二
「これは、明日、私は女子全員に吊し上げに会うね。 皆、小鳥遊くんと乗りたがると思う」
「物騒だな。 そんな女子とは乗りたくないけどな」
やっぱり女は怖いな。 今、俺たちは瑠衣の宣言通り、二番人気のアトラクションに乗っている。
二番人気のアトラクションは、二人乗りのマシーンを六台繋げた絶叫マシーンだ。猛スピードで急降下やカーブを走り抜けていく。
このマシーンは、前後で膝を伸ばした状態で座る。 後ろの席にしか背もたれが無いため、安全ベルトで固定されれば、必然的に密着することになる。 所謂カップルシートってやつだ。
まさか、カップルシートとは! 花咲、嫌なんじゃないだろうか。 前に乗る花咲の顔を覗いてみる。 見事に顔が強ばっていた。 俺はドキドキなのにだ。 出発準備が終了し、係員の元気な掛け声で発車した。
「「「「「行ってらっしゃい」」」」」
ゆっくり走り出したマシーンは、アトラクションの外周を回り、急降下する頂上まで登り始めた。
「もう、駄目! 怖い! やっぱり辞めとけばよかった」
「まだ、登り始めたばっかりだけど、花咲は絶叫系駄目な人か」
「小鳥遊くんは絶叫したい人なんだね」
「えっ、したい訳ではないけど、好きな方かな。 ずっと青ざめてたのって、怖かったから?」
今、何か残念な人を見る目で見られたような。
「まさか、初っ端から絶叫系に行くとは思わないじゃない」
「いや、結構並ぶし、人が少ないうちに早めに並んで行くけど」
「そう(棒読み)」
「そんなに怖いなら、断ればよかったのに」
「空気読めない人間にはなりたく無かったから。 一人だけ乗らないなんて、出来ないでしょ」
クスッ。そうか、俺、嫌がられてなかったのか。
「ああ、頂上に着く」
花咲が絶望的な声を出した。 ガタンと音がして止まった。マシーンが傾いて下を向く。 花咲が息を呑んだ。
「ひっ!」
いや、花咲、ビビり過ぎだろ。
急降下を始めたところで、下から光が膨らんできた。 一瞬、地面に文字のような模様のようなものが見えた。
「なんだあれ?」
「なにあれ?」
くっ! 光に突っ込んだ! 目を開けていられない! 拘束感がなくなった、まさか、安全ベルトが外れたのか? 咄嗟に花咲を抱き寄せた。
「小鳥遊くん!」
「大丈夫だ。絶対、離さないから!」
今、離したら二度と会えない気がして、強く抱きしめた。 絶対、守るから!
光が弾け飛んだ後、光が収まって、落ちていく感覚の中、深い森の匂いがした。 遠くの方で鳥や動物の声、川のせせらぎが聞こえる。 でかい木のイメージが頭の中に入って来た。 柔らかい草の上に落ちた。 土の匂いがして、森の中に居るんだなと理解した。
「花咲、大丈夫か? 起きろ」
身動ぎして、俺と目が合った花咲が、驚いた顔をして俺を見つめてくる。 花咲は俺の上に乗ったままだ。 この状況に覚えがある。
「小鳥遊くん……だよね?」
そのセリフも聞いた覚えがある。何処で? それに花咲に違和感がある。 これはデジャブか?
「花咲……だよな?」
俺の言葉にキョトンとする花咲 俺に乗ったままになっているのに気づいて慌てて退いた。
ドサッと腹に重いものが落ちてきた。
「ぐはっ!」
息止まるかと思った。 腹を抑えて、痛みに耐える。 落ちてきたのは、ロッカーに入れてたはずの俺たちの鞄 乗る前に一緒に入れた覚えがある。 鞄には「HANASAKI」の文字 何でここに?
「花咲、鞄に何詰めてんだ?」
「あ、お弁当 仁奈の分も作ったから、仁奈、結構食べるんだよね。 パックにしたかったんだけど、足りなくて、重箱に……」
申し訳なさそうに語尾がしどろもどろになっている。
「そうか」
さっきのは重箱の角だったか。 兎も角、自分の顔が見たい。 川面に顔を映す。 隣で花咲は手鏡で顔を見ていた。 二人で同時に叫んでいた。
「「なんで──!」」
俺たちの黒髪は、銅に近い色の髪に、黒目は、薄茶色の目に変わっていた。 顔の作りはそのままだった。




