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おすそわけ

 週末。


 期末テストが近いということもあり、俺は勉強していた。

 いつもしている眼鏡を外して、長い髪は結っている。


 俺が髪を伸ばしているのは、昔女顔と周りからからかわれた苦い思い出があるからだ。


 以来。他人に顔を見られたくなくてずっと伸ばしている。たまに前髪を少し切るくらいだ。


 ぐー。…………そういえばもう昼か。


「冷蔵庫になんかあるかなー」


 キッチンに移動して冷蔵庫の中を確認する。


「空っぽ……」


(そういえば昨日、一昨日とシフト入ってたから疲れて買い物してなかった)


 俺は社会勉強として、ケーキ屋兼カフェでバイトをしている。


 店長がとてもいい人で、俺のような陰キャ相手にも優しく接してくれるし、シフトも学業優先で組ませて貰っている。


 家からもそれほど遠くない。個人経営だけど常連さんもけっこういる。ほとんど女性だけど。


(買い物に行かなきゃだけど勉強したいし、今日くらいコンビニでいいか)





 コンビニで買い物を済ませてマンションまで戻ると、入口付近でマンションを見上げている人がいた。


 俺は立ち止まって様子を伺う。


(あの栗色の髪は…………まさか)


 つい最近知り合った同じ高校の同級生にして学年一の人気者の天童だった。


(なんで天童がここに?しかもこのタイミングで……)


 今の俺は眼鏡をかけてないし、髪も結った状態だ。もし気づかれたら……


『うふふ。大神さんって男性なのに女性みたいな可愛らしいお顔なんですね☆』


(絶対バカにされる、どうする?)


 俺は頭をフル回転させて考える。


 一 天童が視認出来ない速度で正面突破する


 二 天童が帰るまで待つ


 三 周囲の景色に擬態しながらエントランスに突入


 四 もし気付かれてもいつもより低い声で「ヒトチガイデス」と言う。


 クソっ!考えがまとまらない!


 脳内であーだ、こーだと考えていると――


「あれ?大神さん?」


 気づかれた!?…………いやまだだ、無視しよう。


「……」


 スタスタスタスタ。


「待ってください、大神さん」


 駄目か……ならば……


「ヒトチガイデス」

「いいえ。多少雰囲気は変わりましたが、間違いなくあなたは大神さんです」

「……」

「沈黙は肯定と受けとりますね」


 ……もう無理。誤魔化せないよ……天童鋭すぎる。神か。


「はぁ……よく俺だって分かったな」

「……やっぱりあなたでしたか」

「おぉ……天童こそ、ここで何してるんだ?」


 頼む、顔の事には触れないでくれ。


「…………」


 ん?なんで黙り込んでるんだ?


「天童?」

「! は、はい。なんでしょうか?」

「いや、こんな所で何してるんだ、って聞いたんだけど」

「あぁ、そうでした。大神さん一人暮らしって言ってましたよね」

「そうだけど、それが?」


 天童は自分のバックからタッパーを取り出し、持った手を前に出した。


「……残り物ですけどよかったらどうぞ」

「え?」


 ……思考が追いつかない。なんで天童がそんなことを?


「料理は最低限できると言ってましたけど、その年齢で一人暮らしはやはり大変でしょうし……要らないならいいですけど」

「……気持ちはありがたいけど、本当に貰っていいのか?」

「はい。私少食なので、一人だと食べきれませんから貰っていただけると嬉しいです」

「……じゃあ、ありがたく貰う」


 タッパーを受け取ると、手のひらに温もりが伝わってくる。


「……温かい」

「ちゃんと温め直しましたから」

「そっか……」


 本当に温かい。


 一人暮らしに慣れてはきたけど、毎日料理をするのは少し大変だった。


 だから彼女の気遣いが普通に嬉しくて、自然と頬が緩んでしまい、素直に感謝の気持ちを伝える。


「ありがとう、天童。本当に……」

「い、いえ……別に。では、私はこれで失礼しますね」

「あぁ。気を付けてな」

「ちゃんと栄養バランスを考えた食生活を送るのですよ」

「母親かよ」


 素で心配してきた天童に、俺は微笑みながら突っ込んだ。




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