九
ギュッと抱きしめた後、小鳥遊くんは意識を失った。グッと体重が掛かる。顔も青白くて、 体温も低くなってる。 呼吸も荒い。早く、回復薬を飲ませないと危ない。
「小鳥遊くん、ちょっとだけ離して」
体を離そうとしたけど、中々離してくれない。 何で意識ないのに、こんなに力強いのーー!
ボンと鞄が地面に置かれる。置いた相手を見て息を飲んだ。そこには全身が銀色の少年が立っていた。
「いつまでイチャイチャしてるのさ。 早く、回復薬を飲ませないと彼死ぬよ」
頭を傾げると、銀色の髪が、シャラシャラと金属みたいな、不思議な音が鳴った。 凄い綺麗な子だけど、全身が銀色! それに透き通ってるんですけどーー! この子何者?
「ねぇ、聞いてる? 死んじゃうよって」
銀色の少年の言葉で思い出す。
「あ、……離してくれなくて……」
「仕方ないな。 僕が彼を運ぶから、あんたは荷物と武器を持って」
べりって私から小鳥遊くんを剥がして、軽々と抱えあげた。 少年は10歳くらいに見えるのに、凄い力持ちだ。
「早くして」
「は、はい」
慌てて銀色の少年を追いかけた。
次の階は休憩ポイントで、最初に落ちた場所に似ている。 川が流れていて、対面には世界樹がある。その奥と川岸には深い森が拡がっていた。 世界樹の側に小鳥遊くんを寝かせると、後ろから明るい声が聞こえた。
「来たわね! さぁ、薬草を見つけておいたわ!
回復薬を作るわよ!」
「作るのは彼女だけどね」
「分かってるわよ。そんな事」
銀色の少年少女たちが、親しげに話している。 はぁ〜。この女の子も綺麗 ふわふわの髪が綿菓子みたい。二人とも10歳くらいの姿だけど。 やっぱり透き通ってる。 二人に見とれていると、小鳥遊くんの呻き声が聞こえた。 ハッ! 今はそん事考えてる暇なかった。
頭の中のファイルを取り出す。 回復薬のページを捲る。 一番良く効く回復薬を作る。
薬草を手に取って眺める。 出来損ないの回復薬を作った時に、使った薬草と同じだ。 あの時は、何であんなに苦かったのか。 う〜ん、苦いかぁ。 あ、アク抜きか。 そういえば、してなかったかも。 料理でも、アク抜きはするもんね。こんな基本的なこと忘れるなんて……。
よし、後は、水はできるだけ、体の中の水分に近い方がいいから、塩と砂糖を混ぜてみよう。
「これ、彼の鑑定結果なんだけど……」
周りの声は聞こえなかった。 今度こそ、何としてでも、回復薬を完成させないと。
フラスコに魔力水、塩と砂糖、アク抜きして潰した薬草を入れる。 フラスコの底に魔法陣を展開、魔力を込めるとぶくぶくと沸騰する。 更に魔力を込めると沸騰させながら、魔法陣が徐々に上に上がっていく。 フラスコの入口に達すると、中の回復薬が光る。 光が収まれば、回復薬が出来あがる。今までで一番いい出来かも。 しかし、甘かった。銀色の少年少女たちはスパルタだった。
「う〜ん、まだ、くすんでるわね。 こっちは色はいいけど、味がまずい!」
「これも苦いね。 アク抜きが甘いのかも」
何回か作り直し、やっとの事で太鼓判を押して貰えた。
「うん、これはいいわ。 色も澄んでるし、たまに光ってる。 これならバッチリ効くわよ」
「ありがとうございます。 師匠! 師匠のお陰でいいのが出来ました! 」
「ひとえに貴方が頑張ったからよ」
手を取り合って喜ぶ。
「そんなのは、後でいいからさ。 早く飲ませなよ(いつの間に師弟関係に……)」
「うん、本当にありがとう」
小鳥遊くんの側に行くと、さっきよりも青ざめている。 あ、意識のない人に、どうやって飲ませるの?
「先に体力回復薬を飲ませた方がいいわよ。 その後に魔力回復薬ね……どうしたの?」
固まって動かない私を訝しげに見る。
「自力で飲めない場合はどうすれば?」
「あ、ぶっかけ用にしとけば良かったわね」
「でも、もう作り直してる時間無いと思うけど」
銀色の少年少女はアレをやるしかないでしょって目で見つめてくる。 小鳥遊くんの顔を見る。 死人みたいだ。 ほんとに一刻の猶予も無い。 ええい! 覚悟を決める。
「ごめんね。 小鳥遊くん」
回復薬を口に含んで顔を近づける。 唇を合わせると口を開かせて、一気に回復薬を流し込んだ。
喉を鳴らして回復薬を飲み込んだのを確認する。 魔力回復薬も同じように飲ませる。
回復薬は直ぐに効いてきた。 顔色が良くなって頬に赤みがさす。 呼吸も穏やかなものになっていた。ホッと安堵する。 小鳥遊くんの唇の感触にドキドキした。




