八
深夜零時過ぎ、ログハウスの周囲の森に怒号や悲鳴が飛び交う。 怒声と指示を仰ぐ声、木刀と剣が打ち合う音が耳に響く。 相手の剣に、踏み込んで打ち込んでいく。 三手目で相手の剣に打ち込むと、相手の剣が真っ二つに折れた。 木刀で剣を折れられて驚愕する兵士、戦意喪失してるとこ悪いが、腹に蹴りを入れて気絶させる。 瑠衣が弓で数人の兵士の剣を、同時に射ち落としていく。 動揺している所をフィルたちが襲い掛かって、数十人を気絶させてお縄にする。 アンバーさんが操っていた魔物たちは、本物の魔物ではなく、魔物を模して土で出来たゴーレムだった。 ゴーレムたちが隠れ家の警備をしてくれている。
『花咲華の危険を感知、結界は展開中 応戦しています』
花咲と鈴木と数体のゴーレムが、兵士たちと戦闘している画像が送られて来る。 雑木林で兵士に囲まれている。 兵士の数が多過ぎる。 花咲は前に見た魔道具を使って、鈴木を援護していた。 腕の魔道具から魔法陣が現れ、火の玉を兵士に向けて撃っている。 結城の奴、どれだけの人数ここに送り込んだんだ。 俺たちを殺す気か。
「瑠衣!! 悪い、花咲のとこに行く」
俺が駆け出すと、瑠衣も俺の様子で何かを察しのか、風神に騎乗してついて来た。 去り際にフィルたちに指示を出す。
「フィル! 後は頼む! そいつら馬車に詰め込んでて」
フィルたちは明るく了承の意を示した。 銀色の足跡を踏んで跳躍する。 木々が生い茂っている森の中を、跳躍しながら進んで行く。 後ろから風神の蹄の足音が聞こえて、瑠衣がちゃんとついて来てるのが分かった。 スキルが最新の情報を送ってくる。 鈴木が苦戦していて、雑木林の為に得意の空中戦が出来ないみたいだ。 何度か跳躍した後、花咲たちの姿が見えた。 まだ、距離はあるが、一歩の跳躍で届く距離だ。 卑怯だが、言ってられない。 銀色の足跡を踏んで跳躍する。 着地と同時に、何も気づいてない兵士の後ろから、後頭部を木刀を打ち下ろしてぶっ叩く。 兵士は白目をむいて気絶した。 直ぐに、花咲たちを後ろに庇って構える。
「大丈夫か? 花咲」
「うん、平気」
まさかの後ろからの攻撃に慌てふためく兵士たち、全く訓練していないのかと思うくらいに統率が取れていない。 結城が動かせる兵士がこの程度なんだろ。
「王子、遅かったね。 来なくても、私一人で華を守れたのに」
口を尖らせて不満顔だ。 やられそうになってたくせによく言う。 兵士の後ろ、俺たちから見たら、前方から矢が放たれる。 何本もの矢の音が聞こえて、目の前の兵士達が胸を射たれて、目を見開いて倒れていく。 矢は暫くしたら煙のように消滅した。 呆然と倒れた兵士を眺める。
『矢が一本外れました。 軌道がこちらを向いてます。 カウント 直撃まで、五・四・』
瑠衣の矢が外れたのか、一本俺の方に飛んでくる。 突然、スキルがカウントを始めた。 後ろの花咲を抱き寄せる。
『三・二・一・零』
スキルの『零』の声と同時に、地面に伏せる。 矢は俺たちの後ろの木に突き刺さって消えた。 風神の蹄の音が俺の前で止まる。 見上げるとにっこり微笑む瑠衣が見下ろしていた。 俺たちを囲んでいた兵士達は全員、瑠衣の矢に射たれたみたいだ。
「瑠衣……」
「大丈夫だ、優斗 心臓を止めて気絶させただけだ。 殺してない」
「それ、死んでないか?」
兵士を確かめてみると息があった、死んでない。 流石にこんな事で死なせるのは忍びないからな。
それより瑠衣、わざと俺に向けて射ったんじゃないだろうな。 訝し気に瑠衣を見る。 気づいた瑠衣が
「ごめん。仁奈と仲良さそうに見えたから、つい。それに優斗なら避けれるだろう?」
瑠衣のにっこり笑う黒い笑顔に背筋が凍る。 そんな仲良さそうだったか? 普通だと思ってるんだけど。 鈴木には馴れ馴れしくしない様にしよ。 瑠衣の鈴木に対しての執着心が怖いな。
送り込んできた兵士たちを、結城の名前宛てで城に送り返した。 何か、反応があるだろうけど、反応があった時に考えるとして、二度寝しよう。 肉体的にも……精神的にも疲れた。
兵士を送り返された結城真由は、お城で怒りを爆発させていた。
「あの人数を四人でやっつけたの?」
花咲華は戦力外としても、剣道部に弓道部に薙刀部だとしても、元の世界ではただの高校生よね。 何で、そんなに強いのよ! 下っ端だけど、一応兵士なのよ。 王子だけでも連れてこれると思ったのに。 癖で親指の爪を噛む。 四人とも髪の色も瞳の色も、元とは違ってるし。 王子、益々キラキラしてたわね。 ちょっと、確かめなきゃいけないわ。
お城の豪華な一室の天蓋付きベッドに座って考える。 脇にあるライトスタンドの上に置いてあるベルを鳴らす。 音もなく天井から黒い影が降りてくる。
「ちょっと、調べて欲しい事があるの。 二週間くらいでいいわ。 この四人の行動を調べて」
羊皮紙を受け取った黒い影は、音もなく天井に戻っていった。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、気に入って頂ければ幸いです。
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