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帰り道

「えっと……なにしてんの?」

「大神さんを待っていました」

「なぜに?」


 ……やっぱ俺だってバレてる。


「……タッパー」

「え?」

「……タッパー返してほしい、です」


(あぁ、なるほど)


 昨日貰った天童からのおすそわけ。


 中には煮物が入っていて、蓋を開けると煮物の優しい香りが広がり、キレイな彩りなのも相まって否応なしに食欲をそそられた。


 味の方も文句なしだった。


 味付けは薄めだが、野菜本来の味と出汁がきいていて、具の中までしっかりと味が染みているため噛めば噛むほど旨味が口の中に広がる。


 とても美味だったため、あっという間に食べてしまった。


 もちろんタッパーは返す為にちゃんと洗って乾かしている。


「悪い、返そうとは思ってたけど家の場所も連絡先も知らないからさ……」

「それについては私もうっかりしていました……」

「あはは……すぐ返すから悪いがマンションの前で待っててくれるか?」

「問題ありません」

「じゃあ、行くか」






「……」

「……」


 マンションまでの帰り道。


 俺達は前後で一定の距離を保って歩き無言。休日といっても誰かに見られる可能性はゼロじゃない。


 俺はともかく、天童に迷惑がかかる。


 それにこの方が気まずくなったりしないから楽でいい。





 家に戻り、タッパーを持ってエントランスに出る。


「おすそわけありがとな天童。すごい美味しかった」


 天童はタッパーを確認して「ちゃんと洗えてえらいですね」と言われ、若干眉を寄せる。


「天童……俺ってそんなにだらしないイメージ?」

「……はい、正直」


 本当に正直だな、おい。


 まぁ、嘘つかれるよりはいいけど。


「でも大神さん、本当に料理出来るのですか?」

「本当に簡単なものなら」

「……怪しいです」

「なんでそんな疑うんだよ……じゃあ今度おすそわけしようか?」

「え?」


 瞳を見開き驚いた表情をする天童。


 彼女がどうして疑っているのかは知らないが、心配してくれているのはなんとなく分かる。


 なら心配させないように天童を納得させればいい。


 それに貰いっぱなしというのもなんか悪いし。


「好き嫌いとかないか?」

「ありませんけど……」

「それじゃなんか適当に作るから、あんま期待はしないでおけよ」

「いいえ、最初からしてませんし」


 ……そこまではっきり言われると流石に傷つくんだが。


 ホント毒舌だな。――ていうか


「一ついいか?」

「なんですか?」

「なんでそんなに気遣ってくれるんだ?お前にメリットなんてないだろ?」


 学校で天童とは接点もないし、話したことすらない。


 クラスも違うし、わざわざ話しかける用も必要もない。


 たまに見かけるくらいだが、一見皆に等しく優しい顔をしているようで、一定の距離をとっているようにも見える。異性相手なら尚更だ。


 そんな警戒心の強い天童が、なぜ俺のような陰キャにかまうのか不思議でしょうがなかった。


 天童は「う~ん」と考えるように視線を上に向ける、そして「ただの自己満足です」と答えた。


「一人暮らしをしていると聞いて、少し気になっただけです。それにあなたは変な勘違いをしないと思ったので」

「いや、そこはもう少し警戒心持てよ」

「手を出すような素振りがあれば、容赦なく局部を蹴りあげます」

「やだ、この人こわ」


 天童は周りから信頼されてる上に女性だ。


 もし彼女が乱暴されたという事が学校の人達に知られたら、やった奴はもう学校に行けないだろう。


 天童に手を出す=社会的に死ぬ、である。


 俺はそこまでバカでも節操なしでもない、というか全然そんな気持ちにならない。


「私が勝手にやっていることですから、あなたが気にする必要はありませんよ」

「そういうもんか?」

「そういうものです。では私はこれで」


 天童はしっかりお辞儀をして、帰路に着いた。


(以外と世話焼きなんだな)


 まぁ本人が気にしてないならいいか、とぼやき、俺は部屋に戻った。




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