四
男の剣の、黒いオーラの激しさが増した。 蛇のようにうねって剣に巻き付いている。 後ろでキラリと華の目が光った。 華……。 何となく華が考えてる事が分かった。
男の黒い剣と打ち合う。 鋭く高い澄んだ音が、鳴り響く。 男が萩払った剣を、体を逸らして避ける。
バク転して距離を取る。 そこに男の突きが来る。 突きが当たる前に、屈んだ状態から、片手を付いて男の顎を蹴り上げる。 男に、後ろに飛んで避けられた。 男の周囲に複数の黒い魔弾が出来上がる。
『魔弾が来ます。 カウント 直撃まで五・四・三・二』
黒い魔弾が来る前に潰す! 氷の剣を振り上げると氷の刃が出現する。 氷の刃が男と黒い魔弾に降り注ぐ。
頭の上からフィルの声がする。
「ユウト、魔族は黒い心臓を持ってる。 心臓を狙って! 僕の魔力も使って」
フィルが同化する感覚と、フィルから魔力が流れてきた。 フィルの魔力と俺の魔力が混ざって、全身を巡る。 氷の剣が前よりも強化されて、研ぎ澄まされていく。
頭の端で、華の様子が映し出されている。 何処から沸くのか、男の下僕がわらわらと華に近づいていく。
結界が少し近づいた下僕を、吹き飛ばして消していく。 容赦ないな……。 うん、大丈夫だな。
男と対峙して、氷の剣を構える。 俺を中心にして、魔力の波紋が拡がる。 気温が下がって、吐く息が白い。
『全てを凍りつくせ』
氷の剣を振り上げると、荒野が音を立てて凍っていく。 華の周りに居た下僕たちが凍って絶命していく。
男が飛び上がって凍るのを避ける。 男を追って、複数の氷が伸びていく。 伸びた氷に黒い魔弾が当たって、弾けて崩れていく。 伸びてくる氷に気を取られている男に氷の刃を落とす。 伸びる氷が男の心臓を狙う。 防戦一方だった男が、今までで、一番でかい黒い魔弾を作り上げた。
『魔弾が大き過ぎます。 避けきれません。 結界に入ってください』
避けきれない! 頭の端で、華が駆け出してくるのが視えた。 背中に勢いよく、温かい物が飛びついて来た。 桜の香りが漂ってきた。
『花咲華より結界が強化されます』
結界の羽根がパタパタと揺れる。 魔法陣が光を放ち、キラキラと全体を包んで強化されていく。
魔弾が結界に触れると、火花が散って黒い煙が立ち込める。 結界の上に、重い物が落ちてくる音がして
揺れた。 黒い煙が晴れると、男が結界の上で剣で破ろうとしている。 反発する結界に火花と煙が立ち込める。
『結界が強化されます。 大丈夫です。 破れません。 跳ね返します』
まじで強くなってる。 結界の魔法陣が光って、結界から衝撃波の様な物が放たれた。 男が跳ね飛ばされる。 氷の剣に魔力を込めて、氷の刃を男の背中に落とす。 結界の上に乗って飛び上がる。 男の心臓を狙って氷の剣を突き刺す。 男の身体が揺れて歪むと消えた。 後ろから男の気配がする。 振り返って、男の胸を蹴って落とす。
っくそ! どうやったら、奴に攻撃を当てれるんだ! 頭の上からフィルの声がする。
「ユウト、黒い心臓を正確に当てないと駄目だよ!」
再び、フィルの魔力が流れてくる。 男が黒い剣を構えて、俺に向かって飛んでくる。 銀色の足跡が空中に輝く、男の後ろに銀色の影が輝く。 銀色の足跡を踏んで、影の通りに動く。 男の背後を取れた。
男は、目を見開いて驚いている。 黒い心臓が大きく跳ねたのが視えた。 氷の剣で黒い心臓を突き刺した。 魔力を流すと男は一瞬で凍った。 氷の剣の先には突き刺した、黒い心臓が残っていた。
突き刺さった心臓は煙のように消えた。 男の背中に乗ったまま地面に落ちた。 男は黒い煙になった後、跡形もなく消えてしまった。 華が駆け寄ってくる。 何とか倒した……疲れた……。
『スキルが感知できる範囲には、危険はありません。 安全です』
「優斗くん、大丈夫?」
「うん、華こそ大丈夫か?」
大丈夫と笑顔が返って来た。 辺り一面の荒野を眺める。
「倒せたのは良かったけど、ここ何処だろ? どうやって帰ればいいだ?」
フィルは、俺の頭の上から降りると銀色の少年の姿に変わる。
「大丈夫だよ。 さっきフィンと連絡取ったから。 ここで待ってれば来るよ」
「あ、気づかなかったけど、フィンがいない! いつも私の肩の上に乗ってるのに……」
華の言葉に俺も初めて気づいた。 荒野に飛ばされてから見てない。
「市場で魔族が現れた時に、ルイたちのとこに残して来た。 何があるか分からないから」
流石の連携プレイだな。 暫くして、瑠衣たちが雷神に乗って迎えに来てくれた。
隠れ家に戻ったら、華から武器の整備をしたいと、目をキラキラさせて手を差し伸べられた。 華の様子に、一抹の不安に襲われる。 男の黒い剣を見た時の、華の様子を思い出す。
「華、駄目だからね。 絶対に嫌だから」
黒い笑顔で、絶対に嫌だからの部分を強調する。 華は、肩を跳ねさせて顔を青ざめた後、こくんと頷いた。 整備する為に部屋に戻る華の背中が寂しそうだ……
『お前、エルフの血を飲んだのか?』
突然、あの男に言われた事を思い出した。 エルフの血を飲んだ覚えはないんだけど……。
でも何で、闇に落ちなかったんだ?
『エルフの血なら飲んでます。 アンバーさんに飲まされた薬にアンバーさんの血が入ってました』
えっ……うそ……。 何も言わなかったじゃないか! アンバーさんの血が入ってるなんて!
『薬も毒ではなく、安全な物でした。 血液も採れたて新鮮でしたので』
頭の中のスキルの声に目の前が真っ暗になった。 セレンティナアンナさんと、アンバーさんの目的は分からないけど、アンバーさんの血で助かった事は事実だ……。 でも、何か嫌だ……。
でも、一度は闇に落ちかけたんだ。 あの時は何でアンバーさんの血は効かなかったんだ?
『推測ですが、闇に落ちかけた時、花咲華の光を浴びてセレンティナアンナさんの気配を感じたのでは? それで、眠ってたアンバーさんの血が目覚めたとか? 全くの憶測ですが』
もしそれが本当ならアンバーさんの執着が怖い……。
そして何よりも、スキルの変化にびっくりだ。 俺、普通にスキルと会話してる。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
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