三
ハーフ顔に銅色の髪、薄茶色の目ときたら、もう日本人じゃないな。
「はぁ〜〜」
花咲は手鏡で自分の顔を見て、信じられないという表情で、はわはわしながら凝視している。
頭に花が咲いてるぞ、花咲
カサカサ
ん? 今、何か居たか? 草陰から視線を感じた。 じぃと草陰を凝視する。 何も居ない? 気のせいか……。
脳裏にでかい木のイメージが入ってきた。 風が吹いて草木が鳴る。 呼ばれた気がして振り返る。
そこには、でかい大木があった。 この根元に落ちたのか、俺の鞄が転がってる。
この木……どっかで見たことがある。 テレビのコマーシャルか? いや、もっと最近のような。 暫く考えて思い当たる、今朝の夢だ! この大木、夢に出てきたあのでかい木か。
ここに落ちてきた時の花咲とのやり取りも、今朝、夢で見たやつだ。 正夢だったのか、すっかり忘れてたな。 隣の花咲を見て、夢で見た泣き顔を思い出す。 泣いてないな。 あれの意味は?
「小鳥遊くん? 」
首を傾げて、訝しげに見ている。
「あ、いや、何でもない。」
大木に近づいて、吸い込まれるように身体が動く。 花咲も同じように動いて、同時に大木に触れる。 じんわり暖かいと感じた瞬間、突風が吹き上がってきた。
「何だ! 」
足元から吹いてるみたいだ。いつの間にか、魔法陣が現れていた。 花咲を見るとスカートの裾を抑えて、俺と同じ状況になっていた。
頭の中に写真を切り取ったような画像が、沢山の情報と共に入ってくる。 隣の花咲を気にしてる余裕はなかった。 知らない国同士の争い、尋常ではない魔法が放たれて、街が消し飛んだ。 魔法を放ったのは、黒髪に黒目の人間だ。 俺には、日本人に見えた。
この映像は何だ? 今、起こってる事なのか? 未来に起こる事なのか?
召喚場面が浮かぶ、数人の日本人の若者たち、皆、黒髪黒目だった。 中に見知った顔があったような気がする。 あれは……。確信する前に映像が消えた。 次いで、老人の声が聞こえた。
『この者達よりも、先に力を手に入れよ』
「えっ」
『力を手に入れるまで、このダンジョンからは出られない。 手に入れられなければ、死あるのみだ』
頭の中に声が響く。
「今、なんて言った! もっと、ちゃんと説明しろよ! おい! 」
俺の問いには答えはなく、言いたい事だけ言って、老人の声は聞こえなくなった。 理解が追いつかない。
上から派手な木刀を持った男が、降りてきた。 その男は俺と同じ顔をしていた。
えっ! 俺? ちょっと引く。 桜柄の木刀を渡されて、反射的に受け取った。
もう一人の俺が俺の中に入ってきた瞬間、桜の香りと花弁が舞った。 もう一人の俺と融合した感覚と体の中心部分に、火が灯ったのが分かった。
今の何だったんだ? もう、風は止んでいた。 頭の中で突如、声がした。 俺の声に似ている気がする。
『[花咲華を守る]スキルを始動します』
ん? 何だそのスキル。
『[花咲華を守る]スキルの概要 こちらのスキルはパシッブスキルです。 常に自動で発動されます。 スキルの内容を説明します。
[位置情報:確認、検索、透視、傍聴、追跡]
[危険察知:警報、虫除け(結界)、転送]
このスキルは花咲華にのみ有効です。 自動で発動されますが、ON/OFFの切り替えも出来ます。
尚、虫除け(結界)は、花咲華が拒絶した場合のみ発動されます。』
分かりやすく、イラスト付きで説明してくれる。 全て、俺の脳内で行われている事だ。
[花咲華を守る]スキルが花咲の位置を知らせてくる。
『周囲に敵は見当たりません』
さっきの声が、今の状況を知らせてくる。 次いで動画が送られてきた。 花咲は目を見開いて大木に触れている。 この間、俺は花咲の方を向いていない。 これは完璧な監視シムテムだな。 傍聴って、盗聴の間違いじゃないのか。 これじゃまるで、ストーカーじゃないか! 俺は頭を抱えて、かがみ込むしかなかった。