二十一
「兎に角、明日の夕方に血を繋ぐ儀式をするから、それまでじっくり考えて! どっちにしても私がフィンちゃんから離れないと、あんた達も移動が出来ないんだし。 お風呂でも入って、ゆっくりしたらいいわ」
泊まりか。 そうか、この世界に来てからまだ、一日も経ってなかったんだ。 今は大体、夕方過ぎ。やっと、一日目が終わるのか。 長い一日だったな。
『かぽーん』
って音が聞こえてきそうだな。 鹿威しなんて、当然ないけど。 裏庭に岩風呂があるなんてな。
バッシャーン! フィルが俺の頭の上から、湯船に飛び込こむから、俺に水飛沫が掛かる。
「フィル! 静かに入れよ!」
フィルは本来の姿、羽根の生えたスライムになって、羽根をパタパタさせながらスイーっとお湯の上を進んでいく。 たまにジャンプして辺りに水飛沫をまき散らしている。 お前は、水上スクーターか! スライムの時にしか見えないから忘れてたけど、フィルは俺の従魔なので俺の印が刻まれている。 丸いフォルム全体に桜吹雪みたいな模様が散っていて、今はそれが、お湯でほんのりピンク色になっている。それが何か嫌だ。
「しかし、スライムも風呂に入るんだな。 そんなの気にしなさそうなのに」
身体を洗い終えた瑠衣が、湯船に入ってくる。 騒いでいるフィルを見て苦笑する。
「あんなの遊んでるだけだよ」
因みに女子とは交代で風呂に入った。 もちろん、その時は、画像や声が頭の中に入って来ないように、【透視】と【傍聴】スキルは停止させた。 今も停止させたままなので、花咲がどうしてるのか分からない。
【危険察知】だけは発動してるから、何かあっても分かるし、直ぐに動けるから大丈夫だろう。
ただ、あんな簡単に結界が破られるとは思わなかったな。 アンバーさんが凄いのか?
この【花咲華を守る】スキルを強化する方法が何かあるはず。 やっぱりこのスキル名も内容も、めちゃイタイよな。
「優斗はここから出た後は、どうする? 俺はダンジョン都市に行ってみたいんだけど、アンバーさんがそんな話してたんだよ。 花咲と鈴木にも聞いてみない?」
「ダンジョン都市? そんなのあるのか……面白そうだな」
「危険だけど、折角、異世界に来たんだし楽しまなきゃ損だろう。 花咲と鈴木たちとここ出る前に、話し合おう。 個々の能力についてもな。 一緒に行動するんだからちゃんと知ってた方がいいでしょ」
「……そうだな」
ニヤリと笑う瑠衣に、全部見透かされてそうで嫌な予感がする。 昔からこいつには、内緒ごと出来ないんだよな。
――翌朝
『【花咲華を守る】スキル、【透視】【傍聴】スキルを開始します。 花咲華の位置を確認、安全です。 就寝中、危険はありませんでした』
頭の中でスキルの声が響く、寝起きにはきついな。 寝てる間は【透視】【傍聴】のスキルは停止するのか。
『就寝中は視界と聴覚が効いてません。 【位置情報】【危険察知】は第六感により発動されてます』
なるほど……。 まだ、ベッドの中で寝ている花咲の姿が映し出される。 次の朝から画像を出すかどうか聞いてからしてくれないだろうか? 花咲に申し訳なさすぎる。
瑠衣も隣のベッドでまだ寝てる。 そっとベッドから抜け出して、アンバーさんの部屋へ向かった。 アンバーさんは、もう起きていてノックすると直ぐに出てきた。
「おや、おはようごさいます。 随分と早いんですね」
「おはようございます。 アンバーさんに聞きたいことがありまして」
いくつか頼みたい事もある。 その前に確認したい。 アンバーさんと俺との力の差。 きっと、歯が立たないと思う。 それでも俺のスキルが強化されるのなら何かしたい。
「いいですよ」
アンバーさんはニコリ笑って快く応じてくれた。
『異世界転移したら……。』を読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、気に入って頂ければ幸いです。
毎日、12時から14時に投稿しています。良ければ読んでやってくださいませ。




