十五
木刀と剣が打ち合う音が洞窟内に響く。 打ち合いながら、相手の男の事を記憶の底から引っ張り出す。 中学の県大会の時か、確かに居たな。 ツンツン頭で目が細い男。 名前は……すまん、忘れた。
飛び込み面が来て、受ける止める。 男の剣から黒いオーラが出てきて、俺の手に纏わりつてくる。 言いようもない不安に駆られて、全身で悪寒を感じる。 男の剣を押して、後ろに飛んで距離を取る。 何だ今の? 桜の香りが俺の周囲で漂う。 落ち着け。 男の顔は正気を失っている様に見える。 頭の上からフィルが焦った様に言う。
「ユウト! 黒いオーラには触らない方がいい。 闇に引っ張られるよ!」
あまり、打ち合わない方がいいな。 頭の中で声が響く。 どうやら、ボス戦が始まったようだ。
『出たぞ。 ボスだ! 行くぞ! 仁奈!』
瑠衣の声、華は?
『花咲華の位置を確認、魔物と戦闘を開始しました。 結界が強化されました』
華の画像が送られて来る。 少し離れた所で腕輪の魔道具を発動させている。 もう一人の勇者の姿はない。 男の剣をかわして、身構える。 深呼吸して全身に魔力を循環させる。 木刀に魔力を流すと音をたてて、木刀が凍って氷の剣に変わる。 男の足元に銀色の足跡が輝く。 足跡を踏んで素早く相手の間合いに入る。 心臓を狙って突き刺した。 男は衝撃で吹き飛んでいって、洞窟の壁に背中を打ち付けて地面に倒れてしまった。 氷の剣が人に突き刺さる嫌な感触がして、不快感が拡がって顔が歪む。 刺さった場所から男は凍っていく。 男の目は憎々し気に俺を睨んでいた。 手が僅かに動いているから、上手く氷に閉じ込める事に成功したみたいだ。 周りの兵士に、攻撃してくる前に氷の刃を落とす。 兵士達が頭や胸に氷の刃が当たって、叫び声を上げて気絶していく。 俺の周りには凍った兵士の山が累々と出来た。
「ユウト! 急ごう!」
フィルの声で走り出す。 頭の中でマップが拡がって、華の位置とボスの位置が点で表示される。 最新の画像が送られて来る。 ボスの防御魔法に阻まれて苦戦している様だ。
「転送魔法が使えれば早いんだけど」
「無理じゃない? ハナが死にそうとかだったらゲートが開くだろうけど。 そこまで窮地じゃないでしょ」
そうか、前の時は死の恐怖があったから転送魔法が出来たのか。 じゃ、迷路の時はどっちみち出来なかったんだな。 定期的に現れる銀色の足跡を踏んで、跳躍しながら洞窟の奥のボス部屋へと急いだ。
――ボス部屋【篠原瑠衣 視点】
ボス部屋は一番奥の左に折れた先にあった、ゴーレムの後ろには祭壇の様な物があって、祭壇の上に薬瓶が見えた。 ボスはでかいゴーレムだった。 優斗が来るまで持ち堪えたいけど、何時までも優斗のスキルに頼っても居られない。 あいつが戦えない時に、役立たずじゃどうしようもない。 ボスに焦点を合わす、左目の視界に映るのはボスの弱点だ。 心臓の位置に核となる魔法石が見える。 弓を引いて、視界に映る四角に標準を合わせる。 数本の矢を同時に放つ。 矢は正確に心臓を目掛けて飛んでいく。 矢は心臓に当たる前に、防御魔法に阻まれて消し飛んでしまった。 悔しさに舌打ちが出た。 後ろの華ちゃんを確認する。 もし、華ちゃんに何かあったら、あいつがどうなるか分からない。 暴走したら俺が止めないと。
仁奈の槍も効かない。 防御魔法を何とかしないと攻撃が当たらない。 視線を感じて顔を上げると、華ちゃんと目が合った。 何か、めっちゃいい事を、思いついたみたいな顔してるけど、正直、何もしないで欲しい。 優斗に殺されるか凍らされる。
「大丈夫! 結界が防御魔法に当たったら、破れるんじゃないかって思うんだけど」
何が大丈夫か分からないけど、悪いな優斗 華ちゃんがめっちゃやる気満々なんだ。 華ちゃんが何か祈るポーズをしている。 華ちゃんの周りが光る。 結界の魔法陣が、防御魔法が効いている範囲まで拡がっていく。 火花が散って稲光が光る。 小さいけど穴が開いて、皆から感嘆の声が上がる。 段々、穴が大きくなっていく。 ゴーレムが結界の中にすっぽり入ってしまった。 ゴーレムは防御魔法が発動出来ないようだった。
「あれ? 防御魔法を破るつもりだったのに! 中に入れるつもりなかったのに! どうして!」
華ちゃんの当てが外れたらしい。 青くなって慌てている。 華ちゃんはやっぱり面白いな。 どうするんだ? これ?
「瑠衣! 攻撃が当たるよ! 防御魔法が消えたから! 攻撃される前にやってしまおう」
仁奈の声に我に返る。
「華ちゃん! 出来るだけ離れて!」
「ハナには私の結界を掛けるわ! こっちの事は気にしないで、ゴーレムに集中しなさい!」
フィンって結界、掛けれるのか。 どんな結界かと思ったら、大きくなって華ちゃんを自分の身体の中に入れた。 華ちゃんは羽根の生えたでかいスライムの中にすっぽり入っている。 中々シュールだ。
仁奈と視線を合わせて頷き合う。 仁奈が槍を軸にして飛び上がる。 ゴーレムの心臓目掛けて槍を突き刺す、ゴーレムの胸から火花が散る。 装甲が硬くて刃が中々入らない。 ゴーレムに焦点を合わせる。 心臓のほかに弱点はないのか? 左の目の視界に、ゴーレムの弱点である核の魔法石が映る。
後ろから、走ってくる足音が聞こえる。 聞こえてくるのは一人分だけだ。 優斗が勇者を出し抜いて追いつて来たかと思ったけど、優斗じゃなかった。 振り返った先にいたのは、春樹とか呼ばれてた勇者だった。 勇者は急いで走って来たのか、息も絶え絶えだった。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、気に入って頂ければ幸いです。
毎日、12時から14時の間に投稿しています。 良ければ読んでやってくださいませ。




