十八
「この先の奥に、アンバーさんの家があるよ。 ここからはブレスレットがないと入れないんだ」
着いた先は、鬱蒼とした森の奥に続く入り口だった。 どんよりとした空気が、侵入を阻んでいる。
不気味な鳴き声が、何処からか聞こえてくる。 何か出そうな雰囲気だな。 いや、確実に何か出るだろう。 雰囲気に呑まれてる俺たちを他所に、フィルたちは楽しそうだ。 今は、本来のスライムの姿に戻っている。 羽根をパタパタさせて、二匹とも興奮気味だ。
「どうしたの? 早く往きましょう」
『少数の低級な魔物を感知、危険度は低いです』
弱い魔物はいるのか。 花咲は鈴木にべったり引っ付いている。 あの様子だと怖いのも苦手なんだな。 皆の方を見て、頷いて合図を送る。 皆が頷くのを見て、森の奥に足を踏み入れる。
フィンを乗せた雷神を先頭に、花咲と鈴木、俺と瑠衣、その後ろに一角獣の風神がついてくる。 フィルは俺の頭の上に乗っている。 一応、道があるけど、何年も人が入ってない感じだ。 ずっと続いてるけど、その先は暗闇だ。 懐中電灯が欲しいけど、ないよな。 先頭のフィンが発光して辺りを照らす。 中々便利だ。 花咲が前を歩いてるので、魔物の位置や危険度も教えてくれる。
今の所、何も危険はない。 暫くは皆、黙って歩いた。 隣で歩く瑠衣が話しかけてくる。
「不謹慎だけど、何か肝試しみたいだな。 中学の修学旅行でやったよな。 覚えてるか?」
「ああ、そういえばやったな。 その時、先生が女の幽霊に『今、何時ですか?』って聞かれたって言ってたな」
あの時は一人の先生だけじゃなくて、見張りで立ってた数人の先生も見たって言ってたけどな……
「まぁ、よくある話だよな……出たりして 」
瑠衣が嫌な笑い方をして言った。 こいつは本当に人を揶揄うのが好きだな。
「残念だな瑠衣 俺は幽霊なんて怖くない」
「うん、知ってる」
顎で前を歩く花咲を指す。 花咲の背中が震えている。 本当に人が悪い!! 前を歩いてるから、送られてくる画像を確認しなかった。 鈴木が、ムスッとした顔で振り返る。
「ちょっと! 変な話するの止めてよね。 怖いでしょ」
「鈴木にも怖いものあるんだな」
意外だ。 瑠衣は、面白いものを見つけた時みたいな顔をした。 嫌な予感。 鈴木、全力で逃げた方がいいぞ。
『前方に複数の魔物を感知、危険度はMaxです』
「皆、止まれ!……魔物が来る!」
その場にいる全員に緊張が走る。
「え、ブレスレットがあれば襲われないはずなんだけど」
フィルが俺と同化する感覚がした。 俺のスキルを使って、魔物を感知したようだ。
「本当だ……なんで?」
『統率する魔力を検知。 魔物の位置を確認 囲まれてます』
頭の中に地図が拡がり、俺たちと魔物の位置が点で現れる。 後方にでかい魔力がある。
どうする? ここはやっぱりやるしかないけど、統率してる奴を誘き出さないと、エンドレスだろうな。
それぞれ自分の武器を構える。 魔物が草陰から姿を現す。 こいつら前に花咲を襲ってた魔物に似てる。 下卑た笑い声を出して近づいてくる。
『虫除け(結界)スキルを展開します』
魔物の足元に魔法陣が展開され結界が発動される。 もう、結界って言ってくれないだろうか。
魔法陣の上にいた魔物は消し飛んでいった。 結界の外にいた魔物も発動の衝撃で吹っ飛ぶ。
「おお、やっぱこの結界すごいな。 これだけで魔物、倒せるんじゃないか?」
瑠衣が感嘆の声を上げる。 危険度Maxなのに簡単にやられたな? 草陰から次々と魔物が襲い掛かってくる。 物の数秒で、結界の周りを大量の魔物に囲まれた。 これはやばいな。 結界から出れない状態になった。
『上空に強い魔力を感知、結界が破られます』
まじか? 考える暇もなく、パリンとガラスが、割れるような音を立てて結界が破られる。
気づいたときには、一人の男に組み敷かれていた。 結界が破られたのに、魔物は襲ってこない。
この男が操ってるからか? 瑠衣たちは何かに縛られたのか膝をついて、悔しそうに顔を歪めている。 男を引き離そうとしたけど出来ない。 金縛りにあったみたいに体が動かなかった。
『再度、花咲華の周囲に結界を展開。 金縛りを解除しました』
瑠衣たちも花咲の側に居たから、自由になったはず。 青ざめた花咲と瑠衣たちが動く画像が送られてきた。 でも、フィンやフィル、雷神や風神もいない。 何処に行ったんだ。 瑠衣と目を合わせる。 まだ、動くなと合図を送る。 頷く瑠衣に笑顔を返す。
俺を組み敷く男の顔を見て、息を呑む。 此の世のものとは、思えないほど美しい顔があった。 その顔は怒りで歪んでいる。 全体的に白くて、耳が尖っている。 間違いないエルフだ。 もしかしなくてもアンバーさんだろう。 でも、怒りMaxの理由が解らない。 俺の腕にあるブレスレットが光る。
アンバーさんはブレスレットをチラリと見る。 益々、怒りが増していき、俺の腕を取ると
「何故、あいつのブレスレットを持っている。 これはあいつの母の形見だと言っていた。 そんな大事な物を、他人にやるわけはない。 お前があいつを騙してた人間の男か! セレンティナアンナは何処だ! 何処にいる! まさか、殺したんじゃないだろうな」
一気に捲し立てられて、口を挿む余地がない。 喉元にアンバーさんの手が掛かる。
誤解を解かないと! アンバーさんの手に力が入る。 息ができない。 くっ、どうすれば……。
『異世界転移したら……』を読んで頂き誠にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、気に入って頂ければ幸いです。
毎日、12時から14時の間に投稿しています。
良ければ読んでやってくださいませ。




