華に黒い影が迫っている。 華は、腕輪の魔道具を発動させている。 華! 駄目だ! 黒い影には効かない! 転送魔法のゲートが開いたら……すぐ行けるのに。 再び走り出す。 頭の中で、スキルの声が響く。
『花咲華の救難信号を受信、位置を確認、ゲートが開きます。 次の跳躍の着地点に、転送魔法陣を展開します。 転送先は、結界の中です』
華の画像が送られてくる。 黒い影に捕まって、恐怖が頂点に達したのか。 抵抗できないようで、体の自由が効かないみたいだ。
早く! 銀色の足跡が輝く、足跡を踏んで跳躍する。 着地点に転送魔法陣が見えた。 魔法陣をくぐる。 瞬きの間に、華たちが居た場所に転送された。 床に着地する時に、黒い影を蹴飛ばして華から引き離した。 俺の蹴りで吹き飛ばされた黒い影は、消し飛んでいった。 ベネディクトが動く気配がして、そっちを見る。
華は、体が自由になってホッとした顔をした。 俺の姿を、目をキラキラさせて見ている。 華……今はそんな場合じゃないから。 華は俺の声が聞こえたのか、顔をキリっとさせてこくこくと頷いた。
「来たな。 じゃ、始めようか。 俺とお前で、魔王争奪戦の最終戦だ」
ベネディクトから黒い影が出てきた。 黒い影には結界が効かない。 華から離れてあいつと戦えない!
頭の上からフィルの声がする。
「ねぇ、もしかしたらユウトも出来るんじゃない? 影、出してみて」
えっ! 出してみてって言われてもどうやるんだ? 影って言われて自分の影を見てみる。 俺の影が、一人でに動いて飛び出してくるのを想像してみる。 俺の影がゆがんで揺れた。 影から俺の形をした銀色の影が出てきた。 木刀の影を持っている。 頭の上からフィルの感心したような声がした。
「凄い、本当に出来た」
「何だよ。 当てずっぽう言ったのか?」
銀色の自分の影に指示を出して、結界を飛び出す。
「華を守ってくれ! 俺はあいつを倒す!」
銀色の影は、俺の指示に頷いて、華を後ろに庇って木刀の影を構えた。
フィルから魔力が流されてくる。 木刀に魔力を流して強化する。 魔法石が光って、花びらが舞う。
木刀を構えて、ベネディクトと対峙する。
ベネディクトは、勇者の剣を構えて剣に魔力を送っているようだ。 黒いオーラが蛇のようにうねって剣を纏う。 勇者の剣が禍々しい物に変わっていく。 頭の中で、ゴングが鳴って同時に動いた。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
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