五
下に降りる為の入り口のカギは、木の実だった。 入り口の実は、小高い丘の上にある木の実だ。 入り口の実を皆で、同時に齧ると下の階層に瞬間移動するらしい。 従魔たちも含む。 片道切符でダンジョン攻略後は、別の場所に瞬間移動する。 下の階はどうなってるか分からないけど、取り敢えず、今は危機を乗り越えなければならない。
『結界が強化されました。 前方の魔物の危険度はMaxです』
強化された? 自動でされたのか? それとも、結界は花咲が拒絶する事に依って発動されるから、強化も花咲に関係あるのか……。
強化されるのはいいけど、何か嫌な予感がしてならない。 スキル越しで見なくても、花咲が段々と機嫌が悪く為っていってるのが分かる。
「さて、どうする? 何か軍隊みたいに、統率が取れてるけど。 あそこまで行くの骨だな」
瑠衣が丘の上を覗いて、面白そうに話しかけてきた。 俺たちは死角に入って隠れている。 猿モドキはいくつかの隊を組んでいて、布陣を敷いている。 奥にはボスらしき猿モドキが指揮を執っている。 正面突破は難しいな。 俺は確認の為に、フィルたちに聞いた。
「本当にあの木の実が、入り口なのか?」
「うん、本当にあの木の実が、下の階層に行く為の入り口よ」
フィンが間違いないと頷く。 側で誰かが動く気配がする。 丘を駆け上がっていく影、後ろで一つで縛っている髪が、背中で上下に跳ねている。 鈴木か。
「駆け引きとか戦略とか面倒!! 私が木に登って取ってくるわ!」
「うわぉ、もう正面突破しか出来ないな(棒読み)」
瑠衣、棒読みだぞ。 チラリと横の瑠衣を見る。 面白そうに鈴木がどうするか見ている。 瑠衣、悠長に見ていられないぞ。 あれではそのうち潰れる。
「仁奈!」
『結界が更に強化されました』
また、強化された? やっぱり、強化してるのは花咲か。 それに、今気づいたけど、結界にフィルたちみたいな羽根が生えている。 これは間違いなく花咲が結界を動かしてる。 花咲は、何か思いついたように俺たちの方を見た。 手を差し出してくるから、咄嗟に手を取った。 隣で瑠衣も花咲の手を握っている。 これはどういう意味だ? 何で瑠衣の手まで?
「仁奈のとこまで走るよ」
三人と従魔を引き連れて鈴木の所まで、俺たちも丘を駆け上がる。 俺たちに気づいて攻撃してきた魔物を、結界が消し飛ばして行く。 なるほど、鈴木が潰れる前に結界の中に回収する気か。 結界、前より強力になってるな。 魔物たちが、結界に触れる前に吹っ飛ばされて、猿モドキの統率が崩れていく。 流石にこんな結界は想定外だろうな。 瑠衣が隣で感嘆の声を漏らしている。
「やっぱ凄いな、お前の結界 結界無双じゃないか。 それとそんな怖い顔すんなよ。 俺から握ったんじゃないだろ。 華ちゃんから手を握って来たんだからな」
木の真下まで来た。 大振りの枝の上に鈴木がいた、木の実に手を伸ばしている。 厳密に言うと俺だけの力じゃないけどな。 瑠衣の手を握った事は、後で考えるとして上を見上げる。 鈴木は、数匹の猿モドキに絡まれていた。 あれは、ヤバいな。
「瑠衣」
「分かってるって」
弓を引いて、魔物に狙いを定める。 鈴木に絡んでいた全ての魔物が射ち落とされた。 魔物が次々と鈴木に群がっていく、瑠衣が弓で射ち落としていく。 木の実を採られないように守ってるのか。 これでは、切りがないな。
「鈴木! 全員分の木の実を採って降りてこい!」
「おけー! 華、受け取って!」
「うわわ、無理ーー!」
花咲は狼狽えている。 鈴木が槍を一振りすると、木の実が人数分以上の個数が落ちてきた。 皆で手分けして、綺麗で潰れてなさそう木の実を拾う。
『結界が破られそうです。 破られるまで五分ほどです』
