四
小鳥遊くんの様子がおかしい。
大木に触れてから、青ざめた後、頭を抱えてかがみ込んでいる。 そんなに残念なスキルだったのかな?
──少し前
遊園地の絶叫マシーンで、この世界に飛ばされた私たち。 最初に目にしたのが、小鳥遊くんの顔だった。 何故か、柔らかい黒髪は銅色の髪に、黒目は薄茶色の目に変わっていた。
小鳥遊くんに、見つめられると囚われそうになる。 ああ、なんて、綺麗な瞳なんだろう。
鼓動が早くなる。 前から思っていた事がある。 たまに小鳥遊くんの視線を感じていた。
目が合うと、とても柔らくて優しい笑顔を向けてくるのだ。 まさか私の事を……。 等とイタイ勘違いをしないように、小鳥遊くんの事はなるべく避けてきた。 ファンクラブも怖いしね!
いつもの妄想が脳裏をよぎる。 きっと、あの衣装が似合う。 ああ、妄想が止まらなくなりそう。
何を隠そう私には、ちょっと変わった趣味がある。 美男美女をネタに、ファンタジーな衣装を妄想するのだ。 そして、家には自作のフィギュアがあり、自作の衣装を着せて飾っている。
小鳥遊くんのフィギュアもあるけど、もちろん誰にも言えないし、絶対に内緒だ。 知られたら絶対に引かれるよね。 変態と思われたら、恥ずかしくて死ねる。 切に願う。 母よ、私の押し入れは開けないでーー!
大木に触れた後、この世界の情報が頭の中に入ってきた。 見知った人の顔を見つけた。 正直、会いたくない。
沢山の魔法陣が、頭の中に入ってきた。 付箋で仕分けされファイリングされていく。
一冊のファイルが、取り出されペラペラと、ページが捲られる。
開いたページには、私のパーソナルデータが載っていた。 それによると、私は錬金術が使えるらしい。
薬草から衣服、武器、防具、家や家具まで制作出来るのだ。 頭の中で響いた老人の声は、彼の力になりなさいと言っていた。 この能力を授けてくれた神様に、感謝したい。
またファイルが、取り出されページが開いた。
そこは[小鳥遊優斗の進化武器]と題名されたページだった。 小鳥遊くんの武器か。ん?なんでファイルに入ってるんだろう? 老人の声を思い出し、納得する。 見開きで載っていて、左には魔法陣が載っている。 右側には、桜柄の木刀が載っていた。 魔法剣なんだね、木刀だけど。
材料は、世界樹の枝って、そんなの何処に……。 あ、もしかして、この大木が?
大木の葉がなり、枝が落ちてきた。 その枝を拾って考える。 使っていいってことよね。
しかし、桜柄か。 この木刀を持つ姿を、想像してみる。 めっちゃかっこいいのでは! ムクムクと創作意欲が湧く。 試しに作ってみよう。
[小鳥遊優斗の進化武器]の魔法陣を取り出す。 世界樹の枝を魔法陣で挟み、魔力を練り込むと、世界樹の枝が、徐々に木刀の形を成していく。
魔力を木刀の柄から切先に注ぎ込むと、桜の模様が、中心部分まで刻まれていく。桜色の色付けも同時にされた。 魔法陣が、光を放って桜柄の木刀が出来上がった。 出来たーー! 我ながら上手くいったと思う。
小鳥遊くんはっと。まだ、落ち込んでるね。 本当に、何があったんだろうか。




