十九
帝国の王が魔王だって、何で分かったんだ? それに断られたからって戦争って……幼稚園児か!!
帝国の情報がなさ過ぎて、信じられない。 王様の方が魔王っぽくないか?
「なぁ、フィル。 もし、帝国の王が魔王じゃなかったらどうなる?」
フィルが俺の頭の上で考えている。 フィルの羽根がパタパタして、頭に風が起きる。
「どっちにしても、帝国は潰れるね。 医療書も本当にあるかどうか分からないし……三大陸って三竦みの状態なんだよね。 それぞれの大陸の中で、一番大きくて強い国が支配していて、牽制し合ってるんだ。 だから、カンポツァ帝国が潰れたら三竦みが壊れるね。 潰れた大陸の領土の取り合いが始まるかも……」
王様は三大陸を支配したいのか? 頭の中で、世界樹で視た映像が流れる。 勇者召喚で召喚された勇者が、街を吹き飛ばしていく。 魔王を倒すのに街を吹き飛ばす必要なんてない。 しかも、三大陸の戦争なんて巻き込まれたくない。
後ろから鞭がしなる音がする。 次いで鞭が床を打ち付ける音がして、振り返ると瑠衣の弓が鞭に変わっている。 黒い笑みを浮かべて鞭を呻らせている。 こわっ!! 皆が瑠衣から離れて後ずさる。
「優斗、こいつらどうする? 取り敢えず、縛っとくか。 こいつら外に出してやって」
木刀を強化して、氷を割ると一瞬で溶けた。 同級生たちは、凍えて声も出なくて震えている。
瑠衣の鞭が光って、同級生たちを縛っていく。 瑠衣の新しく付与した能力か。 ニヤリと笑うと瑠衣は怖い。 鞭か……似合ってるな。 瑠衣の事だから縛る以外でも他に何かあるんだろうな……考えたくないけど。 同級生たちを放置して、先に進む。
『前方に三つの魔族を感知、危険度は弱です。 元王国の兵士です』
城の一階のエントランスに入る。 頭の中で、城の見取り図が拡がる。 魔族の位置が点で表される。
魔力を循環させて木刀に魔力を流す。 木刀が強化されて、魔法石が光る。 花びらが舞う。
銀色の足跡を踏んで、踏み込む。 兵士の剣をかわして兵士の腹を抜き胴で薙ぎ払っていく。
次々と元兵士の魔族が襲い掛かってくる。 鈴木が前に出る。 複数の兵士を空中に放り上げると、兵士に電撃を落とした。 兵士たちは感電したように痺れてのびていく。 四階まで続く螺旋階段を駆け上がる。
四階に駆け上がった先は、真っ暗闇だった。 何も聞こえなくて静かだった。
『複数の魔族を感知、花咲華の結界が強化されました。 位置情報送ります』
華は俺の前方に居た。 結界の周りに複数の魔族の点が表される。 捕まったのか? でも、結界は発動されてるから、大丈夫だと思うけど。 瑠衣たちの位置は分からない。 聞き覚えのある声がした。
「随分、無粋なのね。 行き成り、押し入ってくるなんて。 王子」
結城か……点は魔族だけだったけど、また、面倒なのに捕まったな。 頭の上からフィルが教えてくれる。
「彼女、魔族に操られてるけど、まだ、魔族にはなってないよ。 時間の問題だけど」
辺りは薄暗く、視界が悪い。 部屋全体が黒いオーラに包まれてるみたいだ。 桜の香りが周囲を漂う。
『前方から攻撃来ます。 魔族に囲まれてます』
目を瞑って【検索】スキルに集中する。 暗闇の中に、俺の周囲にぼやけた光の玉が見えた。 奥には華の点が強く光っている。 木刀に魔力を流して、氷の剣を形成する。 周囲の気温が下がる。 その場で円を描くように木刀薙ぎ払う。 木刀から氷の飛礫が周囲の兵士に放たれ、吹き飛ばされていく。
残りは、華の周りに居る元国王兵士の魔族と結城だけだ。 結城は驚きもしなかった。
「相変わらず凄いのね。 でも、春樹には負けるだろうけど」
春樹? 洞窟ダンジョンに居た奴か。 時間を稼いで、その間にどうするか考えよう。
「帝国の王が魔王って聞いたけど、本当にそうなのか?」
暗くて結城がどんな顔をしてるのか分からない。 ただ、雰囲気から笑っているような気がする。
「さぁ、私は知らないわ。 王様の言う通りにしているだけだし、今も追い出せって、言われたからそうしてるだけし。 王子もベネディクト様の邪魔をするなら、死んでもらうしかないけど」
ベネディクト? 誰だそれ。 フィルが思い出しながら教えてくれた。
「王様の名前じゃない。 帝国の王も違う。 王侯貴族の名前にもないよ」
こいつらはベネディクトって奴の為に動いてるのか。 そいつが魔王かも知れない。
「ふん。 やっぱり私の魔術は、王子には全然、効かないのね。 さっきから魅了の魔法を掛けてるのに……」
「……」
王様でも、帝国の王でもないなら、やっぱり三大陸の支配が目的か……裏で別の奴が操ってるんだ。
「色仕掛けも効かないわよね。 一途だものね王子は」
何言ってんだこの女!! そんなもん効くわけないだろ!! 華から不穏な雰囲気が漂ってる。
「まぁ、もう、王子には興味ないけど。 一回位試してみる?」
は? 試すわけないだろ。 呆れて物が言えん。 でも、死んでもうって言う割には何もして来ない。
他に何か目的があるのか? 結城の表情が見えないから良く分からない。
頭の中で、華の画像が送られて来る。 華の腕の魔道具が光って、機械音の様な音がして、魔法陣が展開される。 何の魔法が来るんだ?
『花咲華が魔法を展開、結城真由の上に岩が落ちてきます。 カウント 直撃まで』
頭の中で、華の周りに居る魔族の位置を確認する。 華の周りに銀色の足跡が輝く。
『直撃まで、五・四・三・二・一・零』
岩が天井を抜けて、結城の頭の上に瓦礫や砂埃と共に落ちてきた。 俺は零のカウントと同時に結城の方に気を取られている兵士達を、銀色の足跡を踏んで、踏み込んで氷の剣で氷に閉じ込めていく。
結城が気絶したのか、部屋が明るくなって視界が晴れていく。 結城は予想通り、瓦礫の下で気絶している。 華のちょっと拗ねた感じの顔が画像で送られてくる。
「えっと、ありがとう」
「……小鳥遊くん。 女の子、殴れないでしょ」
じぃとこっちを怪訝な顔で見てくる。 何か怒ってる?
「……ちょっと、試してみようとか思ったんじゃないよね?」
「思ってない! 思ってない!」
そんな事、思うわけないだろ。 顔を左右に振って否定する。 華からは暗くて声しか聞こえてこないから、様子が分からなかったのか。 もしかして、ヤキモチ妬いてくれたのか。
瑠衣たちとは逸れてしまった。 急いで部屋を出て上に続く階段を探して城の廊下を走った。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
今回、第二章 十八がこちらのミスで深夜の時間に投稿してしまいました。
いつもの時間帯に見に来て、からぶった方には申し訳ありません。
月曜日からは、いつも通り12時から14時の間に投稿いたします。
良ければ読んでやってくださいませ。




