十八
俺たちは、城の中を探る前に、もう少しフィルたちに色々訊く事にした。 俺たちは、王国に存在を知られないように、隠れて暮らして来たから、異世界の人たちと交流をして来なかった。 王国の事も知らないし、どんな国があるのかも知らない。 王国の名前も、王の名前も、王女様の名前も知らないんだ。
「世界には、三つの大陸があって、君たちが転移した王国は、大陸の一つにあるんだ。 一番大きな国が一つ、カンポツァ帝国だよ。 帝国の周辺に七つの小国があって、その一つがカラブリア王国、君たちが居る国だ」
「カンポツァ帝国はカラブリア王国より発展していて、医療も進んでるの。 それに軍事力も高いわ。 勇者の力で帝国を吹き飛ばせるわけ……出来るわね。 魔王を倒す為の力だし、帝国の一つくらい……」
フィンの声が小さくなっていく。 顎に手を当てて無言になって考え込んでいる。
「やっぱり、王女様の病気かな……そこを悪魔に付け入られたのかも。 最初は、小さな不安でいいんだ。 小さな不安が、段々大きくなって拡がっていくんだよ。 そして、心の闇に落ちていく。 悪魔は、人間が壊れていくのを見るのが好きなんだよね。 最終的に魔族になって、周りを巻き込んでいく。 王様が、魔王になってる可能性は高いね。 ただ、何で帝国を、潰そうとしてるのかは分からないね」
スキルは、人間は一人しかいないって言ってた。 やっぱり、結城たちは悪魔に魅入られて、魔族になったのか? まぁ、さっきの同級生の事もスキルは、はっきりと魔族って言ってたもんな。
「悪魔が抜けた後は、抜け殻になるけどね」
フィルが嫌な事を言った。 悪魔が抜けたら元に戻るかと思ったんだけど。 実年齢は分からないけど、見た目は十歳の子供を責めたのは目覚めが悪い。 皆で謝った。
「悪かったな。 責めるような事して」
フィルのサラサラの銀色の髪をした頭を撫でまわした。 サラサラの感触が気持ちいい。
「ちょっと、止めてよーー! 子供扱いするな!」
サラサラの髪がクシャクシャになった。 ぷんぷんしているフィルを放置して話を進める。
「王様が魔王になってるか確かめよう。 どうやって偵察する?」
瑠衣の言葉に皆が頷く。 一番入りやすいとこは、門番の二人だろう。 戦う能力ないって言ってたしな。 多分、弱いから簡単に口を割るだろう。
『二人分の魔族を感知、危険度は低です』
やっぱり、自分で申告してた通り弱いみたいだ。 忍び足で門番の詰め所に近づく。 ドアの前で様子を伺う。 さっきの二人は相変わらず、くだらない話をべらべら喋ってる。
桜の香りが俺たちの周囲を漂い始めた。 黒いオーラがドアの隙間から染みだしている。
「黒いオーラは人を惑わすんだ。 桜の香りで抑えられてるけど、あまり吸わないでね」
「分かった」
入って直ぐの部屋から声が聞こえてきた。
「結城が言ってたけど、小鳥遊と会ったって聞いたけどまじで?」
「まじで? 俺、小鳥遊の話は聞いたことはないな」
「あいつ、イケメンだけど、花咲、花咲ってストーカーっぽくてキモイ」
二人の笑い声が響く。 「ストーカー」のワードに眉間に皺が寄る。 うん、殺ってしまおう。 同級生だから、気絶だけにしとこうと思ったけど。
周囲の気温が下がって空気が凍てつく。 詰め所にいる同級生が、一気に気温が下がって騒ぐ声が聞こえる。 ドアを開けると、俺が笑顔を浮かべて立っているのを見て、驚いている。
「えっ小鳥遊? 本当に? でも、髪の色と目の色が違う」
木刀が二本に分かれる。 木刀に魔力が流れて凍って氷の剣に変わる。 何の躊躇いもなく、同時に二人の胸に剣を刺した。 刺した場所から凍っていく。 氷の中に閉じ込められた二人は、目を見開いて驚愕の表情だ。 相変わらず、人を刺す感触には慣れない。 刺さずに、氷に閉じ込める方法を考えよう。
口をパクパクさせて何か言っているけど、籠ってるから何を言ってるのか分からない。
『「何で、お前がここに? どうしてこんな事するんだ?」って言ってます』
頭の中で、スキルが教えてくれる。 読唇術も使えるのか、便利だな。 しかも、セリフの声は同級生のものだ。 頭の上でフィルが声を掛ける。 次いでフィルと同化する感覚がした。
「ねぇ、情報を得るんでしょ? この人たちに訊こうよ」
「そうだな。 大した事、知ってなさそうだけどな」
俺の黒い微笑みに何かを感じたのか、慌てだす同級生たち。 そいえば、こいつらの名前、知らないな。
後ろの瑠衣に訊いてみる。 瑠衣も黒い笑みを作ってる。 瑠衣は常に黒い笑みだけど……
「瑠衣、こいつらの名前知ってる?」
「いや、知らないな」
華と鈴木も知らないらしい。 知らなくていいけど。
「王様は本当に戦争を仕掛けてるのか? 何の為に?」
『「お前らには関係ない。 何でそんな事訊くんだ」って言ってます』
ふ~ん、言わない気なんだ?って、笑顔で訴える。 周囲の気温をもっと下げる。 氷の中に居る同級生たちは、大分寒いはず。 スキルから聞こえた声を、フィルが音読しているから、瑠衣たちにはフィルが読唇術を使ってるように聞こえるだろう。
『花咲華により結界が発動されました。 結界内の温度が十七度に保たれます』
俺たちの周りを結界が包む。 後ろからホッとした吐息が聞こえた。 悪い華、ありがとう。 頭の中で、華の画像に向かって謝ると、華の笑顔が返ってきた。
「もう一度、訊くけど。 王様は本当に戦争をするのか? 戦争は王女様の為か?」
『「戦争じゃなくて魔王討伐だ! 魔王を倒せば元の世界に戻れるし、王女様の病気を治す医療書も手に入るんだよ! 詳しくは知らないけど、医療書に治療方法が載ってて、王女様を助けて欲しいって帝国に頼んだけど、断られたって! 勇者召喚の時に言われたんだよ!」って言ってます』
「何で、帝国の王が魔王だって分かったんだ?」
『「知らないよ! 小鳥遊も手伝えば元の世界に戻れるじゃん! お前も協力しろよ。 明日の朝に魔王討伐に出発するんだ。 だから、ここから出してくれ。」って言ってます』
「ストーカーっぽくてキモイ奴とは一緒に居られないだろ?」
にっこり微笑んで同級生たちを見据える。 同級生たちは恐怖で顔を歪めた。
瑠衣たちは、まだ根に持ってるのかと無言で訴えてくる。 それより、明日の朝には魔王討伐に出発するのか。 本当に帝国の王が魔王なのか? 勇者召喚の時にもう、話が出てるって事は、勇者召喚事態が、魔族か魔王が仕掛けた事なるけど。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
拙い文章ですが、気に入って頂ければ幸いです。
毎日、12時から14時の間に投稿しています。 良ければ読んでやってくださいませ。




