十九
目の前には、怒りと悲しみが入り混じった表情のエルフ。 俺の喉が締まる。
苦しい……視界が霞む……。
エルフの背後から、蹄の足音が聞こえる。 怒りで我を失っているエルフは気づかない。 エルフの背中を蹴り上げる。 エルフが吹っ飛んで、俺から離れていく。 気管が拡がり、肺に空気が入る。
風神か……。エルフが風神に向かって、火の魔弾を放つ。 風神の角が光って姿が歪む。
魔弾が風神の身体を通り抜けていく。 エルフの一瞬の隙に、フィルたちがエルフを地面に引き倒す。
「フィン! 今だよ」
「了解!」
丸いフォルムから、人の形を取っていく。 いつもの銀色の少女ではなく、大人の女性だ。
それも全体的に白くて、耳が尖っている、美女だ。 そしてその美女は、エルフの顔をなんの躊躇もなく殴った。 しかも、拳で、その後も何発も何発も、馬乗りになって殴った後
「アンバー! 私の願いを叶えてもらう子たちに、あんたは何してくれてんのよ!」
更に殴り続けそうな美女を、皆で止めるのに一苦労した。
「皆、ごめんね。 この馬鹿が暴走して、酷い目に合わせてしまって」
アンバーさんの頭を押さえて、無理やり下げさている。 顔を上げたアンバーさんは、見るも無残に腫れあがっていて、元の原型が判らなくなっていた。
「いや、誤解が解けて良かったです。 あの、……貴方は?」
「私は、セレンティナアンナ。 あのダンジョンで死んでからずっと、フィンちゃんの中に住まわせてもらってたの。 私の最後のお願いを叶えてもらう為にね。 肉体はないから、思念体なんだけど」
アンバーさんが怒ってセレンティナアンナさんに言った。
「だから、あんな男のことなんて信じたら駄目だって言っただろ。 挙句に死んでしまうなんて……」
アンバーさんは拳を握ってとても悔しそうだ。 そんな姿をセレンティナアンナさんは半眼で睨み
「あんたはまず、先にこの子達に謝りなさいよ。 それにあの時は、周りの事が見えてなかったんだか
ら、仕方ないでしょ」
アンバーさんは俺たちに向き合って謝ってくれた。
「本当にすまなかった。 もう少しで、セレンティナアンナの遺言を届けてくれた君たちを、殺めるところだった。 許してくれ」
「まぁ、俺たちは優斗が許すなら……」
チラッと俺を見て、瑠衣たちが俺の意思を伺う。 まぁ、俺が一番、死にかけたからな。
「さっきも言った通り、誤解が解けたならそれで俺は良いので……」
問題はアンバーさんじゃなく、魔族とか盗賊だと確実に、俺は殺されてたって事だ。
取り敢えず俺たちは、アンバーさんの家、実際はセレンティナアンナさんの家に向かう事にした。
いつの間にか、魔物もいなくなってたし、不気味な鳴き声もしなくなっていた。
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