バイト先で
翌日。
俺はバイト先のカフェのカウンターで紅茶を淹れていた。
今日シフトに入る人が体調を崩してしまい、俺が代わる事になったのだ。
「すまないね、大神君。せっかくの休日に」
「いえ、特に予定もなかったので大丈夫ですよ。あ、テーブル片付けますね」
ここのカフェは夫婦で営んでおり、ケーキ屋も兼業している。
奥さんがケーキを作り、旦那さんが紅茶やコーヒーを淹れるという役割に分かれている。
落ち着いた雰囲気のいい店だ。
最初は勉強に集中するために通っていたのだが、人手が足りなくなってしまったらしく、それをきっかけにバイトを始めてみることにしたのだ。
接客や清掃に調理、コーヒーと紅茶の淹れ方等。覚える事がけっこうあって慣れるまで苦労したが、今では厨房とフロアを入れ替わりで担当している。
空いたテーブルの食器を片付けていると、入口の扉が開き、来客を知らせるベルが鳴った。
いつもなら「いらっしゃいませ」と言う所だが今回は違う。
何故なら――
「あっ、テーブル空いてる。やったねましろん」
「ふふ、そうですね結月さん」
「ここのケーキ美味しいってクラスの子が言っててさ、来てみたかったんだよねー」
なんで天童がここにいるんだ……
接客には先輩が行ってくれた事が不幸中の幸いだった。
この店に来たのは偶然だろうが、………まずいな。
マスターには接客は笑顔で、と言われ。顔がしっかり見えるよう眼鏡を外して、髪は後ろに結ってまとめている。
天童に見られたら絶対俺だとバレる。
(厨房に避難しよう)
食器を厨房の洗い場まで運び、洗らおうとすると――
「大神君。洗い物はやっておくから、フロアの方をお願いしていいかしら」
マスターの奥さんである綾乃さんの妨害を受ける。
……逃げ場がなくなった。
「はい……分かりました」
頷き、カウンターまで戻る。
「大神君。ご新規二名様だ。オーダー頼めるかい」
マスターが見ている方に恐る恐る視線を向けると、天童の友達が手を挙げていた。
何故だ!神よ!
俺なんか悪い事した!?してないよね!?
割と真面目な方だったよね!
「はぁ……」と溜め息をつきたいのを我慢し、「了解です」と言って伝票を持ち、注文を取りに行く。
「ご注文をお伺いいたします」
いつもように営業スマイルで対応する。
……早退したい。
「えーっと、チーズケーキ二つとレモンティーとストレートティーを一つずつで」
「ありがとうございます。ご注文を繰り返します。チーズケーキを二つ、レモンティーを一つ、ストレートティーを一つでよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「かしこまりました、少々お待ちください」
注文を取り、カウンターへ戻る。なんとか乗りきった、……んなわけあるかぁぁーー!!
天童ずっと見てたよ!ガン見してたよ!完全バレてるよ!もう嫌だ!
「マスター……オーダーです……」
「あぁ、ありが……大丈夫かい?大神君。随分顔色が悪いように見えるが」
「……いえ、熱とかはありませんのでご心配なく」
「そうかい?でも無理そうだったら休憩するんだよ」
マスターの優しさが胸に染みる……なんていい人なんだろう、綾乃さんが惚れたのもなんか分かるわ。
厨房の綾乃さんにもオーダーを伝える。
「はーい、チーズケーキ二つね。大神君はそろそろ休憩入って。今お客さんそんなにいないし」
「え、でも」
「今日元々非番だったでしょ。それに少し疲れてるみたいだし、いいから休みなさい」
本当にこの夫婦はいい人過ぎる。泣きそう……
「分かりました。ではお言葉に甘えて」
控え室で休憩を取った後、「今日はもうあがっても大丈夫だよ」とマスターに言われた。
気を使わせてしまったな、申し訳ない。
時刻はまだ十七時頃でまだ明るい。
着替えを済ませて、従業員用の出口の扉を開けると――
「お疲れ様です。大神さん」
何故か天童が待ち伏せしていた。




