プロローグ
不思議な夢を見た。 見た事のない草や花や木々、落ちていく感覚。デカい木の葉が風で鳴っている。 深い森の匂いがした。 いつの間にか眠ってしまったみたいだ。 誰か何か言ってる。
『小鳥遊くん……だよね?』
花咲? 何言ってるんだ? 当たり前だろ。 何でそんな、驚いた顔してるんだ? それに俺の上に乗ってるって、どういう状況だこれ! 見つめてくる瞳に胸が高鳴る。ゴクッと喉が鳴る。
でも、違和感がある。 何かが違う。 分からない。 視界がぼやけて、花咲の顔が分からなくなる。 何か言ってる、泣いてる?
一瞬泣き顔が、見えた気がした。 駄目だ……意識が……遠のく。
ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ
「んっ……はな……さき」
ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ ピピ
「ピピ ピピ……うるさい! スヌーズしてたっけ?」
ああ、そうか。 いつもは目覚ましが鳴る前に、目が覚めるんだった。 何か、夢見てたけど覚えてないな。
今日は、学校のレクリエーションで遊園地だ。 現地集合だから、早めに出ないとだな。
鏡を見て手ぐしで柔らかい黒髪を整える。 何時見てもハーフ顔だな、この髪も余計に誤解を産んでる。 中学の時、この容姿の所為で、王子というイタイあだ名を授かった。 偉い迷惑だ。 いつの間にか、ファンクラブまで出来てた。
「制服で遊園地とはなぁ」
アイボリーの上下にグレーのシャツ。白いネクタイに上から下まで白でめちゃ気を使う。
俺の通う私立学校は、校則が厳しくて有名だ。 パーマ、染色は禁止で、生徒はほぼ黒髪だ。
女子も制服で来るんだよな? 花咲の制服姿が、脳裏に浮かぶ。 スカート丈を思い出して、クローゼットからセーターを出して鞄に詰める。
「渡せるかどうか分からないけど、持っていくか」
リビングに降りると、珍しく両親が揃っていた。
両親は仕事が忙しくて、あまり家に居ない。 久しぶりに母さんの飯を食って、父さんと学校での話をした。
「行ってきます!」
これが俺、小鳥遊優斗が、両親と会話した最後の言葉だ。