十三
結城の屋敷から華を奪還した俺たちは、隠れ家を別の場所に移動して、リビングでお互いに何があったのか話をする事にした。 瑠衣はまだ、眠っている。 華の癒し薬が効いていて、怪我も大した事もなく完治している。
二人掛けのソファーに俺と華が座って、対面の同じ型のソファーに鈴木が座っている。 フィルたちは、一人用のソファーに、それぞれ隣同士で座っている。 真ん中のローテブルには紅茶とお菓子が並んでいる。
「王子が華を助けに行った後、魔物を倒して私たちも上に行こうと思ってたんだけど……。 下から新手の兵士が現れてね。 油断してたから、後ろからやられちゃって、何処に隠れていたのか、サッパリ分からないんだけど、そいつらは凍らなかったみたいね」
「それか、王国が転送魔法で送り込んで来たか。 彼女、ユウトを城に連れて行こうとしてたでしょ?」
フィルたちは、銀色の少年、少女の姿で優雅に紅茶を飲んでいる。 フィンは顎に手を当てながら考える。
「彼女が、魔族に操られてるのは間違いないわ。 もしかして、王様が魔王になってたりして……」
「それだったら、華ちゃんはエルフをあてがわれて、利用されるし、優斗は一生飼い殺し。 ついでに結城をあてがわれると。 俺と仁奈は、この世界樹で手に入れた武器を取り上げられるのか? その後はどうなるんだろうな」
瑠衣がいつの間にか起きて来て、嫌な未来予想図を立てた。 リビングに嫌な空気が漂う。 瑠衣はごく自然に鈴木が座ってるソファーに座って、フィンが淹れた紅茶を一口飲んでから口を開いた。
「俺は生き延びる為に考えた、前から考えてたんだけど。 他にも勇者の力を手に入れられるダンジョンがあるんだよな? 俺はそこに行って力を手に入れたい。 もちろん、王国にもいい様に利用されるつもりもない」
瑠衣以外の全員が口を開けて、瑠衣が言った事を理解するのに時間が掛かった。 最初に声を発したのは、フィルだった。
「あるにはあるよ。 でも、君たちが世界樹ダンジョンを攻略した時は、主様が魔物を弱く設定してたから、簡単に攻略出来たんだよ。 次のは本当に強いダンジョンだよ。 大丈夫?」
横でフィンがこくこく頷いて、口を開く。
「勇者御一行も、探してるだろうし、鉢合う可能性もあるけど?」
「鉢合わせしたら、全力で奪う。 主様も王国には、力を手に入れて欲しくないんだろ?」
瑠衣は、尚も食い下がる。
「つか、何で王様はそんなに戦争を仕掛けたいんだ?」
フィルが顔を斜めに上げて、考えている。
「確か、前に噂があったね。 王様には子供が一人だけいるんだ、王女様なんだけど。 病気だって聞いたことがあるね」
「ああ、あったね、そんな噂 確か治らないとか……」
フィンたちとの会話から予測する。 王様は王女さまの病気を治したいから、勇者の力が欲しいのか? でも、戦争を仕掛けたい理由にならない。 王女様の病気に魔族が絡んでるとかか?
勇者の力……
「勇者の力って、ヒーラーとかあるのか?」
俺の質問にフィンは顎に手を当てて考える。
「……ないわね。 大体が魔王を倒す為の力だから。 勇者召喚した人間の中にたまに治癒術が使える人間が現れるけど、死ぬほどの病気とか死人を蘇らせる力はないと思う」
「なら、益々、意味が分からないな。 王国が勇者の力を求める理由が」
フィルとフィンがこそこそと話している。 何か、他に隠してる事があるのか?
「多分、主様は必要ないと思って言わなかったと思うんだ。 ルイとニイナが手に入れた武器だけど、能力が付与できるんだよね。 専用の勇者の力に匹敵する能力がね。 付与の仕方も変わってるし、こっちが武器さえ手に入れてれば力は渡らないし、まさか、ルイが力が欲しいと言うとは思わなかっただろうしね。 だから、僕たちも言う必要ないと思って言わなかったんだ」
「何で、別々の場所にあるんだ?」
「それはね、世界樹ダンジョンは勇者の力か武器か、どっちかが手に入る事になってるんだ。 で、武器は[ハズレ]って言われてる」
瑠衣が顔を引きつりながらガックリっと。
「俺らはハズレか……。ってか、ハズレでも王国の方にあげたくなかったのか。 能力付与が出来るのは、王国も知ってるのか?」
「知らないんじゃないかしら。 武器が出た場合は売ったりしてたみたいだし。 皆、力の方がいいだろうし、世界樹ダンジョンが攻略されたのって、五回もないんじゃないかと思う」
フィルが真剣な顔で瑠衣に問う。
「本気で行くなら、案内するよ。 でも、手に入るかどうかは分からないよ。 死ぬかも知れないし」
瑠衣は真剣な顔で頷いた。 瑠衣の本気が伝わって来たので俺たちも手伝う事にした。
「じゃ、私は皆の武器と防具を整備するわね。 今日は私の為に頑張ってくれたんだもんね」
華が両手を差し出してきたので、木刀を渡した。 整備から返って来た、木刀と防具の変化に物凄く驚く事になる
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、気に入って頂ければ幸いです。
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