ヤバいな、猿モドキが木の実を取られて、怒りがMaxになってる。 魔物の数が多過ぎる。 鈴木が降りてきて、無事に結界に入る。 鈴木を追って、襲い掛かって来た魔物が結界で吹き飛んでいく。 威力が少し、下がってきている。 急がないと。
深呼吸して、魔力を循環させて集中する。 体の中で、火が灯る。 体が熱い、暴走しそうだ。
ボンと頭の上にフィルが乗ると魔法の制御がフッと軽くなった。 フィルと目が合うと、お任せあれって顔して片目を瞑る。 体の中の、炎が燃え上がって大きくなる。 結界の周りに魔法陣が展開される。
『全てを燃やし尽くせ』
体から魔力が放たれる。 炎が燃え上がって、結界を囲んでいた猿モドキたちに次々と燃え拡がって、灰になっていく。 きつい、やっぱり炎の魔法は合わないな。 汗が止まらない。 無理やりに魔力を持っていかれた感じだ。
『結界を再展開、安全を確保しました』
結界の魔法陣が光って、結界を張り直す。 羽根がパタパタと跳ねている。
「結局、今回も優斗の無双で終わったか。 俺、何もしてないな。 華ちゃんの手を握っただけだ」
ニヤリと笑ってこっちを見る。 本当にこいつは……。
「皆、あれ! 見て!」
フィルの声に全員が、声がした方を見る。 奥にいたボス猿らしき魔物が、徐々に大きくなっていく。 一歩一歩が重くて、地響きがする。 三メートル級の巨大な猿に変身した。 皆が一斉に木の実を齧る。 あんなの相手にしてられない。 齧ると意外にも甘くて美味しかった。 これは、独り占めしたくなるよな。
周りの景色が歪み暗転する。 気づくと俺は、ひんやりとした暗闇の中に居た。 花咲は?
『位置情報が確認できません。 結界は発動されてます』
位置情報が取れないのに、結界が発動されてるのは分かるのか? 花咲の場所まで転送……は、位置が確認できないから無理か。
「ここは、迷路だね。 方向感覚が狂う魔法が掛かってるんだよ」
頭の上でフィルの声がする。 それで、位置確認が出来ないのか。 後ろで人が動く気配がした。
俺の腰元に手が触れるのが分かって、弾かれたように触れようとする手から離れて対峙する。
魔力を木刀に流して、構える。 魔法石が光って、花びらが散る。 薄っすら見えた顔は、花咲だった。
「小鳥遊くん? そこに居るの?」
「花咲! 良かった、無事か? 怪我無いか?」
「うん、大丈夫 小鳥遊くんは? 仁奈たちはどこに?」
銀色の少女が姿を現して発光する。 花咲の姿がはっきりと見える。 こんな側に居たのに位置確認できなかったのか? 花咲は普段から方向音痴だからな。 ここで逸れたら見つけられないぞ。
「分からない。 その内何処かで会えると思うんだけど、花咲……。あの、手を」
これ、改めて言うの恥ずかしいな。 迷路の奥から不気味な声が聞こえてくる。 花咲が短い悲鳴を上げて、俺の腕を掴んできた。
「何か今、奥で変な声聞こえたよね。 お化けなんて出ないよね」
「さあ、それはどだろうね」
フィルの返事に更に不安そうな顔になる花咲。
「花咲、この迷路は方向感覚が狂う魔法が掛かってるらしいから、ここで逸れたら花咲を見つけられない、俺から離れないでね」
「分かった」
花咲は俺の腕を掴んだままで頷く。 フィンを先頭に俺たちは迷路を進んで行くことにした。 瑠衣たちとは、瞬間移動が成功していたら、そのうち何処で会えるだろう。 もし、会えなかったらもう一度、ダンジョンに入り直そう。
『異世界転移したら……。」読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、気に入って頂ければ幸いです。
毎日、12時から14時の間に投稿しています。良ければ読んでやってくださいませ。




